第39話「スキー研修」
「スキー研修じゃーい! 乾杯だぁ~!」
「いぇ~い! かんぱぁ~い!」
仄香が持ち込んだクラッカーを鳴らし、続いた咲姫ちゃんの声で僕らはペットボトルの飲み物を掲げる。
雪国の冬のお決まり、スキー研修が始まった。
僕らが乗るのはなんと、定員十名の大型バスだ。それが、駐車場に何十台と並ぶ姿は圧巻だった……。そこそこのお嬢様学校なのに、宿泊先がスキー? と意外だったけれど、こんなところでお金を使ってる……。国外とかじゃないんだね……。
しかも、山の一角とホテルが貸し切りらしい。なんなのその微妙な優遇感は。
まあ、そんな感覚が、そこそこのお嬢様学校という事なんだろう。本気のお嬢様というよりも、それなりにお金があるご息女の通う学校なのだ。
駅から出てるような庶民バスをイメージしていた僕にとって、そりゃあ乗り心地は最高だけど、ある意味で落ち着かない。進行方向に対して横向きの座椅子が向かい合うから、5人で話せて最高ではあるけど。
いや、楽しいじゃないか! 落ち着かなくてどうすんだ! 僕はぐいっとマスカットのスパークリングジュースを飲む。それを見て、飲んでいた仄香が微笑む。
「ぷはぁ! やっぱ旅ったらこれよなぁ!」
「旅の……醍醐味……。みんなでジューズ、お菓子、オシャベリ」
「いぇい! 喋り場オシャベリズム!」
と、また仄香と譲羽がボトルで乾杯する。仄香はコーラ。譲羽は微炭酸サイダーだ。そして、合間にスナック菓子のジャガ棒をつまむ。確かに最高の旅の始まり感だ。
そこへ、蘭子がニヤリと笑い、仄香に対してわざとらしく唸る。
「うーむ、旅で乾杯なら、なんだか冬休みにやったような気がするが。ああ、仄香と譲羽が居なかったか。すまんすまん」
「ぬわっ! あの時まじシットだったかんな! シィーットだったかんな!」
「それ、嫉妬なのかクソがって言ってるのか分かんないよ」
冬休みに咲姫と蘭子との三人で日帰り温泉に行った時の話だ。蘭子なわざとらしく取った自撮り写真をlimeに貼り付けたから、仄香がぷんぷんしてたのだ。
譲羽も、いま現にぷんぷんしている。いやこれ、口をハムスターみたいにしてサイダーの炭酸を抜いてるだけだわ、可愛いなぁ。
「でも静かなるジェラシィ……。アタシと仄香ちゃんで、夜泣きながら乾杯したもの……部屋暗くして、貴女たち三人の写真をアロマキャンドルで囲んで……ネ」
「ユズも予定のタイミングが合わなかったもんね。ごめんごめん……ってかそれ楽しんでない?」
怪しげな儀式みたいだけど、泣きながらアロマ焚くってなかなか強いメンタルだ。いや、そういう悲しみの慰め方もあるかな。
感覚庶民すぎて、お高い所に旅行するイメージがなく、
お嬢様学校の宿泊先にスキーってどうなの? って思い悩みましたが、それもネタにする事で乗り切りました笑
なんでもネタにする。それが大事。
 




