第48話「ナイタースキー」
昨晩は蘭子も、そして向こうの部屋の藍羅ちゃんも参加の魚釣りバトルで、逆に咲姫と譲羽というベテランが居なかったモノだから、勝っては負けて、仄香が妨害し過ぎて引き分けになっての、もうわちゃわちゃ泥試合であった。
そんな次の日。眠いながらもスキーの試験を終え、待ちにまったスキーの自由時間となった。お昼ご飯を食べ終えた僕らはゆったりと滑って遊んでいた。
しかし、冬の夜は早いモノで、夕方には空がもう真っ暗になる。一方で真っ白だった雪の斜面はオレンジ色に染まる。
ナイターの灯りだ。
だから、まだ夜と呼ぶには早い時間というのに空は暗く、ナイタースキーの状態になる。一方で、遠くには街の灯りが見える。普段、山の上に見える景色は、逆側から見るとこんな感じなんだなぁって思う。
まあ、あの街は僕らの街じゃないけど。もうちょっと離れてるけどね。
「やっべぇねっ! ナイター! 夜ってのは中々ないよ! テンションあがるぅ~っ!」
「しかも学校で貸し切りだからね。邪魔にならないから自由に滑れるよ」
「よっしゃ! じゃあスキーレースだっ!」
「えっ?」
仄香からまさかの提案だった。確かに出来なくはないけど、スキーレースなんて危ないから、思いもよらなかった。
「また競争するのぉ~? ほのちゃんどれだけ好きなのよぉ~」
「いやね! チョーテン目指したいとかじゃなくてさー! バトルしたいお年頃なのよぉ!」
「バトルしたいお年頃って何?」
一種の、喧嘩っ早い中二病男子の感覚だろうか。仄香って最初はザ陽キャ女子みたいだなぁっと思っていたけれど、男子っぼいところもいっぱいあったりするみたいだ。
そこに、蘭子がわざとらしくコホンと咳払い。
「私はやりたいな。百合葉との勝劣を付けたいと思っていたところだ」
「そんな様子ぜんぜん無くなかった?」
この子はこの子で、冷静沈着で背伸びして大人っぽくしてると思ったら、案外バトル好きであったり。というか、僕を打ち負かしたいだけなんだろうけど。
「あ、アタシは……全然自信ない……カラ、みんなを後から追って、遠くから眺めるネ……。その方が面白ソウ」
「わたしもぉ~。流石に蘭子ちゃんとは勝負にならないわよぉ~。"上"から楽しんでるわねぇ~」
「咲姫、なんだその気に障る言い方は……まあ良いか」
「そうよぉ~。頑張ってねぇ~」
と、姫様は最初から勝負するつもりは無いみたいだ。なんだか、争いは下々のやる事みたいな感じを覚えるなぁ……。
「とりあえず、怪我しないよう気を付けていこうね」




