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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部三章「百合葉と美少女たちの冬」
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第07話「咲姫からのクリスマスプレゼント」

 クリスマスパーティー解散後の帰り道。みんなと別れ、咲姫と二人きりの帰り道。駅構内のベンチで話したいからと座ったのだった。ちょっとお通夜みたいな空気が流れているのは、なんだかんだ、僕がやらかしたからかもしれない。



 そんな空気の中だけど、僕は咲姫の唇に見とれていた。さっそく僕のプレゼントを使ってくれたのだ。こんな時でも綺麗な彼女に見とれているだなんて、なんて単純なんだか。男の事をバカに出来ないんじゃないかと思えてくる。



 そんな彼女の柔らかな色の唇が、意を決したようにゆっくり動く。



「百合ちゃんねぇ? ちょっと意地悪が過ぎるんじゃないかしら。みんなの前でそれぞれにプレゼントを送るなんて。百合ちゃんはそうでなくても、どうしても比べちゃうわよぉ」



「そうだよね……。それは本当に僕の失敗だ。無神経でごめんね」



「まあ? 反省してるならいいけどぉ?」



 と、すんなり許される事に。やけに素直だなぁ。何かあるのだろうか……。というのは僕の考えすぎ?



「それじゃあ、百合ちゃんの失敗は今はもう気にしませ~ん。みんな居ない事だしぃ、わたしからのプレゼント~」



「えっ、ああ。ありがとう……っ」



 と、急過ぎて反応に戸惑ってしまった。袋で渡されたのはサンタさんとクリスマスツリーのオルゴールだった。クール系女子を目指してる僕としては、やや可愛らしい過ぎる物だ。



「なんだか乙女チックなプレゼントだね。僕に似合うかなぁ」



「なぁに~? 要らないのぉ~?」



「いやいや! めっちゃ嬉しいよ! 飾らせてもらうねっ」



 ネガティブモードに入ってしまっていたので、つい心の声を漏らしてしまった。いけないいけない。こんなんじゃあ、たとえ見た目は伴っても中身がイケメン女子には程遠い。



「かわいいプレゼントだね。曲はなんなの? ……ってそりゃあクリスマスソングか。サンタさんだもんね」



「意外だったぁ~? 毎年クリスマスの曲がかかる度に、百合ちゃんがわたしが思い浮かべればなぁって思ったのぉ~っ!」



「なるほどね。でも大丈夫だよ、僕の頭は毎日咲姫の事でいっぱいだからさ」



 クサいセリフを言ったけど、スルーされてしまって悲しい。しかし、彼女も彼女で、不安なのかもしれない。クリスマスにはわたしを思い出してというわけだ。下手すれば一生の呪縛じゃないか。そんな重い気持ちも僕はウェルカムだけれど、咲姫がそういう手に出てしまう気持ちを理解した上で、僕は動かないといけない。



 しかし、今はどうする事も出来ない。ちょっと俯いた彼女を元気付ける為にも、プレゼントの話を続ける事にした。



「咲姫はオシャレさんだから、もっと大人な物が来るのかなぁって思ったよ。ブーツとかさ」



「や~ねぇ。ブーツなんて穿いてもらわないとピッタリか分かんないから、突然のプレゼントにはしにくいものよぉ~? まあ、それ以外にも理由はあるけど」



「ごめんごめん。こういう本格的なプレゼントって慣れないから、イメージが付かなかったんだ。それで? ブーツとかじゃダメっていう理由って?」



 気になったもんだから訊いてみた。何か思うところがあるのだろう。



「そう……ね……。百合ちゃんからするとねぇ、わたしって女子力高いとか、オシャレさんとか、そういうお金がかかる女に見えるかもしれないけど、そうじゃないのは分かって欲しいのよぉ。大人っぽいのももちろん好き。でも、わたしが一番大事にしたいのは、思い出かなぁって」



「確かにオルゴールも思い出に残りやすいもんね」



「そうなのぉ。そういう意味でねぇ? 安くても、思い出に残る物が好き……。思い出すきっかけになる物が好き……。水族館で貰ったイルカのキーホルダーだって、子どもっぽいかもしれないけどわたしと百合ちゃんの大事な思い出だから、あういうのもすっごく嬉しい……。あの頃の百合ちゃんは、キザなのに不器用な感じがして、可愛かったなぁ……」



「うっ……。まだまだ成長途中なんだよ……」



 確かに、イケメン女子を目指してる割にはまだまだ未熟な点も多かったかもしれない……。なんだかちょっぴり黒歴史みたいで恥ずかしい……。きっと今も、みんなが優しいから、もしくは僕に依存してるからギリギリハーレムが成り立ってるだけであって、みんなを惚れさせるイケメン女子というにはまだまだ足りないだろう。



「そんな百合ちゃんが、リップなんて背伸びした物くれるようになるなんて思わなかったなぁ。それがブーツとかお財布みたいな実用品も嬉しいけどぉ。でもいつかボロボロになっちゃうし寂しいから。ちゃんと形がそのまま残るモノをもらえるのが良いかなぁ。だから、百合ちゃんからリップをもらったのは、消耗品だからちょっと戸惑ったわよぉ? だけど百合ちゃんの言うように、使いようによっては思い出に残るし、物自体もずっと残るし、案外悪く無いかなって思ったのぉ」



「そう……だったんだね。良かった。僕はクールにプレゼントしたいところだけど、実際なにを贈ればいいのかめっちゃ悩んだもん」



「それよそれぇ~。百合ちゃんがクールでありたいように、わたしも子どもっぽいと思われたくないから背伸びしてるだけで、リボンとかフリルとかいっぱいなのも、好きなんだからぁ。ただ、そういうのを普段付けてたらぶりっ子とか言われてイジメられやすいから、表に出さないだけで」



「今もぶりっ子とか言われるのはイヤ?」



「う~うん? 今ってみんな仲良い子たちだし、そういう子に言われるのは全然良いわよ。それに、学校の子たちだって、育ちが良いのか、みんな個性的で差別なんてないし。そもそも人の趣味にケチ付ける方がバカなのよねぇ」



「珍しくきつく言うねぇ。まあね、一応お嬢様学校だから、差別が少ないのかもね。公立校とは大違いだと思うよ」



 実際に、イジメの現場には出会ったことがないし、聞いた事もない。僕も咲姫も高校デビュー組で中学の頃は冴えなかったから、なおの事そういう環境にありがたく感じられるのだろう。



「関係ない話に飛んじゃったわね……。とにかく、わたしはお金とか物とかじゃなくて、思い出を大事にして欲しいって話だったの。渡すタイミングとかも思い出の一つとしてね? それだけ覚えていて欲しいなぁって。長くなってごめんねぇ」



「分かったよ。咲姫の気持ちを色々訊けて僕は良かったと思うし。言ってくれてありがとね」



 普通、恋人にこんなにも言ってもらえないだろう。それは、女同士だからかもしれないけれど、何よりお互いを大事にしてるからかもしれない。



「まあっ? 百合ちゃんのためじゃなくて、わたしのためなんだからねっ。わたしの王子様が空気が読めなくて冴えないとかイヤなんだから」



「ごめんごめん。頑張るよ」



 僕はその気持ちが嬉しくて咲姫の頭を撫でる。ツンデレっぽい口調もかわいくて撫でる。ああ、結局は僕のためなんだ。咲姫に尽くす僕がもっとイケてる人になるためなんだ。そう思うと、心の中で溜め込んで爆発しちゃうよりも、どれだけ助かる事だろうか。普通はヘマしたら、それで愛想尽かされて破局もあるのだろう。そう考えると、二人の関係を良くするために思いやってくれる気持ちが嬉しく思えてきた。



「あぁ、僕はこんな素敵な彼女を持てて幸せだなぁ」



「な、何よぉ突然……っ」



 ノロケると、恥ずかしそうに語調を強める咲姫。普段は甘々デレデレなのに、そんな彼女も愛おしい。



 クリスマスの夕暮れ前。半端な時間だからなのか、珍しくそんなに混んでいない。構内でも端の方に座っているから、たまに通りすがる人が途切れる瞬間がある。



「ねっ? 咲姫」



「なぁに?」



 その後は無言だった。僕の目を見て彼女にも伝わったのだろう。恋人同士のこの瞬間は、気の利いた言葉をたくさん並べるのも、一切を捨ててお互いの空気だけを感じ取るのも、また良いものなのかもしれない。



 周りの喧噪が無くなったのは、実際にそうなのか心理的なものなのか。でも、どちらにせよもう止められなかった。彼女の横髪をよけて、頬を支える。潤い色の付いた彼女の唇。僕が優しく重ねる。少し開けて入り込む舌。うねって唾液が行き交って、どちらのものか分からなくなる。ぼわぁっとしてくる頭。ああ、無限にこうしていたい……。



 もし、後ろから見られていたら、人目も憚らずイチャ付いてるカップルに見られるだろう。僕の服装は出来るだけ垢抜けた中性的にまとめて居るので、後ろ姿なら男に間違われてもおかしくない。



 しかし、明確な足音が聞こえて僕らは離れた。お互いが誤魔化すように、正面を見て髪を整える。そしてまた、二人見合わせる。



「百合ちゃんの唇に、色、移っちゃったわねぇ……。付き方がやらしぃ~」



「それを言ったら咲姫だって。色がボヤケてるよ。直して来なくていいの?」



「でもぉ、今日はこのまま帰っちゃいたい気分かなぁ~」



「そうだね。それも……良いかもね」



 なんて、二人は乱れた唇を直す事なく、体をわざとらしくぶつけて合いながら、ようやく帰路に付いたのだった。

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