第20話「冬の日帰り温泉」
窓の外ではいつもの街からどんどん遠ざかっていく。多くの人が行き交う賑やかな街中から、少し寂しい町中へとバスが走る。そして、温泉街に向かう山間部へと差し掛かり、雪の白と枯れ木の一色が混じる、自然体の冬景色へと移り変わっていった。
そんな変化を楽しむように、蘭子と景色を眺めてながら談笑する。街ゆく人々、変な看板の建物。そして、山あいの町は車が無いと大変だなんて、他愛も無い話。旅の合間にそんなどうでも良い話を出来るのが、ただただ幸せだ。
何より、咲姫ちゃんが僕の肩に頭を乗せて寝ているのが最高に幸せでもあるけれど。ああ、友達としての日常的な幸せと、恋人としての日常的な幸せ……美少女の間に挟まれ、本当に僕は最高だ……。
バスに揺られながら、僕はこんなまったりと過ごせる幸福を噛みしめていた。
しかしそんな時間も無限に続くわけはなく。バスの車内で温泉街に着くというアナウンス。
「ほら咲姫。もう着くよ。起きようね?」
「んんぅ……もぉ~? もうちょっと寝かせてぇ~?」
「んもー。仕方がないなぁー。あと三十秒ね」
朝から大慌てで疲れたのか、僕の肩に頭を乗せて寝ていた咲姫ちゃん。本当は無限にこの時間が続いて欲しかったけど起こすことに。でも、本人がまだ寝たいというのなら、そのまま寝かせていても良いんじゃないかな? 無限に咲姫ちゃんの寝息を聞いてたって怒られないんじゃないかな?
「なんだ、寝ていたいならまだまだ寝てていいぞ? その間に私は百合葉と温泉を楽しんでくるから」
「行くわよぉ。わたしも楽しみますぅ~っ」
蘭子に言われ、寝起きの不機嫌みたいに咲姫が怒りながら起きる。ただ、寝起きというより蘭子の嫌味な言い方がね。喧嘩ップルぷりがね。かわいいね。
「うわぁー。これが温泉街かぁー」
降りてみれば景色が白一色。その中でモクモクとした湯気があがる場所だった。日本人よりもチラホラ見える外国人観光客ばかりが目につく。忙しい日本人よりも外国人の方が遊びに来ているというのなら、なんだか皮肉めいているなと思った。
「めっちゃモクモク湯気が出てる。さすが温泉街なだけあるね」
「へぇすごぉ~いっ。あっ、でもこの湯気、雪溶かす為のホースのお湯ならじゃないのぉ? 騙されたぁ」
「温泉街に興奮しすぎて馬鹿みたいだぞ? しかし、温泉の湯を使っているかもしれない。湯気というのもあながち間違いではないかもな。面白い土地だ」
山に囲まれた立地なだけあって、坂道だらけだった。そこから僕らはホテルの中に入る。なんとかグランドだのすごそうな名前だった気がするけど、よく見てなかった。
広くそして静かなロビー。ゆったりとしたクラシックが流れている空間。温泉チケットを店員さんに見せて中へ案内される。しかし、エレベーターに乗る前に僕はバスの最中にトイレに行きたかったのを思い出した。
「二人とも先に着替えてて。トイレに行ってくるよ。我慢してたの忘れてた」
「んっ? 百合葉がトイレを我慢……? せっかくなんだから、脱衣が終わってからトイレに行くというのもありだぞ? 全裸の百合葉が直前で耐えきれなくなって漏らしてしまわないか、最後の一滴までシーシーを見届けてあげよう」
「なにがせっかくだ! なにが!」
「いや……? むしろこのまま百合葉をトイレに行かせなければ、トイレも無いのに温泉で放尿しちゃう瞬間の百合葉を拝めるのでは……?」
「朽ち果てろド変態……っ!」
「いたっ。冗談だ冗談。だから叩くな」
「そんな発想が出る時点でシャレにならないんだよなぁ……」
本当にこの子の将来が不安だ……。同棲なんてしたら、お風呂場でそういうプレイでも要求されるんじゃないの……? うわ、恐怖に震えてたら本当に漏らしそうだ……。はよトイレに行かないと……。
そうしてトイレも済ませて脱衣も済ませて。僕らはついに温泉に。
「うわぁー。誰も居ない、貸し切りじゃん」
「すごいわねぇ……」
「ああ、観光客はまだまだ外を楽しむ時間だし、平日の昼間だからでもあるだろう。これが学生特権なのだな……」
もうもうと湯気が上がる中、僕に続いて、咲姫も蘭子も息を漏らす。湯船の周りは岩になっていて、温泉の成分が固まってついているけれど、汚いとかそういう不衛生な様子は無かった。小綺麗な温泉という印象。
温かみを感じる石畳を歩いて、僕らは髪と体を洗う。
「泥パックのお試しセットだってー。やってみるー?」
「でもこういうのってお肌との相性もあるしぃ、パックの間どうするかとか結構めんどくさいのよぉ? また今度ゆっくり出来る時にしましょ~?」
「そうなんだね。やめとくかー」
咲姫ちゃんが言うなら間違いないと思った。例えそれが間違いだとしても、僕は咲姫ちゃんの女子力には逆らえないのだ。だって実際にかわいいんだもん。
「ところで百合葉。いま私に見えるように股を広げて、追い炊きならぬ追いシーシーをしてもいいんだぞ?」
「やらんわ出ないわ!」
頭の中がAVなのか知らんけど、蘭子ちゃんは歩く十八禁か何かだと思った。
みんな一斉に頭を洗って、体を洗う。順番は一緒みたいだけど、洗い方が、咲姫は手荒い、蘭子はタオル洗いで、違いが見られた。なるほど、多分手洗いの方が肌を痛めないのかな。いつもは柔らかめの垢すりでキーモチィーッ! 派だったけど、今日をもって手洗い派にするか……。肌の質って十代から衰える一方らしいし。
と、体をくまなく洗っていると、シャワーでうるさい中、蘭子が口を開く。
「百合葉が手で体の隅々を洗ってる姿……一人でシてるみたいで興奮するな……」
「こっち見んな。自分のに集中しなさいっ」
「自分のに集中? なるほど、百合葉も私のシてる姿が見たいよな。そうだよな」
「……さて、もう体洗い終わるし、そろそろ露天風呂に行こう」
「わたしも一緒に行くー」
「あっ、待て。早いな君たち」
セクハ蘭子ちゃんはもう無視無視。僕はさっさと体を洗い流して、露天風呂の方に歩く。すると咲姫ちゃんも掛けてくる。蘭子は急いで体を洗い始めた。僕を見てるから悪いんだよ……。
屋内スペースから露天風呂への通路を歩く。締め切られているとはいえ、普通の廊下みたいに冷え切っている。
「寒い寒い寒い……早く入ろ……」
「露天風呂に行くのだから仕方がない……」
「余計に湯船が気持ちよさそうねぇ」
僕と蘭子と咲姫が三人並んで階段を駆け下りる。降り終わって後ろを向く僕。
「あはは。蘭子おっぱいがぶるんぶるんなってる」
「なんだ? 百合葉のを揉むぞ?」
「やめてっ。学校とは違って完全に無防備だからやめてっ」
「ゆ、百合ちゃん? わ、わたしだって、全く揺れないわけじゃあないのよぉ~?」
「咲姫、そんな所を競わないでいいからね? って蘭子! 乳首をつねるんじゃないっ!」
「なんだ百合葉。感じて濡れてきたか?」
「濡れたまんまだよ温泉でねっ!? アンタ馬鹿じゃないのっ!?」
「仕方がないだろう私は百合葉の乳首チネリマンだからな」
「なんだそのアホみたいな名前はッ!」
短いタオルと手で胸をガードしてるのだけど、蘭子の強い手が無理に僕の胸を揉んできて、引き離そうと駆け出せば痛いくらいだった。なんなのそのおっぱいへの執着は……。自分の揉んでよ……。今のアンタの方が完全に無防備だよ……。
僕が諦めたのを良いことに、蘭子は僕の乳首をめっちゃ摘まんだり軽く引っ掻いたり。馬鹿なんじゃないかと思う。
「百合葉の乳首めっちゃビンビンじゃないか……。もしや私とヤる気満々か……?」
「アンタがちねるせいだよっ! しかも片方だけだよ……っ! もう片方は萎え萎えだよ……」
「じゃあバランスを取ってわたしがちねる~」
「咲姫ちゃんそういう問題じゃないよねっ!?」
全く。あの美少女にこの美少女ありだ。なんだよ乳首チネリマンって……。しかも伝染するのかよ……。怖すぎ妖怪だよ……。
 




