第04話「譲羽と百合と主人公」
二年生始まって初の休日。この日、譲羽との約束通り僕の家で、一緒に百合漫画を読む約束をしていた。
そんな彼女を僕の部屋へ迎えたあと。帽子を脱いだ彼女に対して訊ねる。
「その額のアザどうしたの……? 痛くない?」
「昨日、漫画よんでてネ」
「うん」
「手にしてるのは百合漫画じゃなかったはずなのに、唐突に百合が来て、その余りの不意打ちと尊さに、拍手してドアに頭打ち付けちゃったノ」
「新手の参拝方法!?」
「……チガウ。百合神様への感謝……」
「だいたい合ってるような……」
気持ちは分かるけどね。それにしても、自分の体を痛めつけるとか、彼女の感受性は中々のモノだ……。
譲羽の持ってきた漫画を読む。ゲームが元で、百合漫画……では表面上はないけれど、百合を感じさせる物らしい。彼女はそのゲームをやりながら横で読んでいる。
「そうっ! ここ! ここが! めっちゃ……イイ!」
「ユズ、語彙力は?」
「死んだ。尊さによって」
「そっか……」
ゆずりん小説書いてるはずなのになー。でもそういう事ってあるよなー。
「確かに、あんまり意識してなかったけど、いいねこれ……。なんというか……良い」
「百合葉ちゃんも語彙力死んデル」
「気持ちはよく分かったよ……」
そう。オタクたるもの。深い浅いかかわらず、尊いモノを前にしたら語彙力が死んで、下手したら知能指数が五歳児並みになってしまうのだ。だから、譲羽は壁に頭を打ち付けた。QED証明完了である……言うほど証明だった?
「でもね、この作品の主人公……。プレーヤーやアニメが男性設定だから……。ネット上の二次創作だと、男女の恋愛になっちゃうの……ぐぬぬ……。弾性キャラに恋する夢女子が居るように、男性ファンのそういう気持ちも理解したいのに……ぐぬぬ……。百合っぽいのに……」
「そういえばそういう作品だよね。百合っぽい感じ」
確かに、プロデューサーだかトレーナーだか。女の子をサポートするプレーヤーの視点は男性がメインの二次創作は多いだろう。アニメがそうなら仕方がない面はある。
「百合葉ちゃんはガチレズで百合厨なのに、そういう悔しい感感情は無いの?」
「ガチレズは否定しないけど、百合厨としてはまだまだ知識が浅いからなぁ」
心の中では百合妄想はやってるけど、さすがに現実には百合妄想を出さないようにしてるし、女の子二人男一人の組み合わせにはぐぬぬと感じてしまう。
世の中はむしろ、男女のペアの方が自然なのに、女の子同士で仲良くしてよと思ってしまう。しかし、外でまで百合厨を出すキャラじゃないのだ僕は。
「でもね。明らかに百合キャラなのに、そこに挟まってる男キャラが居たら?」
「撃ち殺す」
「やっぱり、百合葉ちゃん根っからの百合厨デショ。過激派の」
「はい」
バレてしまった。いや、前からバレてはいるか。
どうやら譲羽は、ファン同士の仲も考えつつ、自分の気持ちに迷いがあるみたいだ。
一方で、僕は男嫌いなので、女の子キャラと自己投影しやすい男キャラとのカップリングというだけでも憎悪してしまったり。いやあれよ? 少年マンガみたいに、ちゃんとキャラがある男の子だったら別に良いんだけど。
こういう過激派な性格もネタとしてならともかく、やっぱり深く語り合う時には邪魔になりそうだなって思った。これが拗れると、どっちがタチかという逆カプ戦争みたいになるのだろう。
ゆずりんが百合葉ちゃんの家に来るというお話予定だけあって、そこに前話から繋げる為に書き上げました。
いくら自由とてネタ被りは良くないかなと、咲姫ちゃんと似たような話にならないように注意しました。
そこに、最近思った事をキャラに言わせちゃう……。
キャラ達の主張はだいたいどれも私の中で芽生えたモノなので、自分の中の議論をうちの子たちでやってるような?
たまに、読者の事を考えずに自由に書いてますね。ついでなら、もっと面白く書きたい。
作者の主張をキャラに言わせるのはどうなんだ~っていう議論はありますが、
うちの作品は、百合とは、性別とは、オタクとは、など辺りは作品の根幹に関わるので、キャラに違和感ない限りは書いて良い気がします。




