第46話「魚釣り大会」
『よーい!』
と、仄香のキャラがゲームチャットで言うと、チリンチリンという音と共に釣り大会スタートの合図が。
しかしそこで、仄香のキャラが笛を取り出し、ポヒョヒョという音が鳴り響く。
『スタート!』
『いま仄香が出したしょぼい音がスタートなの? アナウンスもあるのに?』
『しゃーないじゃーん! 良い感じのホイッスル無かったんだからー!』
『……クラッカーで良かったンジャナイ?』
『その手があったか!』
譲羽にツッコまれて、気付く仄香。しかし、その間にも、咲姫は全力で森を駆け抜ける。
『百合ちゃん勝つわよぉ! 優勝商品は百合ちゃんのおっぱい!』
『いやそんなの無いよねぇ!? そもそも僕ら同じチームだし!』
もはやテンプレのギャグと化しているようだった。いや、僕の胸が軽視されてギャグ扱いって納得がいかないんだけど。納得いかないんだけど? 僕の胸そんなに軽くないんだけどっ!?
チームは部屋ごと。どっちのチームが魚の売り上げを稼げるかという勝負だ。
なので、量よりも圧倒的に質だ。大きな魚影の、高く売れそうな魚を狙う。
「さっ、大物を釣るわよぉ。いぇ~い、カジキマグロ~」
「いきなりすごいなぁ咲姫は。おっ、これは大物に違いない……ってスズキさーん!」
僕が最初に釣ったのはこのゲームのハズレ枠、魚のスズキだった。魚影が大きいから、レアな魚と勘違いしやすいのだ。
「駄目ねぇ百合ちゃん。もっと雰囲気で判断しないとぉ」
「大きいと思ったんだけどなぁ」
いつもいつも、大きな魚影を見て、今回こそは。いやいや、今回こそはっと思ってもやっぱりスズキなのは、このゲームシリーズの永遠の罠なのかもしれない。
「あっ、あれは背びれ付いてるし、絶対に大物でしょ……」
「そうねぇ、慎重にいくのよ?」
「もちろん。体が覚えてるからね」
小学生の時以来とはいえ、夏休みだけでローンを完済するくらいにもやり込んだのだ。今は引退しただけで、当時の僕はこのゲームのプロ意識を持っていたのだ……。
魚がエサをつついて……つついて……魚影が大きく助走を付けて……。
今だっ!
「あーっ!」
「やぁ~んもうっ! 百合ちゃんタイミング下手ぁ~」
「ごめんごめん。久しぶりだったもんでさ」
まさか、こんな凡ミスをするとは……。昔の僕なら許せないだろう。ああ、数万ベルが消えていく……。
「やっぱり体に覚え込ませないと駄目みたいねぇ~。ほら、そんなに堅くならないで? リラックスリラックス~。先の部分に神経を注いで、最初は刺激になり過ぎないように、指先で撫でるように撫でるように……」
「咲姫、それ釣りの説明じゃなくない?」
「やぁ~ねぇ~。百合ちゃんったら変なコト妄想しちゃったのぉ~?」
「釣りに撫でる要素なんてあるかっ!」
「まあまあ。わたしたちが優勝したら、ゆーちゃんのおっぱいの先を撫でてあげるからねぇ~」
「だから優勝商品じゃない!」
僕は理想のお姫様がこんなドスケベな子に育って悲しいよ……。いや、僕のせいなんだろうけどさ。
 




