第43話「調理実習の班」
合わないコンタクトを外したのか、咲姫の目は落ち着いたようで、授業に集中している。
一方で僕は、穏やかな陽光に、少しうつらうつらとしてしまいそうであった。そんな、朝一番の授業。暑くないのがまた憎く、今日はなんだか日差しが温かく程良いくらい。
まだ四月始めとはいえ、こんなに直射日光をあたり続けると、左側だけ妙に日焼けしてしまうんじゃないかという不安は、「本校の窓は全てUVカットガラスである」という、学校案内のパンフレットの触れ込みを思い出す事によって、雲散霧消した。なんて、考えてる場合ではないような?
しかし昨日、咲姫の蘭子に対する好意のせいで、なんとももやもやしたまま眠りについてしまったので、座学に集中しきれない。家庭科の栄養バランスのメニューが、古代文字の暗黒物質に変化を遂げない程度には睡魔に打ち勝っていた……そんな中……。
ペチッと。
痛っ……? くはないけど……。なんだ? 何かがぶつかったなぁ。
顔を上げてみれば、蘭子が何やら腕を引っ込める最中。
僕のひたいを目がけて何か投げてきたみたいだ。
そう思い証拠のブツを探すと、それはすぐに見つかった。机の上に小さく折りたたまれた紙の塊……。
……ああ、手紙か。
一人ぼっち出身の僕にとっては、女子同士のそんな文化無かったからなー。最近もらえる立場になって感動しちゃうなー。
なんて、心を踊らせている場合では無かった。内容内容っと。
『調理実習は、私と同じ班になれ』
調理実習……ああ、いつの間にかそんな話になっていたのか。目は開いてたいずなのに、ボーッとしすぎだ。いやそれ、寝てない主張なだけで、意識飛びかけてますね……。
そうして、僕は手紙に視線を落とす。うーん、『同じ班になれ』と。なんで命令口調なのかな、この子は。しかし、よくよく考えてみよう。わざわざこのような面倒をしてまで釘を刺してきたのである。僕と一緒が良い――と。高飛車ながらの素直さ半分のアプローチ。まだまだ他の子たちとも仲良くなりかけているさなか、彼女の中では僕を、気が許せる友人と置いているのだろう。嬉しいなぁ。やっと、彼女をオトすスタート地点に立てたワケだ。
それならば、僕も……。
蘭子の右肩をチョンチョンっと叩く。僅かに振り向いた彼女には手紙を返す事なく――――。
『いいよ』
「――ッ!?」
その大きな背中に指で文字を書いてみた。なぞり始めた瞬間、彼女が息を静かにしゃくりあげゾクゾクっと身震いするのも束の間。前にプイッと向き直すも耳が真っ赤な蘭子ちゃん。やぁ~んっ! 激萌え過ぎて鼻血の噴水を作っちゃいそう! よぉ~っし! マーライオンには負けないぞーっ!? って、それ血ぃ吐いとるやんけーっ!
とにかく蘭子ちゃんかわいいかわいいなのである! んん~結婚したい!




