第15話「闇鍋の具材」
慌ただしい年末年始を終えて、永遠と思った冬休みも残り日数が見え始めて来た。
冬も本番となり、毎朝暖房が付いてない時間にお布団から出るのがとても億劫で、夜中トイレに行くのもつらい……と蘭子と通話で雑談してたら、『百合葉のおねしょか……百合葉がシーツの上に作った染みの匂いをクンカクンカしたい……。いや? おもらしする瞬間を拝むのも最高か? 耐え続け震える百合葉の表情もそそる……。ふふっ、堪らないな』と言われてしまう始末であった。なんなのあの子。トイレっていう単語だけでセクハラワードになるの? 将来一緒に生活したくないな……。
そんな冬休みの真っ只中で、メッセージアプリLIMEで仄香から提案が。
『へぇーい! みんなで闇鍋パーティーしなーい?』
なんともまあ恐ろしいパーティーお誘いだった。それって死人が出るやつじゃない? 大丈夫? 辛いやつじゃない?
『闇鍋って言うとアレだよね? それぞれが好きな食べ物持ち込んで鍋にぶち込むやつだよね?』
『好きな物じゃないよー。なんでもだよー』
答える仄香。僕の方向修正はダメだったみたい。そのなんでもが怖いんだよなぁ。好きな物だけならまだマシだろうに。
『食べる物だけにしろよ? 雑巾とか嫌だからな?』
『そんなの入れるわけないよー』
蘭子の質問に仄香は飄々と返す。いや、メッセージの文章だけだから分からないけど。
『そこら辺の雑草とかもダメよぉ? スーパーとかで売ってる食べ物だけねぇ?』
『ケッ。バレたか』
『なに? 雑草入れようとしてたの?』
咲姫の質問で、仄香の悪事が事前に食い止められる事となった。危ない危ない……。
『みんなでコタツで鍋パーティー……。憧れダッタ……』
『その憧れが叶ったと思ったら闇鍋なんてね……。いいの? ユズ』
『イイ。みんなで楽しければ、問題ないカラ……』
『そうだよね。楽しくしたいね』
うぅ、なんて健気な美少女なんだ……。僕は顔の見えないメッセージであるのを良いことにちょっと感動で鼻をすする。
『本当に変な物持ち込まないでよ? 味のキツい物とか。辛い物もやめてね?』
『オーケーオーケー。じゃあみんな好きなように持ち込んでねー。また明日ー』
と、その日はそれで終わるのだった。怖い予感がしないけれど、どう回避しようか……。
次の日。僕は仄香たちの寮に行く前に、学校近くのスーパーで軽く買い物を。うん、無難なブナを……じゃなくて、無難な食べ物を持っていけば、僕の食材は他と喧嘩しないはずだ。
そう思い食材を買った僕はスーパーから学校の敷地内を目指すのだった。
* * *
「それではこれより! 写真部闇鍋パーティーを始めまーすっ! いぇーい!」
「い、いぇーい」
仄香がクラッカーを鳴らす。一応拍手をするみんな。そして、譲羽はパシャパシャと写真を撮っている。
そして仄香は、おたまをまるでマイクかのように口元に掲げ、そして喋る。
「まずはっ! 寮母さんに借りたこちらの大きい鍋! カセットコンロで温められたスープの塩パイタンが入っております!」
「へ、へぇ……。それはめっちゃいいね……んっ?」
と思っていたら仄香はおもむろに僕の後ろにやってきて、胸を揉むのだった!
「セクハラやめいっ!」
「いやー! せっかくのパイタンなんだから、ゆりはすパイタン揉んどこうと思ってー」
「何がせっかくだ! 理由無くても揉む癖にっ!」
「バレたかバレンタインー」
「バレるわバレンタイン~……じゃないわっ!」
なんだかんだ呼吸がピッタリな気がした……。なんだか嫌だなぁ。
「それじゃーさてさてー! 皆さんが持ってきた食べ物はっ!」
仄香がおたまを僕らに次々と向ける。しょうがないので、僕がトップバッターに。ボケて無いから、早くしないと白けちゃう内容ばかりだ。先陣を切るために手を挙げる。
「僕が持ってきたのはキノコ類だよ。椎茸にシメジ、舞茸にエノキ! 鍋には欠かせないんだよねぇ。食感もプリプリで、もはや森のバターならぬ、森のお肉だよ」
「そうよねぇ。良いおダシが出るし、鍋類の料理には必須よねぇ。森のお肉っていう例えも分からなくもないわぁ」
と、普段から料理をする咲姫ちゃんも分かってくれた。主婦仲間に認められたようでなんだか嬉しいなぁ。んっ? 僕らピッチピチの女子高生じゃなかった? 僕らは女子高生百合じゃなくて主婦百合だった?
そんな中で、仄香が僕におたまを向けふるふる震わせる。
「キノコが好き……? くっ、このイヤラシい娘めっ! そんな子に育てた覚えはないぞぅ!」
「ええっ!?」
キノコってそういう!? いつも仄香からセクハラする癖に! なんでこういう時だけ僕がイヤラシい扱いされるんだ!
「百合葉……。私は常々、君も性に興味を持ってくれればと思っていたが、私たちの愛には男性器など要らないのだぞ……?」
「どうしてそういう発想になるの……っ!? つーか似てる要素ないじゃん! エリンギないじゃん!」
ってかエリンギあったら輪切りにするけど? それがアレだと言うのなら、むしろその方がエロいというよりエグいのでは? 男性が男性でなくなるよ? ……あれ? それは良いことなんじゃない? よぉっし! 世の男性はみんな輪切りにしちゃって女性になろう! タイ旅行が捗るぞぅっ!
「蘭ちゃんそれは違うわよぉ」
「さ、咲姫……。そうだよね、二人がおかしいって言ってくれるよね?」
「百合ちゃんは指だけじゃあ満足出来ないって言いたいのよぉ。つっまっりっ? そういう大きさのモノを入れて欲しいわけよねぇ? こう、ヴィィーンっとね?」
「ちょ……っ! 咲姫ちゃんはいつの間にそんなド淫乱になっちゃったの!?」
いや、出会った当初はカマトトぶっていたのはなんとなく分かってたけどさ。だからって下ネタに走り過ぎじゃない!? 僕への愛ゆえかな!? なら許せるかな!? いや困るわこの下ネタの嵐はっ! 乱れすぎだわっ! 百合とはいえ風紀が乱れすぎだわっ!
っていうか咲姫ちゃん? それは中に入れられながら振動するやつなの? 百合エロはそこそこ見てきたけど、そんなのは知らないよ……? えっ? あるの……? 僕に使わないでよね? ニコニコとジェスチャーしないで咲姫ちゃん。
「そ、そんなのはどうでもいいからさ。早く入れる物を出してよ」
「えっ? 百合ちゃんの中にぃ~? もぉ~う! イヤラシせっかちイヤシンボめぇ~」
「違う! 鍋に! 入れる物! 食べ物だよッ!」
「分かってるわよぉ。そうムキにならないでぇ~?」
「これだけセクハラされてムキにならない方がおかしいよ……」
それともなに? もしや僕の方が、『ははは。そんなに君も夜のパーティーがしたいのかな? いいよ、僕はウェルカムさ……』なんて言って受け入れた方がいいの? いや、完全に僕が受けなんだけど? キザな言葉の割に攻められる未来しか見えないけど? もしや誘い受けってやつ? 僕はウェルカムじゃないよ?
「わたしは持ってきたのは豚バラ肉~。ところで豚肉ってぇ、百合ちゃんの……ナカの色、みたいよねぇ……。きゃ……っ」
「きゃ……っじゃない! 発言が全然かわいくないしさぁ! 食事中にエッグイ下ネタやめてよ咲姫っ! ってかそんな色なの!?」
「なんだ百合葉。自分の中の色くらい確認しておけよ。こう鏡の前でさ」
「普通見んわ変態美少女どもっ!」
蘭子ちゃん指を開いたり閉じたりやめなさい。本当に下ネタえげつない子たちだなぁ……。
男子社会だと下ネタもコミュニケーションの一環みたいだけど、この子らの下ネタはどぎつ過ぎて、コミュニケーションになってないレベル……。将来が不安だなぁ……。つは彼女らが社会に出る必要が無いくらいに僕が養ってあげるしかないのか。よぉ~っし。パパお仕事頑張っちゃうぞ~? いや、僕はネコだったわ。なんかネコちゃんとして愛される予感しかなかったわ。
下ネタがエグくてドン引きしてます(作者)
常々、百合葉ちゃんへのセクハラえぐいなぁとは思うんですけど、相思相愛の愛ゆえにセクハラが暴走するのって本当に好きなんですよね……。
それに百合葉ちゃんは傷付いてないのか、ちょっと不安になるところですが、まあ相思相愛だから大丈夫という事にしてます。
賛否両論はあるでしょうが、この作品の肝って、日常回での百合下ネタギャグもあると思ってますので。
これが、感情一方通行や男女の下ネタだったら大嫌いなんですけどね。不思議な性癖もあるものです。
 




