第35話「チョコレートの像」
みんなにバレないよう、一度帰宅した後の、バレンタインの放課後。蘭子に招かれて彼女の家に。
実は忘れたのではなく、作ってるうちにバレンタインチョコが大きくなって、学校に持って行くのが難しかったらしい。どれだけデカいんだか……。
蘭子の家に付き部屋へと通される。そして、彼女の部屋のドアを開ける前に、彼女はひと言。
「あっ、せっかくだから、裸にリボンを巻いて、チョコの代わりに私を食べて? ってアレも、やっとくか?」
キュルンッとでも言わんばかりに蘭子が手を組み上目遣い。
「いや……アンタがやると似合わないわ……」
「もちろん百合葉がやるんだぞ?」
「やらないよっ!?」
どんな妄想なんだか……。現実でアレを真似したら、大した猛者だと思う。
そうして、ついに彼女の部屋に入る。その目立つ位置に、布と箱が被せられ、大事に置かれた謎のチョコが……。
「さあ百合葉、見てくれ。チョコを作るだなんて考えたことも無かった私が、初めて限界に挑戦した力作だ。ぜひ、愛する君に食べて欲しい」
そう言って、彼女が箱を取った先には……。
「こ、これは……なに?」
「チョコレート百合葉像だ」
「なにそれっ! いや見れば分かるけどさ!」
チョコレートで彫刻された、僕の像なのだった……。料理は微妙なくせに、芸は細かいな……。
「何度か作り直したから、時間が掛かってしまった。しかし、会心の出来だと思う」
「いや良く出来てるけどさ……。僕、ここまで巨乳じゃないし太ももムチムチじゃないんだけど……」
「なに、数年後の未来だ」
「全力で阻止してやる!」
今でも無駄肉が付いて嫌なのにっ! ダイエットしてやる……ダイエットしてやる……っ!
「はっ……」
「ど、どうしたの……?」
「百合葉にチョコレート百合葉像をあげたら、私がチョコレート百合葉像を食べられないではないか……。せっかく作るなら、チョコレート蘭子像にして、百合葉に食べてもらうべきだった……」
「知らないよ……」
「いや? 百合葉に私をいただかれるワケにはいかないな……。ならばやはり百合葉像で間違いない……。百合葉が百合葉を
食べる? 百合百合葉? セルフカップリング? ふふふっ、間に挟まりたいな……。ああ、ヨダレが……」
「百合の間に挟まりたい男みたいな事を言うんじゃないよ……」
もし蘭子が男だったら、ゆで卵スライサーでウィンナーの如くカットしてやるとこだったよ。百合に挟まりたい男……捌いてやるよ……っ! 罪をいだいて散らしゆけ……男の拷問器具!
なんて、脳内の過激派百合厨を遊ばせてないで、僕は目の前の美少女を見る。僕へのプレゼントと言っていたけれど、自分で眺めてうっとり、食べたら残念がりそうだ。
「そもそも、百合葉を食べるのは私なのだから、私が自分の分のチョコレート百合葉像を作って食べればいいのか……。ミニ百合葉を全身くまなく舐めてあげるからな?」
「発言が気持ち悪いわ……」
「せっかく自分で作るなら、より私の理想の百合葉にすべきだよな。胸はIカップくらいにして……」
「ずいぶんと盛るね……」
「そして、私との間に出来た赤ちゃんに授乳中の像だ」
「待って……!? それはマニアック過ぎるよっ!」
「マニアック? 私の理想の未来を否定するつもりか?」
「否定するわっ! 同性での赤ちゃんは無理だわ!」
「そんな赤ちゃんに注がれる百合葉の愛に私は嫉妬して、反対側のおっぱいを飲んでる」
「設定細かいな! ってかアンタも居るんかいっ!」
「そして、そのお腹はまた大きく膨らんでいて、二人目の子を宿している」
「赤ちゃん作るペース早っ! 授乳する子が二人とか負担が大きすぎでしょ!」
なんてこだわった設定なんだ……。彼女の具体的な将来設計が不安になる……いや無理なんだけどさ。
「百合葉から今年のバレンタインはもらってしまったから、来年のお返しは、チョコレートフォンデュした百合葉を食べれると期待してるぞ? それなら、最初に裸でリボンも出来るな?」
「それはない!」
相変わらず、愛が重いんだか馬鹿なんだか分からん美少女なのでした。




