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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部三章「百合葉と美少女たちの冬」
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第08話「蘭子とクリスマスの夜」

 唇にキスの余韻が残ったま。観覧車のから僕らの街の雪明かりを眺めた帰り道。普通に駅に戻るのかと思いきや、なんだか外れた道を歩いている気がする。どこかに寄りたいのだろうか。



「蘭子? こっちは駅じゃないよね? 行きたい場所でもあるの?」



「いやな。君とクリスマスの夜を味わいたいと思って。こんな日だから、君と一緒に歩きたいんだ」



「そっか。僕もだよ。寒くても、ロマンチックな夜は出歩きたいモノだよね」



 めちゃめちゃ気持ちが分かる気がした。さっきの綺麗な夜景のあとで、さあ解散というのは味気ない気がしていたから。ドキドキきたままお互いに手を握り合って、雪がちらつく夜の街を歩く。



 雪の夜でもさすがは繁華街でクリスマス。歩く人は充分に多かった。いや、むしろカップルが多いという感じか。やっぱりみんな、こういう夜は出歩きたいものなのだろう……。



 そんな中で、急に天気が荒れてきて、はらはらとした雪が強くなり、雨混じりのみぞれに変貌を遂げた。早足になる人たち。しかしそのほとんどが相合い傘へと見た目や変えていたり。僕も傘を出そうと思っているうちに、蘭子が先に、鞄から折り畳み傘を出す。そして僕らも相合い傘カップルの仲間入りしてしまった。



「ああ、ありがとう。僕も傘持ってたんだけどね」



「なあに。私に花を持たせてくれよ。彼女として当然のことをしたまで……んっ? やってる事は彼氏か? まあどっちでもいいか。君を守るためなら、私はなんだってするさ。何せ、私は君のナイトだからな」



「そんな大げさな……。蘭子、そんなに僕のほうに傘を傾けたら濡れちゃわない?」



「なんの問題もない。私は百合葉と一緒にいるだけで常に濡れ濡れだからな。さして変わらんさ」



「下ネタやめいっ! せっかくの素敵なクリスマスだったのに台無しじゃん!」



 僕はつい蘭子の肩を叩く。だって、ショックだったのだ。素敵な聖夜が途端に欲望の性夜に変わったみたいで。



「いやいや冗談だ。もうロマンチックな夜は過ごせたから、いつも通りのノリに戻ってもいいかなと。百合葉を楽しませる為にもな」



「ううぅ……。雰囲気ぶち壊しだよぉ……。楽しめないよぉ……」



 まさかこんな道のド真ん中で聖夜が性夜に変わった瞬間が訪れようとは思わなかった。嫌だなぁ……せっかく今まで綺麗な夜だったのに……。いや、みぞれが降ったんじゃあそれどころじゃないよね。確かにタイミングは間違いじゃない……そういう問題?



 相合い傘の多い繁華街。まさかの冬でも相合い傘をするとは……。まあ今年は暖冬みたいだし、仕方のない事かもしれない。



 しかし、蘭子に手を引かれ歩いているうちに、徐々ににイヤな予感がしてきた。いや、イヤな看板が……イヤらしい看板が増えてきたと言った方がいいのか。いつの間にかそんな場所を僕らは歩いていた。



「蘭子……? ここってあんまり僕らが来たらまずい所なんじゃない……? ロマンチックも何もあったもんじゃないよ?」



 そう言ったら、蘭子は途端に自分の塗れた肩を気にしだす。



「うーむ。百合葉のせいで肩がずぶ濡れだ。どこかでドライヤーでも借りられればいいのだが」



「じ、自分で選んだ事じゃ……。ドライヤーなんてそんな都合の良いところ無いでしょ……」



「いや、あったな。一緒に来てくれ」



「え、ええ?」



 全く考えていた様子もなく、閃いたように蘭子に連れられる。戸惑ったまま引っ張られた先。イヤらしい予感がどんどん的中に近付いていく。



「ここでドライヤーを借りよう」



「……ってラブホじゃん!」



 ハートマークと星のイルミネーションがとても綺麗なホテルだった……っ。もっと隠そうとしてよっ! いや、地味な所を選んでよ!



「入るって言っても先っちょだけだから。なっ? 私と一緒にラブホテルに入ろう」



「先っちょも何も無いだろうがアンタはっ!」



「問題ない。私には中指がある」



「そういう問題じゃないっ!」



 そして中指くねくねさせるなっ! イヤらしいなぁこの子はっ!



「何を焦っているんだ百合葉。先っちょというのは、休憩の先っちょという意味に決まってるじゃないか。寒いから入りたいんだよ」



「それは先っちょとは絶対に言わない! 強いて言うならちょっとしたとしか言わない!」



「噛んだだけだ」



「なわけないでしょ! そんな噛み方ミラクルだわっ!」



「舌も指も、入れたくて疼く……いや、入りたくてうずうずしてるんだ。分かってもらえないか?」



「めちゃめちゃ異常でしょ……。もう神経見てもらいなよ……。ついでに頭も……」



 とんだクソレズだった……。この子、僕が居なかったらホテル前で女の子を無理に口説く哀れなレズになってたのかな……。いや、この美貌ではあり得ないし、こんなレズにしてしまったのは僕が原因だった……。罪深い女だな僕は……。



「と、とにかくっ! 僕は行けないよ?」



「イケないって? それは大変だ。まずは一人エッチをしてもらって、感度を上げてもらう必要もあるかもしれない。それを眺めながら私も自分で盛り上がってるから安心するんだぞ? 大丈夫、君は決して一人じゃない」



「シねぇわドアホッ! 安心も何もないわっ! 美談っぽくすんなっ!」



 と、流石に大声を出し過ぎた。通りすがる人にめっちゃ見られて恥ずかしい……。僕は心を落ち着けるために咳払い。



「とりあえずっ。無理にラブホに連れて行こうとしてもダメだからね? それでも蘭子が行こうとするなら、僕帰るからね? 本当に帰っちゃうからね?」



 と、僕の断固たる意志を伝える。しかし蘭子は聞いていないのか何かを考えていた。そして、無言のまま僕に傘を預け、段の上にのぼり明るい背景を背にして、窓ガラスに向かって踊り始めた。エロいようでカッコいい、ブレイクダンス……!?



「ちょ、何やってるの蘭子! こんなところで踊らないでよ! 恥ずかしいなぁ!」



「いや、クールな私を最大限に魅せられるステージがあったモノだから、つい踊りたくなってな」



「そんな理由が通るかっ! いやホントにやめて! めっちゃ目立ってる……っ!」



 完全にラブホの敷地内でのダンシングであった。行き交うカップルたちが指をさして笑ってる……。くぅ……恥ずかしい……。



「私の踊りをやめさせたければ、一緒にラブホに入ってくれる事だな。そうじゃなきゃあやめない。君が来るまで永遠にやめない」



「知るかそんなのっ! 置いていくからねっ!」



「おっと。待つんだ百合葉。百合葉にも見てもらわないといけないから、ホテルに入ってくれるまで踊りながら追いかけるぞ」



「そんな誘い方ある!?」 



 ダッシュで逃げても本気で追い掛けて来そうな口振りだった。いや、冗談なんだろうけど、蘭子はそんな冗談も半分本気で仕掛けくるから油断できない……。えっ? それってただの頭おかしいレズでは? まあ頭のおかしいレズは大好きなんだけど。



 めちゃくちゃに悩む僕。そんな間にも蘭子はラブホのステージで踊ってる。いやいや恥ずかしい……。彼女が恥ずかしい事をしているのが写真で取られてネットにアップされたら溜まったもんじゃない……。みぞれじゃなかったら、間違いなくネット上に晒されてるレベルだ……。



「さあ、どうするんだ? 百合葉。逃げてもいいんだぞ? 追い掛けるが。踊りながら」



「は、入るだけね……? 休憩だけだからね?」



「ああ。そうだとも。ちょっと休憩するだけさ。二人で、しっかりと休もうな?」



「ちょっとだけだよ……」



「そうだな? ちょっとだけ……」



 そんな口車に乗せられてしまって、僕ら二人はクリスマスの夜にラブホデビューする事になったのだった。

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