第25話「豆まき」
節分の日。学校が終わった後。咲姫ちゃん宅に豆まきに誘われてみんなで行くことに。
豆まきと言ったら普通は大豆を思い浮かべるけれど、地方の風習なのか伝統なのか、なんと落花生を投げるらしい。
確かに、コロコロと転がらないし見えにくくて踏んじゃう事も減るし、何より殻付きだから後で食べやすく理に適っているなぁと思った。食べる事に関してはただ僕がケチなだけかもしれないけれど。いやいや、この歳にもなって落ちた物は食べないよ?
「豆まきなんてー、よーちえんの頃以来かなー。ひっさしぶりだなー」
「アタシは……パパが鬼のお面を被って、豆をぶつけるの、低学年までやっテタ……。でも、童心を忘れないココロ、大事」
「それよなー。大人になってくると鬼ごっことかもしなくなって寂しいのよなー」
と、仄香と譲羽は子供心の再来か、随分とワクワクなようだ。二人とも、どことなく小学生のノリも持ってるしなぁ。そんな子たちを見ると、僕も子供の頃の気持ちが呼び起こされてしまうモノ。僕までワクワクしてきた。
「私は豆まきをした事がないな。蒔いてしまったら掃除の手間がかかるだろうし、食べる物だって、そんな特別な物でもない。せいぜい、ただの海苔巻きを恵方巻きと称して売り出すくらいか。ずっと非効率なイベントだと思っていたが」
「蘭子は厳しいねぇ。確かに大人側からすると、お正月やクリスマスほど大々的で無い割に面倒かもね。いや、晩ご飯がラク出来るかも……?」
「恵方巻きならラクっちゃあラクそうよねぇ~。百合ちゃんは豆まきってした事あるのぉ~?」
「まあ、僕も無いんだよねぇ。咲姫は?」
「そう! 良かったぁ~。わたしもした事がなくってぇ。みんなでやりたいな~って思ったのぉ~」
「なるほど。この歳でもみんなと一緒なら楽しそうで良いよね」
咲姫からこういうイベントを提案するなんて珍しいと思った。でも、それだけ仲が深まったという事なら僕も嬉しいモノだ。
そんな僕らは、枝豆は大豆だとか、みんな苦手なグリーンピースはエンドウ豆だとか、落花生は地中で実が成るとか、マメ知識のマメは豆みたいに小さいという比喩だとか。豆まきついでに豆のマメ知識を披露したりビックリしたり。そんな豆話に話を咲かせつつ、道中で落花生を買い終えた僕らは咲姫の家に。
「おじゃまーおじゃまーおじゃまちわー」
「オジャマシマスル」
みんなで咲姫の家に着くと、咲姫が開いてくれるドアから仄香と譲羽が玄関に先に入って、もこもこのムートンブーツを脱いでいく。その後ろで僕と蘭子が混雑待ちをする。
相変わらず白基調の小綺麗な玄関。まるで空間が透き通って見えるくらい……。そして、何度入っても心安らぐ匂いというか……。
人の家って、それぞれ何かしらの匂いがあったりするんだよね。咲姫が匂いも気を付けているんだから、家族も同じような習慣だと思うし、そういう日々の積み重ねで良い匂いやら微妙な匂いやらが家に染み着くんだろうなぁ。僕の家は微妙な匂いじゃないか不安になるところ。料理も洗濯も掃除も効率重視でぱぱーっとだし。
と思いながら、前二人が靴を脱ぎ終え、僕らもおじゃましますと言う。しかし、そこで蘭子が僕の顔を覗き込む。
「百合葉。咲姫の家の空気、深呼吸してないか?」
「と、とつぜん何を言ってるの?」
「いやな? 百合葉って大きく匂いを嗅ぐときに鼻の穴がほんの少しだけ広がるから」
「そんなところ凝視しないでよ恥ずかしいなぁ……」
ただでさえ鼻の穴見られてるとか恥ずかしいのに、バレるほどに匂いを嗅いでしまって居ただなんて……めっちゃ恥ずかし過ぎる……っ! 穴があったら入りたい……いや、隠したいの間違いだわ……。
「つまりは、百合葉は私と一緒で友達の匂いで興奮する変態というわけだ。良かったな、私というパーフェクトな美女の仲間で」
「セクハラクソレズ美女の間違い! それに僕は変態じゃないっ!」
ド変態な君と一緒にされちゃあ困るよ僕っ!
「っていうか自分の性癖をさらっと暴露するんじゃないよ……。知ってたけど、余計にうちに呼びたく無くなっちゃうよ……」
「大丈夫だ。もし百合葉の家に入れなくても、百合葉のお風呂タイムに換気扇の下で最高に蒸れ上がった百合葉イオンを肺の奥まで堪能するから」
「そのまま蒸され続けてグデグデ肉まんになっちゃえド変態」
 




