表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部三章「百合葉と美少女たちの冬」
398/493

第07話「蘭子とクリスマスデート」

『君のクリスマスの夜は私が買い取る。お代は私の愛全てで良いか?』



 そんなキザったらしいメールが来たのは、冬休みの前の終業式が終わってみんなで勉強した後の話だった。



 クリスマスパーティーのあと。咲姫と別れ一度自宅に帰った僕。オルゴールを一回だけ鳴らして、また部屋を出る。今朝も、咲姫家から帰って来てプレゼントを取りに一度戻ったきりだから、休む間もない一日だ。



 でも、咲姫に蘭子とのデートを悟らせるわけにはいかない。



 外は薄闇に包まれ始めた夕方。僕はもう一度、出掛けるのだった。むしろ、これからがクリスマスの本番。カップルの聖地へと。街中の待ち合わせ場所へと。



 都市らしい大きな駅。大きなクリスマスツリーでは写真撮影も行っている。煌びやかなクリスマスの装飾が至るところにあり、行き交う人は男女のカップルばかりだけど、たまに女子同士も居る。うんうん、世界は希望に満ちている……。



 一般的な認識だと、クリスマスの本番と言ったら、普通はイブから次の日にかけてだろう。それでもやっぱりクリスマスだから、まだまだ人も多い。しかし、その中で、大晦日の飾り付けも見え隠れして、企画する側も慌ただしい時期だろうなって思った。



「やあ百合葉。久しぶりだな」



「さっきまでクリスマスパーティーしてたでしょ……」



「私にとっては、百合葉に会えない時間というのは、悠久の時のように長く感じるんだ。だから、私からしたら久しぶりという感覚なんだ。早く結婚して永久の誓いを立てたい」



「ああ、そう……」



 なんでこの子はこうもキザったらしい言葉がスラスラと出てくるかな……。いや、キザなのは僕もそんなに変わらないけど、彼女は少し表現が大げさすぎるのだ。それはもうドラマチックな恋愛映画のように。



「待ち合わせにして本当に良かった。これで、咲姫には邪魔されない。携帯の位置情報アプリはもう削除してあるんだろう?」



「それはもう大丈夫。位置情報はこまめに切ってるから。咲姫だって、もうストーカーなんてしてないと思うし」



 愛の重さはまだまだ感じるけどね……。でも、蘭子も咲姫も、そういう手にはもう出ないと思っている。あくまで勘だけど、そういう独りよがりな一方的な愛からは、二人とも卒業した。そんな風に感じている。



「じゃあ早速行こうか。君を連れて行きたい場所があるんだ」



「連れて行きたい場所? ホテルとかじゃないよね?」



「今から行く場所はホテルや宿泊施設じゃないぞ?」



「あ、ああ。そう」



 警戒して問うも、あっけなく否定された。まさか、いつもエロい事ばっかり言って僕を困らせる子とは思えない……。



 これがロマンチックなクリスマス効果なのだろうか。こんなセクハラしない綺麗な蘭子もクリスマス限定? 正直、一生このままでもいい。いや、いつものセクハ蘭子ちゃんも面白いは面白いけど。



 雪がちらつく街中を歩く。寒いけど、これがいいのだと思う。枯れ葉で色味を失った茶色い街よりも、雪とイルミネーションの方が綺麗だ。



「ホワイトクリスマスだな。とても幻想的な、恋人たちの街。以前は馬鹿馬鹿しいと思っていたが、最近は百合葉と歩けたらなと思っていたんだ」



「そうだね……。僕も蘭子と一緒にイルミネーションを見れて幸せだよ」



「フッ。そうだろうそうだろう」



 蘭子にキザな言葉をぶつけてもあんまり効果は無いのだろうか。胸を張って自信を増すばかりだった。キザ×キザは案外相性が悪い? いや、そんな事はない。だって僕が好きなんだもの。



「さあ、こういう時こそ、手を繋いで歩きたいんだ。いいだろう?」



「ああ、うん。仕方がないなぁ」



 そう言われ、僕はグレーのウールの手袋を。蘭子は黒い皮の手袋をポケットに入れて、手を繋ぐ。温かくて大きな手。僕の右手をぎゅっと包み込む。こんなに大きくてもやっぱり女の子の手で、スベスベとしてゴツゴツしてないのがまた良い。やっぱり僕はどこまでいっても女の子の手の方が好きだ。



 お互いがキザな言葉を並べて口説き合って、そうしてたどり着いたのはカラフルな光の綺麗な観覧車だった。遊園地まで行く必要もなく、街中にあるから人気のスポットだ。



「君と乗りたくてさ。観覧車。素敵だろう?」



「ああ、素敵だね……。でも、観覧車に乗りたいなんて、蘭子もかわいいね」



「……っ。君と一緒だからだ。一人じゃあこんなところには絶対に来ない。時間の無駄だ」



「観覧車目の前で悪口いっちゃあダメだよ。営業妨害っ」



「そ、そうだな……」



 と、ようやくキザな蘭子からデレを引き出す事が出来た。彼女は平然と好意をぶつけてくるから、基本的には素直クールだけど、こういう時だけクーデレになるからかわいい。



 そして僕らが乗り込む時間に。蘭子が手を引いて観覧車に招いてくれる。



「さあ、足を滑らせないように早く乗るんだぞ?」



「大丈夫だよ。心配性だなぁ」



 と、観覧車に乗り込むと、蘭子の引っ張る手が強くなって、僕は蘭子の胸に飛び込む形になった。そして、観覧車の扉が閉められる。



「さあ、二人きりだな」



「ヤラシイ事しないでよ?」



「いつもの二人きりとは全然違うんだ。こんなロマンチックなところでまで、性欲を出すような私じゃないさ。ロマンも何もあったものじゃないだろう」



「ま、まあそうだね……」



 身構えていたのが馬鹿みたいだ。いや、どんな時でも散々エロい事された気がするけど、ツッコまない事にした。僕は蘭子と横に並んで席に座る。そして、どんどんと観覧車が回って、雪あかりに染まった街が見え始める。



「わぁ、きれい……」



「私からのプレゼントはこれだ。この夜景をプレゼントしたかったのさ」



「そんな百万ドルの夜景みたいに……。でも綺麗だね。僕らの街とは思えないくらいだ……」



「雪の無い時だとただの灯りだが、雪があるだけで光を反射させて、綺麗な幻想を見せてくれる。しかもこんな街中で。中々見られるものじゃないだろう」



「そうだね……。本当に綺麗……」



 僕はすっかり見下ろして見える街のイルミネーションに見とれていた。そんな中で蘭子が肩を叩く。



「私と比べたらどっちが綺麗だ?」



「……そんなの、言わなきゃダメ?」



「想いは言葉にしないと伝わらないぞ? この夜景を見る百合葉は、私にはとても綺麗に見える。その瞳に吸い込まれそうだ」



「じゃあ、吸い込んじゃおっかな……。瞳に光の幻想を映す君と一緒に」



 と、観覧車が頂点に来るころ。僕らはお互いの瞳に吸い込まれるように、顔を近付けた。そして、二人が重なる……。



 ――その瞬間。



 プルルルルッ!



「んっ……マナーモードにし忘れた……っ」



「携帯なんて気にするな。私だけを見てろ」



 そうして、鳴り響く呼び出し音の中で、僕の唇は強引に、大胆に蘭子に奪われた。頬にかかった髪の毛を払う事も忘れて。逃がすまいというように、肩からぎゅっと抱き寄せられて。お互いの舌が絡み合って、ほどけてしまわないように。



 観覧車がどんどん下がっていく。街の景色が見えなくなっていく。そんな中で蘭子はようやく唇を離した。



「私たちの愛が熱過ぎて雪景色が溶けてしまったかも知れないな」



「じゃあ、他のカップルには迷惑をかけるね」



「いいんだ。今日の主役は君と私なんだから」



「ふふっ」



 相変わらずのクサいセリフ。でも、なんだか今はそんな蘭子のキザナルシストっぷりが心地良かった。



 観覧車の扉が開けられて、僕は蘭子に手を引かれながら降りる。そして、よっと着地する時に蘭子が受け止めてくれる。



「なっ? 最高のプレゼントだっただろう?」



「そうだね……。一生忘れられそうにないよ。ありがとう」



「クリスマスの夜景を見る度に、このプレゼントを思い出せばいい。それだけで私は満足さ」



「えぇ~? 来年以降はこれないの~? 今日以上の思い出は作れないのぉ~?」



 わざと唇を尖らせて言うと、蘭子は少し焦るように頬をかく。かわいい。



「ら、来年も、再来年も……。そのあともずっとずっと思い出に残してやる。君の思い出を私でいっぱいにしてやる。覚悟しておけよ?」



「うん。楽しみにしてるよ」



 そうして僕らは観覧車の建物から降りていった。さっきの夜景、そして蘭子の瞳が脳裏に焼き付いたままで。



 ああ、確かに……。忘れられそうにないなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ