第13話「お祈りと甘酒」
仄香から順に、譲羽、咲姫、蘭子、そして僕という順でお賽銭を入れてガランガランと鈴を鳴らし、お祈りする。
流石に仄香も譲羽も万札では無かったけれど、千円札を入れていた……。やっぱりリッチだなぁ……。
咲姫は五百円、蘭子と僕は、何円を入れればいいのかという下調べの結果が被ったのか、お互いに百十五円にした。イイご縁という意味でだ。
「まっ、もう良いご縁は叶ったけどな」
「じゃあ、この良いご縁を続けましょって事でね?」
「ふっ。言ってくれるな。確かに、手放したくない縁だ」
蘭子ちゃん雑学によると、お祈りとは言うけれど、頑張るので見守ってくださいという感じに祈るのが正しいらしい。願いを叶えてもらおうというのは、稲荷などの動物系統の神様なのだそうだ。しかし、その代わりにその後も祀らないと祟られるという怖いものであったり。
一番最後の僕のお祈りまで終わり、待ってくれているみんなの元へ。仄香と譲羽が食べ物が先か飲み物が先かを議論みたいに主張しあっている。どっちともで良いのに、相変わらずだなぁ。
「お待たせ。みんな何を祈ったの?」
「えー? そういうのって喋っちゃあ駄目なんじゃないのー? コーリョク失っちゃうー!」
「神との契約違反……重罪……」
「効力も重罪もないと思うけど……」
僕が言うと仄香と譲羽に文句を言われてしまった。咲姫と蘭子は目を逸らしている。ああ、訊くべきじゃ無かったっぽいなぁ。
「内容を言って良いかどうかは相手によるらしいぞ? 相手がその願いに対して応援してくれるとか、ポジティブに受け取ってくれるなら話しても良い。しかし、もしその願いが叶って欲しくないと思われる相手なら、言わない方がいい。そういう百合葉は、"何"を祈ったのだろうな」
蘭子に嫌味のように言われてしまう始末。しかし、僕は神様に四股とか百合ハーレムとか、そんなヨコシマな事は祈っていない。ホントにホントだよ?
「僕は、今後もみんなと家族みたいに仲良く過ごせますように見守っていてください……かな。やっぱりみんなで楽しいのが一番幸せだからね。みんな、今年もよろしくー」
僕がそう言うと、咲姫と蘭子は気まずそうに俯いた。なるほど、やはり僕との恋愛関係の事だろうか。そりゃあお互いに言えるわけがない。
「そんじゃーあたしだってー! みんなで楽しく遊べるようにって祈ったよー! 負けてないからねーっ」
「祈りに負けもなにもないよ……」
「仄香、さっき私が言った通り、祈るだけじゃあ駄目なんだぞ? そうなるように行動するから見守ってください……という感じだ」
僕と蘭子がツッコむ。しかし、地団駄を踏んで仄香はアピール。
「た、たぶんそれも祈ったー! 神様見ててよね~って祈ったー!」
「なんだか友達に言うみたいに軽いわねぇ……」
「神様は友達ダッタ?」
仄香の軽さに咲姫と譲羽は苦笑する。
「アタシも、みんなで幸せにって祈ッタ……。百合ちゃん、一緒ダネ……ウヘヘ」
「そうだねぇ。ユズはイイ子だ」
なんて僕は譲羽の頭を撫でる。なんだこの健気なロリは……。無限ナデナデしちゃうじゃないか。
しかし、そんな彼女も、あざといのは自分で分かっているような気がする。しかし、彼女だって寂しがりなのだ。ならばやはり、みんなで楽しく過ごせるのも本望なのだろう。僕だってやっぱり、百合ハーレムとか関係なしにみんなで楽しいのが一番だ。
そうして、五人とも参拝を終えた僕らはようやく屋台の方へ。人が集まっている出店の方に近付くと、餅つきイベントをしていた。つきたてのお餅を販売しているようだ。
「あーっ! 餅つきしてるー! 食べよ食べよー!」
「ちょっと待ってって。朝も散々食べたのに」
「ふっ……。やはり花より団子みたいだな」
「まあ、美味しいと幸せになるものねぇ。仕方ないわねぇ」
「お正月、無限にお餅もちもち、幸せ……」
と、駆ける仄香に続き、僕と蘭子と咲姫と譲羽と続いて走る。
ところでゆずりん? その発言は君のほっぺたがよりムニムニもちもちになる気しかしないけど? 大丈夫?
僕らはついたお餅をおしるこに入れてもらって、空いた椅子にみんなで座って、おしること甘酒を飲む。
「甘ァーイ……伸ビール……。粒あんが美味シイ……」
「甘くて体に染みるねぇ。ユズ、口から湯気出てるよ」
「それ言ったら百合葉ちゃんも……」
「ははっ。ホントだ。ほくほくだからねぇ」
なんて、和気あいあいと食べる。そして甘酒。ああ、これも白いつぶつぶが美味しい……。
「なんかこの甘酒、飲むテンテキって言われてたねー。つまり、お酒のライバルってことー? 甘酒なのに敵とはこれいかにだわー」
「ええ~? これいかにぃ~?」
「此レハ如何二……」
「へいっ! これいかに! こわいかに! 怖い蟹はどこにあり!」
「まーた変なラップが始まった……」
なんなんだこの咲姫と譲羽と仄香のラップコンビネーションは……。前にも同じ流れがあったなぁ……。なんだかんだ仲は良いみたいで安心するけど。
「違う違う。点滴っていうのは病院とかで針刺されて水が体内に入っていくあれだよ。米麹から作られた甘酒は病気に効く栄養剤みたいだよねって比喩なんだ。すごい栄養価が高いらしいよ」
「なるほろねー。そりゃあオイシーわけよのぉーのぉーのぉー。うひゃうひゃっ」
「なに? 仄香酔ってるの?」
なんてグイグイ甘酒を飲んで、プハァ~ッと飲んだくれみたいに息をつく仄香。ああ、ロリ美少女なのにすごい似合うなぁ……。
そんな中で、僕の肩に頭を乗せる咲姫。頭を肩にこすり合わせるように。ああ、めっちゃ心地良い……。
「百合ちゃ~ん。なんだかわたしぃ、酔っちゃったみたぁ~い。きゃっ。フラついて一人じゃ歩けなぁ~い! 百合ちゃん百合ちゃ~ん、わたしをおうちまで送ってぇ~。そして酔った勢いでぇ……うふふっ」
「ダメ……。アタシも酔ったから、百合葉ちゃんにおぶってもらうの……。そのままおうちでゴロゴロアニメ……幸せ……」
「はぁーっ!? あたし酔ったしー! このままダラダラとダル絡みするんですぅーっ。イベントを楽しみきるんですぅーっ!」
「ちょっとちょっと。咲姫もユズも仄香も、みんな酔っちゃったの? 前にもあったような気がするなぁ……」
そういえばあの時はウィスキーボンボンで酔ったんだ……。あれ? そもそもみんなそんなにアルコール弱かったんだっけ? それは演技だったような……。
そこへ一人酔っていない蘭子がわざとらしくコホンと咳払い。
「確かに、酒粕から作られる甘酒には確かに微量のアルコールが含まれるが、これは米麹から作られた甘酒。つまり、これっぽっちもアルコールは含まれていないぞ? つまりは酔うなんてあり得ない。さて、酔っ払ったフリをする嘘つき腹黒娘たちはほっといて。百合葉、私とこのまま正月の街をデートしに行かないか?」
「あらぁ~? 友達ほっといて遊びに行っちゃうような人の方が腹黒で性悪じゃないのかしらぁ。わたしは気分で酔っちゃったってやつよぉ? 嘘つき呼ばわりは止めて欲しいわねぇ」
「お酒という名前がついてると、プラシーボ効果……アル」
「そ、そうそう! プラ? プラス思考果! お酒って言われちゃあそれだけで酔えるもんねーっ! 嘘つき呼わばり縄張りだもんねーっ! ほらほら、蘭たんもケンコーのために飲め飲めー!」
「仄香、勝手に変な単語作るんじゃないよ……。本当にアルコール中毒者みたい……」
「何事も過ぎたるは及ばざるが如しなんだがな」
「知るかぁーっ! もっとみんなで飲むんじゃーいっ!」
と、僕と蘭子のツッコミなんていざ知らず、仄香はグイグイと甘酒を飲む。それと咲姫ちゃんが言った通り、『呼わばり』じゃなくて『呼ばわり』ね? ツッコむ暇もない……。
そんな僕らは食っては飲んでまた食べてと、まさに正月らしい食べっぷりで。みんなお腹が満腹になるまで食べてしまうのだった。




