第19話「抹茶ドーナツフェア」
とある日。仄香と譲羽とカラオケやらゲーセンやらで遊んだ帰り道の駅前。
「あっ、ドーナツ抹茶フェアだよ抹茶フェア!」
珍しく僕がテンションをあげる。自分でも分かるくらいに。
「ゆーちゃん抹茶好きだもんねー。レズ戦隊グリーンだもんねー」
「レズ戦隊はなんか嫌だなぁ……」
「じゃあ下着戦隊ブラジャー?」
「前にやってたね……それもヤだよ……」
説明しよう! 下着戦隊ブラジャーとは! 温泉に遅れて着替えにきた僕を驚かすために、四人が戸惑いながらも下着姿で出てきたの時の話であった! いや、アホったらありゃしないよ……。
ブラジャーはともかく。ドーナツを食べる為に店の前へ。僕はだらしなく緩んだ口で、ドーナツの種類を伺う。
「あぁ、抹茶味がこんなに並んで……でもおこづかいも少ないし、どれを食べようっかなぁ……。迷っちゃうなぁ……」
「百合葉ちゃん。じゃあ、アタシが……オゴル……」
「いやいや、それは悪いからダメだよ。あんまり奢られる関係って好きじゃないんだ」
大人になったら、奢り奢られもあるのかもしれないけど、余裕のない今はそんな甘い囁きにノる訳にはいかなかった。だってそれ、僕の嫌いなヒモ男みたいになっちゃうじゃん……。
「じゃあ、アタシも食べたいから、買ったやつを、百合葉ちゃんに一口分ける……。そして、アタシも食べる……平等……」
「それやっ! みんなでシェアシェアシェアリングやっ!」
「シュ? シュワシュワ……?」
「シェアシェアリング?」
「ちっがーう! シェアシェアシェアリング! みんなで! 思い出とか共有する! あれよ! 例えるなら……か、カーシェアとか!?」
「うん、僕らの年齢じゃ出来ないね」
「エロ本シェアとか!」
「思春期男子かっ!」
そんな事したら、女子の名折れだよ……。もしかして普通の女子もしたりする? ま、またまたー。
ま、薄い本だったらめっちゃあるだろうなって思った。
「シェアは分かるよ。共有するとか、分け合うとかって事ね」
「そう! 味わい思い出! 味見て分け合え!」
と、軽く韻を踏んでラップをする仄香。
「でもいいの? 二人とも、他に食べたいのあるんじゃないの?」
「んー? それなら、この前ゆずりんと二人で全味制覇やったばっかだから別にー」
「抹茶フェアの前だったカラ……。今は他のはいいカナ……」
「そうなんだ……楽しそうでいいなぁ」
なんて、いつの間にそんな楽しそうな事をやっていたのやら。写真とか送って欲しかったなぁと僕は
「あっ、ゆーちゃんダメな日だったからさぁ! 唐突に食べたくなっただけだからさぁ! 今度またやろーよ!」
「はは。ありがとう」
感謝を言った。でも、我ながら少し乾いてしまったように感じる。その無駄遣いは、僕には真似できない事だから。
だが、その気持ちがバレたのか、譲羽が、「でも」と続ける。
「優勝商品扱いにすれば、百合葉ちゃんのお財布に、響かない……ワッ!」
キリッと人差し指をさすゆずりん。
「でも、僕が負けたら?」
「その場合は……どこまで食べれるかっていう、罰ゲームにスルッ! アタシ天才ナノデハ……?」
「……ぷっ、あははっ! ユズ何それっ! どっちにしろ食べれる事になるでしょ!」
「もーやべーなぁー! どう転んでもゆーちゃん食べまくりじゃーん! ゆずりん天才じゃーん!」
「エッヘン」
と、つい笑ってしまった僕と仄香に言われ、胸を張るゆずりんであった。
※ ※ ※
「ああ、もちもちとした生地に練り込まれた優しい抹茶味……。上から掛かった抹茶ソースとナッツが良いアクセントになってる……」
「抹茶クリームやんべー。甘さとろけるぅーう!」
「オーソドックスな抹茶チョコがかかってるダケ……。でも、それもまたヨシ……」
と、それぞれが感想を言う。三人してニンマリして、ハズレ味が無いことが伝わる。
「そして三人チェーンジっ!」
言って仄香は、僕らのお皿をくるっと時計回り。別の味に切り替わるようにする。そして、そのまま自然な流れで僕らは回ってきたドーナツを一口食べる。
「ああ、定番の味もいいね……抹茶はアタリだ……」
「だいたいアタリだから安心だよねー。んー美味しーっ!」
僕と仄香はまた笑顔で食べる。そして、またお皿を回転し、みんなが全部を美味しく味わえた。そこで譲羽が、満足そうに、深く吐息を吐く。
「こうやって、味を分け合うの、イイネ……。今までは、食べたいだけ注文すればイイって思ってたケド、一人でもぐもぐ食べるよりも、心が満たされる気がスル……」
「そうだよねぇ。みんなで分け合えば、味を共有出来るから。美味しい味を一緒に楽しめる」
「でもゆーちゃんがケチなのは間違いないよねー」
「そ、それは言わんでいい……っ!」
良い話から僕の悪い癖でオチが付いてしまった。少し不服だけど、まあこれもこれでいっか。
そこで、譲羽は何か考えるポーズ。
「そういえば、食べさせ合いっこ……してない……」
「お店とかだと三人はやりにくいからね。や、やる?」
「ウン……ッ」
と、そこまでお求めなら……。二人と違って三人で食べさせ合うのは、どうにも気恥ずかしい。隠れにくいからかな。
ドーナツをの丸い部分をちぎって、譲羽の口に入れる。満足そうな彼女。なんだか餌付けをしてる気分。
そして、僕の口にも運ばれる。しかし、抹茶チョコがユズの指に付いたままになってしまった。
「あっ……ほら、舐めとッテ……?」
「あ、うん……」
なんだかこのやりとり、前にもあったような……。軽く舐めとると、やっぱり恍惚とした表情を……少しアブナい感性な気が……。
「フフフ……。アタシ、なんだかこうやって、食べさせ食べさせてもらう関係……好き……。お互いが面倒見る感ジ……」
「そ、そうだね」
ちょっと依存じみてる気がするけどね。でも、僕だって彼女の面倒を見る感じは好きだ。逆はなんだかむず痒い。
そう、ゆずりんは、主従関係の中二病も患ってるせいもあるからか、たまにSMみたいな関係になってしまう。しかし、普段は僕が彼女を甘やかす立場だったり。
「仄香とユズは? 食べさせ合わなくていいの?」
「うーん、席離れてるからなー」
僕らの席はカウンター席だった。だから僕が真ん中に居ると、ほのゆず出来ないのだ。百合厨として少し残念な気分。
「デモ、仄香ちゃんとはいつも食べさせ合ってる……。だから、やらなくても、イイカナ」
「うぇー! ゆずりんつめたーい!」
「あははっ」
なるほど、僕の見えない所でほのゆずしてるんですね……。うーん、百合厨大満足っ!
※ ※ ※
ドーナツを食べ終え、目玉の抹茶味を味わいきって、大満足。お店を出て帰路につく。
「ゆーちゃん抹茶フェア大満足だったしょー。今度は食べ放題にしちゃうー?」
「確かに、好みの味だからすごく美味しかったよ……。でもね」
ちょっと考える……。全部の味とも美味しかった。だけど、これが三倍以上となると……。
「いくら好きな物でも、全部一人でオール抹茶にしたら……クドくなりそうだね」
軽く千文字くらいで済ませるつもりが、3000文字に……。
去年だったか、ミ○ドで食べた時に思い付いたメモを書き上げたお話でした。
でも、肝心の味の感想が書いてなくて、完全にイメージです……メモの意味!
 




