第11話「今年の思い出」
テレビを見ながらのお菓子タイム。歌番組の流行った曲を、これ知ってるとか知らないとか、あのテーマ曲だとか。
そしてやはり、音楽がかかると仄香が一段とテンションが高くて、歌ったり平手ドラムを叩いたりする。蕎麦を食べているときに箸でやらなくなったのは大進歩かもしれない。旅館では叩き箸とかやってたもんなぁこの子は。
そんな中で、テレビが和風な畳の部屋で簡単な楽器で合奏する風景を映し出した。そういう舞台演出の音楽番組も歌合戦として出場しているのだ。
「やべー。アコギに鍵ハにタンバリンだー。ドラムはバケツ裏かなー。良い音するなー」
「ケンハ? ピアニカと事?」
「鍵盤ハーモニカ歯はモナカっ! 年間パラノイア温泉ハルモニアっ!! ハーモニカの形ってモナカに似てるよねっ!」
「いやぁ、思わないかなぁ……すごい連想ゲームだね」
「そっかー。残念」
相変わらず、自由なラップを披露する、単語だけ知ってるアホの子みたいなのだった……。ダジャレラップとて、頭の回転が速くないと出来ないと思うけどなぁ。大したものだ。
とりあえず、画面で鍵盤ハーモニカが二台合奏しているテレビの演奏者たち。踊るようにゆらゆらみんなで揺れて、本当に楽しそうだ。
そこで、蘭子が思い出したように手を叩く。
「あれだ。ピアニカは商品名だから、鍵盤ハーモニカの事だろうな」
「へぇ~そうなのねぇ~。方言なのかと思ったぁ。サビオみたいな~?」
咲姫が言うと、他の子たちは首を傾げる。
「サビ……オ……? お婆ちゃんが使ってたけど……。絆創膏じゃないノ?」
「そうだな。サビオも確かに商品名のはずだが、一部分の地方でしか使われない言葉と化しているから、方言のようなものなのかもな。最近はネットの普及で、若い世代では方言も薄れていると聞くが。ならばそれでも方言を使ってしまう咲姫はお婆ちゃんなのかもしれないな」
「おば……っお婆ちゃんじゃないわよぉっ!」
と、譲羽と蘭子の指摘によって、美少女咲姫ちゃんがお婆ちゃん扱いになってしまうのだった。お婆ちゃん系美少女も大好きだけどね……。見た目綺麗なのに、心の中では古い感性を大事にしていると思うと、いとおかしだ。つまり萌え萌えキュンキュンだ。違うか。
テレビでは和室風の舞台セットでの演奏が終わっていた。なんとも味わいのある合奏風景だったなぁ。
「ガレージバンドみたいにさ。昭和な和室バンドってのも面白そうだよね」
「やべーよねー。あたしらもあーゆー感じにしたいなー。来年とかやんなーい?」
「僕らはまず、普通に楽器を演奏出来るようにすることかな……」
「そうだよねー。スタジオ入ろーねー。そろそろコピりたーい。オリジナルだともっとやりたーい」
やっぱり学校祭でバンドの提案者なだけあって、仄香はそういう遊びもしたいみたいだ。
「そうだねぇ。みんなもやる気になればそのうちやろうかぁ。なんか思い付いたらlime言ってね。技術はないけど、最低限合わせられるように整えられるはずだから」
「いぇーっ。ゆーちゃん頼りになるぅー」
と、仄香と話している内に次のアーティストがテレビに登場していた。珍しく譲羽が、ダンッと脚を鳴らし鈍い音が……。突然立ち上がろうとしたからだろう。コタツに脚をぶつけて痛い痛いなのだった。
「うぅ……」
「大丈夫? ユズ」
「腫れたりしてなぁい?」
僕と咲姫が心配するも、その必要はないのか、手を振って大丈夫アピール。いや、痛そうなんだけど。めっちゃ苦悶の表情なんだけど。かわいいんだけど。いや、サディストな趣味もないけど。
「ダイジョウブ……だから……。それよりヤバいの……この人……最近アタシの推しアーティストなの……。アニメの主題歌にもなったし、今ネットで話題ソウゼン……。スマホで録画しないと……」
「へぇ。テレビ本体では録画しないの?」
「このテレビ、録画をデータをスマホに移すのがめんどくて難しい機種……。スマホなら、いつでも見たい時に見られるし……」
「な、なるほど」
ユズは割と機械に強いみたいだったけど、案外めんどくさがるところもあるもんだ。確かにコタツムリな性格を考えると、行動派バリバリなオタクというワケじゃなさそうだもんね。
「じゃあ撮るから、ちょっと静かにしててネ……」
「ああ、ごめんごめん」
そして沈黙。静かにしないといけないのに、仄香がひそひそ話をして僕を笑わせようとしたり、そのわざとらしい妨害に仄香と僕が譲羽にジト~っと見られたり。余計に笑っちゃいそうだった。咲姫と蘭子も口に手を当てて声を押し殺して笑ってる。仄香がまたお菓子をじゃがじゃが音を立てながら食べて叩かれる。また僕らも笑いそうになる。
なんだか、特別なイベントらしさも無いけれど、こんな風にみんなでダラダラ過ごすのも悪くないなと思った。
そして、スマホ録画が終わって、ユズがふぅと一息。そして、蘭子が咳払いする。
「テレビの録画をスマホで撮れば良かったんじゃないか?」
「そ、ソレ……っ!」
「あははっ」
今までの緊張はなんだったのかと、みんなで笑うのだった。
そんな歌合戦もやがて終わってしまい、除夜の鐘がゴーンと響く画面になる。この後も音楽番組は続くけど、年越しに向けて一度切り替えタイムだ。
煩悩を払うわけではないけれど、僕らもみんなでスマホの写真を開いて、一年を見返しあう。それぞれが撮った写真や、クラスメイトに撮ってもらった写真などごちゃ混ぜにしたアルバムも、結構撮り溜まっていた。
「ゴールデンウイークには合宿という名ばかりの温泉旅行にいったよね。桜の季節で綺麗だった」
「夏にも旅館に行って、森林散策したな」
「男装女子部と即興劇バトルしたりぃ、ウイスキーボンボン食べて走り回ったりもしたわねぇ。変な話だけど、今になったら良い思い出よねぇ」
「海にも行ッタ……。そういうのも全部撮ッタ……。良いのだけ厳選して写真部の展示に使ッタ……」
「あとはなんてったって学祭よー! ロミジュリにバンドに模擬店巡りー。全部が全部楽しかったー」
なんて、みんなで写真を見ながら一年を振り返る。
「来年はもっと色々行きたいね」
「それよりも、まだ冬よっ! スキーとか行きたくないっ? みんなでスキー競争しようよっ!」
「それは楽しそうだけど危ないなぁ」
「冬休み明けたらスキー学習があるわねぇ……。うちの学校で貸し切りだから、多少は大丈夫じゃないのぉ?」
「そ、そうなんだ……」
咲姫の指摘で仄香の提案はすぐ叶う事が分かった。でもそれって一山貸し切りってこと? ホテルだけ? いやいや、それでもすごいな……。
「なんにせよ、来年もみんなで楽しくやろうっ。みんなを彼女にする百合ハーレムなんて、バカバカしかったかもしれないけど、僕はみんなを好きになって、みんなと過ごせて最高の一年だったよ。ありがとねっ!」
「なんだかんだ、ゆーちゃんと一緒にいるの楽しいからねー。それに、中性的なのにおっぱい大きいしレズだし」
「面倒見も……イイ……。甘えられる……」
「顔が良いわよねぇ」
「声も良いぞ?」
「アンタらブレないね……でも、ありがとう。みんなに好かれて本当に幸せだよ」
なんだかんだ、好かれているみたいで良かった……。なんにも好かれる要素がないと、本当に僕は好かれているのか不安になるから。
そうしているうちに、テレビではカウントダウンが始まっていた。僕らもみんなで、ご~よん~さん~と言い始める。
そして……。
「いぇーいっ! ハッピーニューイヤーっ! 痛っ!」
立ち上がって盛り上げようとした仄香がコタツに脚をぶつけたのだった。
「ハッピーニュー……イタッ? 仄香ちゃん、体を張ったギャグ……芸人みたいで悪くナイ……」
「新年早々ツいてないな仄香も」
「今ので今年の悪運が払えると良いわねぇ」
「そうだね……。あっ、みんな、明けましておめでとう。今年もよろしくねっ」
そんなこんなで、グダグダに僕らは新年を迎えたのだった。




