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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部三章「百合葉と美少女たちの冬」
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第29話「フォアマイバレンタイン」

 とある冬の学校帰りの薄暗い夕方。一面が雪景色だから、光が反射して意外と明るいけれど、それでも夏に比べたら日はとても短くて。暗い中で一人で歩くのはあんまり好きじゃないから、僕は自然と歩く速度を早める。



 その歩みに合わせてガシャガシャと鳴るエコバックが少しうるさい。手から下げるよりも抱えた方が楽かなと、赤ちゃんでも抱くようにして家に帰宅した。



「よぉっし! 美味しいトリュフを作るぞっ!」



 そう、バレンタインチョコレートの買い出しをしたのだった。



 こんな日だから、当然僕らは部活に集まる事はなく。それぞれが自然と帰る事に。みんな、チョコの準備なのだろう。しかし、咲姫と譲羽はもうすでに取りかかっているのだと言う……。すごいなぁ。それとも、それが普通なのかな。



 キッチンの机に器具やら溶かすチョコレートやら並べる。女に生まれておきながら、バレンタインチョコを作るなんて初めてだ。昔から効率主義だから、ただチョコを溶かして型に流し込んだ物よりも買った物の方が美味しいし、手間もお金も掛からないと思っていた僕が……。



 作るようになるだなんて……っ!



 これも、女子たちの女子力に影響されているのだろうか。僕としては、一人でも家事がこなせる主婦力さえあればいいやと思っていたけれど、こういう可愛げのある事もたまにはいいかもしれない。



 めんどくさいと思っても、好きな子のためならなんのそのだ。レシピは頭の中に叩き込んである。実を言うと僕自身が食べたいのもまた大きいけれど。



 いや、だって食べてみたくない? 手作りチョコトリュフ。食べたいよね? じゃあ、みんなにあげるという口実に、自分の分もいっぱい作っても、いいよね? 自分のためのバレンタインにしちゃっても、いいよね?



 なんて、自分大好きナルシストじみた言い訳を考えて、僕は腕をまくるのだった。



 サクサクと進めていくチョコ作り。溶かすのも混ぜるのも上手くいった。直接チョコを入れた鍋を火にかけたり、熱湯を入れて溶かしたりなんてミスはしない。



 しかし、そういう知識的に回避できるミスとは別に、大きな壁が僕の前に立ちはだかった……。



「形むずっ……」



 生クリームを混ぜて柔らかくなったチョコを丸める行程だ。んんん? これどうやって綺麗に丸めるの? 形が全然整わないし、ココアパウダー程度の粉じゃ、形が悪いのを隠しきれない。



 チョココーティングで誤魔化そうにも、そのコーティングもダラダラとチョコが垂れて形が歪だし……。くっ、これだからお菓子作りは嫌だったんだ! 家庭料理くらいなら、多少包丁捌きが雑でも誤魔化せるのにっ! ……いやそれはずぼらだねっ! カレーの人参の大きさがバラッバラとかずぼら力だねっ!



 こんな所で、僕の女子力の無さが露呈してしまった……。いや、そもそも女子力なんて要らないんだよ……。男になんか頼らず、女一人でも生きていける生活力さえあればいいんだよ……うん。それ一人暮らし力か。



 でもそう思ったところで、目の前の形の悪いチョコが綺麗になるワケはなくて。めんどくさがりの効率主義だから、作り直しなんてしたくない……。そうだよ。チョコの形がイビツでも、パッケージと手紙で僕の愛を込めればいいんだ……。そうだよきっと……。



 まったく……初めてとはいえ、全然綺麗に作れないなんて……。誰だ! トリュフが食べたいとか言ったのは……! 僕だねっ! せっかく自分で作るんだから、自分が食べたくなるモノ作りたいもんねっ!



 と、そんなこんなで一応チョコトリュフ的な何かが出来上がった……。味はまあまあだし、こんなもんでいいか……。



 好きな子たちにあげるものをこんなもんで済ませてしまう僕……。ああ、情けない。でも、そのくらいお菓子づくりとかいう細々とした作業は嫌いなのだ。鍋料理みたいに、切って入れて味付けドーンくらいの大雑把具合の方が僕は好きなんだ……。



 そんなお菓子嫌いの理由を並べても、まだ僕の目の前には大変な課題が残っている。お菓子の渡し方? 違う。後片付けだ……。チョコ類の汚れは面倒ったらありゃしない。でも、料理というモノは後片付けまで含めて料理なのだ。それは、普段から作ってるからこそ、ルールを破るワケにはいかない……。



 それよりも……。



「溶かしたチョコ、結構余っちゃったなぁ……」



※ ※ ※



 夜遅くまで作業した翌日。僕は眠い目をして学校に。



 軽い頭痛みたいに顔がヒリヒリする。もはや少し腫れ上がってるくらいだ。んー。触らないように触らないように……っ。



「あらぁ百合ちゃん。ニキビが出来てるじゃないのぉ。駄目よぉ? 女の子なんだから、お肌の手入れはしっかりしないとぉ」



「ちょ、ちょっとね……。チョコをちょっと食べ過ぎたもんで……」



「チョコをちょこっとチョコレート?」



「ん゛っ!」



 咲姫ちゃんのダジャレが今日もかわいい! 僕が噴いたから、咲姫ちゃん大成功と言わんばかりにニマニマしてるし……かわいいし……。



 ニキビ、そうニキビ顔なのだ。気にする気持ちが顔に出てしまっていたのだろう。いや、物理的に出てるけど。咲姫に会って開口一番にニキビがバレてしまった。恥ずかしい……。



「チョコって事はバレンタインのでしょ~? いくらイベントだからといってぇ、食生活には気を付けてよねぇ。アナタだけの体じゃないんだからぁ」



「えっ?」



「ん~?」



「いや、僕の体は僕のモノだよ?」



「そんな事ないわよぉ? わたしのモノでもあるんだからぁわたしの所有物が傷つくのは嫌なのよぉ」



「なんだか急にSM感!」



 というか咲姫ちゃんそんなキャラだっけ!? お上品じゃなかった……!? いや、蘭子と共々、だんだん過激な考え方になってきてる気はするけどさ!

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