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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部三章「百合葉と美少女たちの冬」
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第16話「闇鍋パーティー」

「咲姫、他に買った食材はあるの?」



 僕に変態美少女と言われ、うへへぇ~照れてる咲姫ちゃんを小突き、正気に戻させる。まったく、自分に都合の良い単語しか聞こえてないんだから……。まだ咲姫の紹介する食材が残っているというのに。そのポジティブさは見習いたいものだ。



「豚バラ肉はさておきぃ~、あとは白菜と長ネギとモヤシぃ~。鍋には必須よねぇ」



「ああ、ありがとう咲姫。すごくまともな食材だね」



 豚バラ肉を含めても、かなり良い選抜だった。鍋の具材選手権をやるならトップ争いのメンツばかり。なんなら、僕と咲姫の具材だけで美味しくなりそうな感じだ。



 しかし、蘭子がわざとらしいように机を指でトントン叩く。



「なんだその貧弱な選択肢は。だからそんなモヤシみたいなまな板になるんなんだぞ?」



「まな板じゃないですぅ~。おうちで鳥ムネ肉いっぱい食べてますぅ~。それに、お鍋の豚バラ肉だって美味しいわよぉ?」



「そんな薄っぺらい肉でどうするというんだ。もっと肉を食え肉を」



「なんだか蘭子が途端にボディービルダーとかに見えてきたなぁ」



「まあ、体作りに余念はないからな」



 そういう発言って筋トレ好きの人たちが言いそうじゃない? 完全に偏見だけどさ。



「それじゃあ、蘭子はいっぱい肉を持ってきたの?」



「ああもちろん。牛ステーキオンリーで五人前だ」



「え、ええ……?」



 それ焼いたら絶対美味しいやつじゃん……。煮込むよりも絶対に焼いた方がいい部位じゃん……。



 そういえば鍋ステーキというのを聞いた事はある。あれは確か、鍋の汁を作る前にステーキを焼いて、その焼いたあとの旨味で鍋を始めるという……。もう鳥白湯スープ出来ちゃってるよ……焼くこと出来ないよ……。



「蘭子、ステーキなんて大丈夫? 高くなかった?」



「なんだ。オーストラリア産だから、そこまで高くはないぞ?」



「ステーキの時点で高いんだよなぁ……」



 蘭子ちゃんも少し金銭感覚がおかしいようだった。いや、彼女の事だから、案外お小遣いをはたいた高度なギャグかもしれないけれど。



「ユズは? 何を持ってきたの?」



 なんだかいや、な予感しかしないけど聞いてみた。すると、明らかにナマモノの入ってない袋をガサガサあさる彼女。



「ポテチ……。ポッキィ……。チョコプリン……。ウヘヘ……アタシの好きな、魔女の鍋とナル……」



「へ、へぇ……。ユズの好きなお菓子だね。単体で食べたら美味しそうだね……」



「ポテチは芋だから、実質野菜。ポッキーも小麦粉だから、実質野菜……。プリンは……隠し味……」



「塩味のスープで隠し味って隠れないと思うよ?」



 前半二つはまだ許せるんだけどなぁ……。いま目の前で透き通っている鍋が濁りそうだ。



「はい。じゃあ最後に、仄香はどんな物を持ってきたのかな……」



 嫌な予感のまま仄香に訊く。仄香もナマモノは無さそうな袋をガサガサ。



「っへい! 果実グミ! メロンパン! そして桃!」



「ふ、普通に甘いものなのに鍋に入れるとなるとえげつないなぁ……」



「そしてクラッカーも入れちゃうーっ!」



「食べ物じゃないよそれはっ!」



 僕がツッコむと、仄香は手に持つさっき鳴らしたクラッカーをゴミ箱に入れる。



「やだなぁ! クラッカーはクッキーのクラッカーだよー」



「そ、そう……。クッキーとは微妙に違うけど分かったよ……お菓子の方ね……」



 もしやこの子、クッキーもビスケットもクラッカーも区別付いてないのでは? いや、厳密な話は僕もよく分からないけどさ。



 しかしそれ以前に、ツッコむところがあった。



「二人とも。闇鍋の意味分かってる? 暗闇の中で何を掴むか分からないドキドキを楽しむ物だよ? 二人の食べ物溶けちゃうけ物ばかりだけど」



「はっ……!」



「シマッタ……」



「アホの子たちだなぁ……」



 仄香と譲羽は息をのむ。今更気付いたんかい……。やっぱりアホの子ロリだ……。ドジかわいい……。



 んっ? つまりは問題ないのでは? 昔からよく言うじゃないか。かわいい子ほどかわいいと。つまりはかわいいがかわいいを呼びかわいいが溢れてかわいいの無限連鎖となるのだ。うん、つまり美少女ならどんな失敗もかわいさの栄養源でしかないのだ!



「そもそもだが、具材を発表する事事態が間違いだと思うがな。百合葉も同罪だぞ? 百合葉もアホの子だ」



「え……っ! そ、それはっ! 仄香がみんなに発表を促したんだよね!?」



「うるさい。百合葉も知らなかったのだから、充分にアホの子だ」



「う、うわぁあああ! 僕がアホ呼ばわりされるなんて!」



 なんというショックだ! 僕がアホの子なんて……なんにもかわいくないっ! それならもっと美少女に生まれれば良かった!



「いつもアホアホ言われるあたしはどう反応すれば良いのー?」



「百合葉ちゃんは、これでも学年一位の秀才さんダカラ……ショックを受けても仕方がないのよ……」



「なるほどねー。頭が良いのも考えものだなー」



 なんて、仄香と譲羽に言われる始末であった。いや、どっちにしろ頭は良い方が便利だからね?



 そうして、食材のバレた闇鍋パーティーが始まった。暗闇の中でみんなが鍋にいれ、取りあえず蓋をする。スマホを机の上において手元だけを光で照らし、しかし、鍋の中は真っ暗という怖い話だ。



「百合葉から時計回りにしよう。さあ、まずは百合葉からどうぞ」



「蘭子、アンタ僕がハズレを引くのを楽しみにしてるね……?」



 物が物なだけに、全部が掴めるものとも限らないので、まずはお玉で救う。そして掬う感触があったらそこで終わりだ。かなり大きいので箸をお玉差し込んで暗闇の中で何かを掴む。この重量感は……。僕は自分のお皿によそい、それを齧る。



「こ、これは……ステーキ肉……。でも、なんだドロドロしたものが絡みついて……? 果実グミだ!」



「いきなり当たり……オメデトウ」



「ユズ的にこれは当たりなの?」



「ぶどうグミソース掛けのステーキ……悪くナイ……」



「へ、へぇ……」



 確かに赤ワインとステーキという組み合わせだと思えば……。でも、せっかくのステーキ肉が煮込まれていて、そこに果実グミのドロドロが絡みついて、変な感じだ。なんかの拍子で溶けきらなかったのだろう。



「不味すぎる訳じゃないけど、美味しい訳でもないなぁ。当たりとは言い切れないかも」



「でもこれは闇鍋よぉ? 食べれる味なだけマシじゃなぁ~い?」



「言われてみればそうだね」



 咲姫ちゃんに言われ僕は気付く。そう。確かに、食べれただけマシなのだ。何が出るか分からないこの闇鍋に……。



「次は私だな……どれどれ……」



 蘭子は言って、お玉を鍋の中へ。不正がないようにみんなが蘭子の手を凝視する。僕も含め、なんていう厳しさだ……。



「なんだこのブヨブヨした物は」



「はぁーい。蘭たん終わりー。それ取ってねー」



「だ、だが……。物体なのかこれは……いや、確かに固形状だ……もしや……」



「もしやチョコプリンかーッ! いけいけーっ!」



 仄香に煽られつつそう言って蘭子が更にデロンとよそったのは、仄香が4分の一に千切ったメロンパンだった。スープをすってデロデロになっている。



「そうだよね。チョコプリンだと溶けちゃうもんね」



「しかし、メロンパンも半壊してるぞ……。うう、ドロドロな上に甘くて、変なスープを吸ってるせいで、気持ち悪くなる……」



「それはきっとチョコプリンだ……」



 スマホのライトで下から照らされた蘭子の苦い顔。元が美少女なだけに、なんだかそのギャップが面白い。



 そこを、譲羽がバレないようにスマホで写真を撮るのだった。しかしそれに感づいて蘭子の顔が歪む。



「なんだ譲羽。わざわざ私の時に撮らなくてもいいだろう」



「蘭子ちゃん変な顔……確かに撮った……。それに、百合葉ちゃんの顔も撮ってアル……」



「いっ、いつの間に……」



 油断も隙もない美少女だった。ユズって普段会話への参加率が低い分、ステルス性能が高いんだよなぁ……。



 しかし、そんな中で蘭子が更に顔を歪め、口元を手で押さえる。



「す、すまん……ちょっとトイレに行ってくる……」



「おぉうっ、蘭たんがギブかーっ!」



 仄香の煽りに何も言えないまま。蘭子が一時退場するのだった。蘭子が割を食うのは珍しいなぁ……。



※ ※ ※



 その後は変な味の桃以外、豚肉やら野菜やらキノコやらで大きなハズレも無く。みんなが顔をしかめながらも二周したのだった。主に僕と咲姫がまともな食材を持ってきたお陰だ。



 しかし、そんな物でもスープが混沌と化していたら食べたく無いもので、みんなの箸が進まなくなっていた。満腹には程遠いのに、体が拒絶しているのだ。



「ヤバいなぁ。全部食べきれそうにないよ……仄香食べれる?」



「む、無理だわぁ……」



「マズ過ぎる訳じゃないのに、エグいのよねぇ……」



 僕が問うと、仄香も咲姫もげんなりとした表情で返してくれる。譲羽は早々にぐったりして、蘭子は青い顔をしていた。



「ふふっ、そろそろ出番だろうか……」



 そんな蘭子が自分の持ってきた袋をガサガサと、四角い箱を手に取り見せる。



「そ、それは……っ!」



「ふふふっ。カレーにしてしまえば……どんな物でもスパイスとなる。最強の……料理だ……」



 具合悪そうなのにニヤリと笑うその顔。そんな彼女から受け取ったカレールーを鍋に入れれば、妙な匂いだったその鍋がたちまちスパイスの良い香りに包まれる。



 その後、僕らは、やっとの事でちょっと不思議な味のカレーを食べきるのだった。

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