第46話「体育の着替え」
クラスメイトが体育館の隅で談笑するのを横目で見つつ、僕の美少女たちが居ないことに気が付いて、やってしまったかと落胆しながら僕はその扉を開ける。たぶんまだ……。
「ゆーちゃん遅いよー。なにやってたのー」
「えっ……先に行ってても良かったのに」
「仲間を待つのは当然だろう。仲間外れは……よくないからな」
「ナカマ……フレンド……一緒……」
「そうよねぇ~。一緒に……ねっ?」
「あ、うん。ありがとう」
感動のセリフのなか申し訳ないんだけど……先に行っててと言ったんだから、本当に先に行って着替えてくれれば良かったのにぃ……っ! なんで僕が来るより先に着替え終わってくれていないんだ……着替えるのは待つ必要なくない?
混んでるのが嫌だから、入り口で待ってただけだろうけど……。
そして咲姫ちゃん? なんで目をキラキラさせてるのかな? 下心……? 下心なの? それは。
今は体育の時間の前。みんなで着替えるのがなんだか恥ずかしいから、着替え終わるタイミングを待ってこうやって来たっていうのに……ありがたいけど困ったものだ。
「あぁ、もしかして、激しい運動の前にトイレでナニをヤっていて……うっしっしっ……それは仕方がな……いたいっ! めっちゃ痛いようっ!」
「そういう下ネタはやめなさいっ!」
なんなんだこのセクハラ百合娘は……いや最初っからそういう節はあったけどさ……。随分アクセル前回でセクハラをかましてくるものだ。
でも、お笑いコンビのツッコミ程度にしか叩けないのであった。大げさに音を立てるけど、痛くはないように。女の子相手には、てんで弱いのだ僕は。
そんな中、僕らのやり取りを聞き眉をひそめていた蘭子が口を開く。
「百合葉、学校でそんなことを……。人の趣味にとやかく言いたくないが、ドン引きだ」
「しないわっ! ちょっと本気にしないで!?」
とんだ風評被害だよっ! 今は他のクラスメイトが誰も居ないから良いけどさ……っ!
「どったのゆーちゃん? そんな微妙な顔でじろじろ見てー」
「いや、仄香がドギツイ冗談を言わないように、目を光らせておかないといけないと思ってさ……」
「目を光らす? サーチライト? あたしの着替えを見たくて? やぁーん!」
「もういいわ……」
構ってるぶん時間が過ぎるだけだから、今は無視することにした。流石に授業に遅れるわけにはいかない。
はてさて、のんびりしては居られないし。急いで着替えようと思って更衣室の奥を陣取ろうとすると、譲羽が僕の裾をちょいちょいと引っ張って耳打ちする。可愛い。
「百合葉ちゃん生理とか……便秘とかなの……? ダイジョウブ?」
「いや、違う違う。トイレにはそもそも行ってないよ。ありがとね」
そうそう。普通、時間がかかったと言ったらそういう心配が先に来るものだよなぁ。セクハラする仄香がおかしいだけで。
「えっ……ゆーちゃんトイレ以外でナニする趣味あんの……? やぁーん、えっちぃ~」
「やめなさいその話題はッ!」
もう、黙って着替えることにした。




