第05話「蘭子と猫?」
珍しく僕は電車で登校した。
その、駅から学校への途中、蘭子を見つけた。黒髪ロングで背も高いから分かりやすいんだ。
しかし、その後ろ姿はどうにもふらふらしていて、なぜかわき道に逸れていく。なんだろう、体調でも悪いのかな……。
吐いたりしてないといいけど……と、僕は急いでその後を追っていったら……。
「どうしたのかニャー。飼い主とはぐれちゃったのか……ニャー」
なんて、チワワに話しかけてる蘭子が……。
「ら、蘭子……?」
「は……っ。百合葉……」
信じられないモノを見たというような顔で、蘭子が驚く。いや、驚きたいのはこっちなんだけど。
「今のは……忘れろ」
「……やだ」
とても笑いそうなのを必死に堪えて、僕はそっぽを向く。すると、焦りだす蘭子ちゃん。
「百合葉? 忘れないと……アレだぞ? 放課後に椅子に縄で縛りつけて、延々と胸をもみ続ける刑にするぞ……?」
「えーどうかなー? そんな事言われてもー。とても可愛すぎてー忘れられないかなー? しかも語尾にニャーだなんて……。その子、チワワだよ? 犬だよ? ワンじゃないの? ほら、やり直しに鳴いてみてよ、ワンって」
「百合葉~っ」
「うわバカっ、外で胸揉むなっ!」
登校中に乳繰りあってる女子高生だなんて、二人のカンケイが怪しまれるよっ。いや間違ってないんだけど! そんなカンケイなんだけどさっ!
「わ、私だって……似合わないとは思ったんだ……っ。次からはこんな事をしないと決めたのに……。その唯一の一回を百合葉に見られるだなんて……一生の恥だ……」
「まあそうだね。一生ネタにしてあげる」
「くっ……。んっ? それは、一生そばに居てくれるというプロポーズか?」
「さあ、それはどうだろうねー。一生ただの友達かもしれないしー」
「百合葉ぁ……」
悔しそうな蘭子の顔。いいね……やっぱり美少女の顔はどんな表情だって愛せる。
ちなみに、僕らはレズだから一線というのが曖昧なだけで、もはや性的な関係ではあるから、ただの友達では済まない。しかし、蘭子はそれだけでは不満みたいだ。
僕は目の前のチワワを撫でる。うんうん、人慣れした可愛い子だ。凶暴とかじゃなく、たまたま何かの拍子に逃げ出してしまったのだろう。それに、のんきにあくびしたりして、猫みたいな雰囲気もある。間違えるのも仕方ない……仕方ないか?
「冗談はさておき。ワンだろうがニャーだろうが、可愛いからいいんじゃない? 蘭子、かわいいよ蘭子」
「くっ……。完全にバカにしているな……。だって、クールな私に似合わなくて、格好良くないじゃないか。試しただけでも大失敗だ」
「そんな事ないと思うよ? かわいい蘭子の姿を見られて僕はラッキーさ。蘭子、かわいいよ蘭子」
「ほらバカにしてる」
「えー。僕は本当に蘭子がかわいいと思ってるのにー」
「アホ、百合葉のアホ。ド変態」
「ド変態は君の方だけど……」
さっき、僕を椅子に縛り付けて胸揉むとか言ってなかった? 僕はやれやれと嘆息しつつ、目の前でぐるぐる回って遊んでいるチワワを眺める。また逃げる前に飼い主を探す必要があるかな……それとも、警察に言えばいいのだろうか。ついでにセクハラ魔を突き出そう。
と思っていたそんなとき、シフォンちゃ~んと呼ぶ可憐な声が。
※ ※ ※
「シフォン……か。美味しそうな名前だな」
「そうだね……ケーキみたい。あの子にピッタリな名前だし、お姉さんらしいなとも思ったよ」
僕がそう言うと、蘭子は不審がる目つきで僕を見る。
「百合葉、お姉さんと話すとき、やけにニコニコしていなかったか」
「えっ? 僕は常に笑顔を心がけているけれど」
「違うな……。分かるぞ? いつもより、二割増しでニコニコだった。爽やか通り越して天使の微笑みだった。この女好きが。クソレズが」
「僕は天使なのクソレズなのどっちなの……」
百合のキューピットとかなら悪くないと思うけどね。しかし僕はレズなのであった。
「いやいや。綺麗なお姉さんを見たら、誰だって嬉しいものでしょ。それになんだか、咲姫に雰囲気が似てる美人さんだったなぁ~って」
「百合葉。今日、学校終わったら椅子縛り付けの刑な」
「なんでっ!?」
あからさまなギャップ萌えってあんまり好きじゃないのですが、
蘭子ちゃんのギャップはとても好きです(宣言)




