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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部二章「百合葉と美少女たちの秋」
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第67話「空容器を投げ捨てないでください」

 学校祭が終わり、僕らの学校生活に日常が戻ってくる。



 いつもの部室。長机でダラダラするみんな。写真部というのは看板だけで、基本はまったりす過ごす空間だ。僕はこんな居場所が心地良い。



 今日は、みんなで何しようでもなく、各々すごす時間。それもまた良し。ダルかったら帰ってもいいよとは言ってあるけれど、かなり高確率で揃うのだから、やっぱりみんな、ここが好きなんだろう。



 読書する蘭子。スマホでウィンドウショッピングしてる咲姫。仄香と譲羽に宿題を教える僕。



 そんな中で、仄香が五百ミリのミネラルウォーターを飲み終え、ビン缶専用のゴミ箱へテッテテッテと駆ける。



「そぉ~~~いっと」



「そぉいっ! じゃないの? そんなに丁寧に捨てようだなんて珍しい」



 口が開いたままの空のゴミ箱に、ガランガランと転がる音が響いた。口に出しながら捨てるかわゆい仄香ちゃんに訊ねる僕。だって、いつもの彼女なら、ゴミ入れゲームだっ! とか言って、難易度高めにスローイングするはずなのだ。



 そんな僕に対し、仄香はチッチッチッと指を振る。いちいちかわいい。略していちかわ。もちろん、一番可愛いの略だっ。……あれっ?



「っへーん! あたしがいつもそんな粗雑な人間だと思われたら困るなぁー」



「おお。よく粗雑なんて言葉知ってたね」



「どちらかと言うならば、がさつの方がピッタリだと思うがな。がさつ女子、がさつ仄香」



「がさつじゃないやいっ!」



 ああ、粗雑とがさつ、その違いはイヤなんだ。蘭子に言われ、床をダンダン踏みならす仄香。う~ん、そういうとこだぞっ。



「それでなんの風の吹き回し? 今さら優等生に目覚めた? ここお嬢様学校だし」



「いやー学校とかそんなん関係なくてさー。今のペットボトルねー。空容器を投げ捨てないでくださいって書いてあったのー。だから、そぉ~っと捨てようかなーって」



「まあ、丁寧に越した事はないけどさ……」



 投げ入れるなんて、お上品じゃないからね……。まあ、女子高生特有のお遊び感も捨てがたいけど。



 僕はお上品なお嬢様学校設定も、お下品にはしゃいでギャハハッと笑う女子校設定も、どちらの作品も好きだったり。そこに百合があれば、なんでも良いのだ。



 仄香が捨てたのは大雪山から採れる、お雪の水というミネラルウォーターだった。決して女子校がありそうなお上品な土地の名前ではない。ミネラルウォーター擬人化企画とかやったら、絶対に清楚な姫カット黒髪ロングが似合う、古風で色白な美少女になりそうとか思ってない。思ってないよ?



 むしろ北海道にお雪の水女子学園とか作れば良いんじゃない? 色白多いからお嬢様校っぽくなるよ? 山とか余った土地買い取ってさ。わき上がる透明な雪解けのような、乙女が集う学校がありましたみたいな設定でさ。いや、それ絶対に秘密の百合色学園ライフだよね。毎年学校の憧れの星、エトワールとか決めてそうだよね。お姉さま系女子と王子様系女子がエトワール戦を繰り広げるんだよね。どっちの美少女も捨てがたいなぁ~。



 そこで、可愛い服でも探していたであろう咲姫がスマホから顔を上げていた。というか、お嬢様妄想してたら咲姫ちゃんに睨まれてた……? 僕が空想美少女に心を奪われてたのがバレてる? まさかね?



「それってぇたぶん~、道端に投げ捨てないでって事じゃないかしらぁ~」



「あっ! 出た! 向こう出身の人に聞き返されると有名な北海道弁! ゴミを投げーる!」



「いや、違くてね? ってか空容器なんてよく仄香読めたね」



「はっはっはっー! 舐めてもらっちゃあ困るよ! あたしはゆーちゃんのおっぱい舐めたいけどねー! へぇーんっ!」



「舐めるな揉むなっ!」



 言ってる間に僕の後ろに立って胸を揉んでくるのだった。まったく、隙あらばセクハラな子だよこの子は。



 しかも、唐突なセクハラする割に乳首の上を狙い打ってくる確率が上がってる……。本当に怖いなこの子は……。



「空容器を教えたのはアタシ……。仄香ちゃん最初、そら容器って読んで踊ってタ……」



「あーっ! 言わないでよゆずりーん!」



 ゆずりんにバラされる仄香。その不器用な笑顔でしてやったりな顔をするゆずりんもかわゆいのだった。



「ヨッ、からようきっそらようきっ! おそらもげんきっからげんきっへいッ! ってさぁ! 楽しいじゃん!」



「まあ楽しいけどね?」



 ドゥッドゥッドゥードゥッドゥッドゥドゥッドゥ~↑ と歌いながら踊る仄香。この子の教育番組みたいな作曲センスは可愛いけど本当に謎だ。



「空色に透けたる水の器。中身が絶えれど契りは絶えず……フヘヘッ……」



 ゆずりんもゆずりんで、もっと謎な中二病を展開していた。何かな? ウンディーネでも召喚するのかな?



 同じお馬鹿でも、ユズは英語や国語にはやや強く、仄香は理科や社会に強いのだった。とは言っても、どちらも赤点回避が出来るかな~レベルだけど。



 そんな仄香が捨てたお雪の水ペットボトル。蘭子はゴミ箱に手を伸ばし、そして軽く振る。ゴミあさりはよくないなぁ。



「仄香、まだ水が残っているぞ? それに、ペットボトルの蓋も外せ」



 ああ、それは注意しても仕方ない。



「な、なんだとぅーっ!? このくらいイーじゃ~ん!」



「駄目だ。蓋を付けたままだと、ゴミ収集で潰す時に破裂する恐れがあるだろう。それに、中身が残っていたら、清掃の人がこぼして困る。だから、最後の一滴まで吸い切れ」



「ソウ……。一滴でも残して捨てれば、怒れる水の精霊ウンディーネを召喚する触媒と化ス……」



「うわーっ! どっちもやばいなー!」



 鬼畜蘭子ちゃんも中二病譲羽ちゃんも仄香をイジろうとする悪い顔をしてるのに、二人に対応しちゃういい子いい子な仄香ちゃんなのだった。



 っていうか、ウンディーネ、中身が絶えても契りは絶えずじゃないの? やっと水の触媒を断ち切ったと思っても、どっちにしろ召喚しちゃうの? それも鬼畜じゃない?



 そして仄香はペットボトルを咥えて、大きく息を吸う。



「ハッ! ペットボトルダイエット!」



「何さその顔ー!」



 あまりにもお嬢様学校には相応しくない、お馬鹿な顔だったので、僕は机に伏せて笑ってしまった。だってさ、目を見開いてるんだよ? 口はタコみたいになってるんだよ? 笑っちゃうよね。



 ベコッベコッとへこまされるペットボトル。やってる事がとてもアホである。しかも、ガリガリな彼女はダイエット不要である。



「なんだ仄香。それ以上痩せたら骨と皮のゾンビになるが、いいのか?」



「あっ! それはよくない!」



「そうはならないよ……っ」



 蘭子にイジられツッコまれる仄香ちゃんだった。



 そんな彼女が置いたペットボトルを揺らして中身を確認する。う~ん、一口未満だけど残ってるかなぁ。



「しかも、あれだけベコベコヘコませたのに、結局残った水は吸えてないっていうね。意味ないじゃん」



「あー。じゃあ飲んじゃっていいよー?」



「何さ飲んじゃってって。喉乾いてるけど、流石にこれはなぁ」



 僕はちょっと渋る。いくらケチな僕でも、やや潔癖症なところもあるのだ。



「しかし、捨てるのも面倒だぞ? こぼれたらゴミ袋の中でしばらく水が残る事になる。捨てる側は嫌だろうなぁ」



「いいよ分かったよ、飲むよ」



 蘭子にまで言われ、僕はその少しの水で喉を潤す事にした。まあ、美少女が口付けたものだと思えばそこまで抵抗がないはず……はず……。



「へぇーんっ! あたしの唾液飲み干したーっ!」



「ぶえっ! 汚いよ仄香!」



「うっそー。唾液は混ぜてませんー」



「くっ、だまされた!」



 むせそうになって喉が痛い……。なんてトラップなんだ……。



「でも、ほのちゃん呼吸した時にペットボトルの中、白く湿ってたのよねぇ……。まさか百合ちゃんはそれが目的……?」



「あれだけ呼吸してたら多少は唾液が混ざるだろうな。変態百合葉はそれが目的だったのだろう。全く困ったものだな」



「仄香ちゃんと唾液を交わす契約……? 抜け駆け、許さナイ……」



「ゆーちゃん、そんな変態プレイしちゃうくらいにあたしの事が好きなのー? それはちと、いただけないなぁー」



「煽っといてなんなのさっ!」



 みんなな視線が痛い……。美少女に見下されるのは僕は嫌いだよ? ゾクゾクなんてしないよ?



 そこで、ペットボトルを掴んだ蘭子は、それに口付け、そしてゴミ箱に投げ入れる……。すごいコントロールだ。



「はいこれで。百合葉との間接キスはもらった。もう口を開けてゴミ箱に入れたから、もう取り出す事も叶わないな」



「やぁ~ん! 蘭ちゃんだけずるぅ~い~っ! わたしも~!」



「あたしだってゆーちゃんの唾液堪能してないぞうっ! 渡すものかぁーっ!」



「百合葉ちゃんとの主従の契約は、渡さナイ……ッ」



「あっ! ゴミあさりはやめなさぁ~いっ!」



 咲姫も仄香も譲羽も、ゴミ箱のペットボトルを奪い合う。それを眺め鼻で笑う蘭子。いや、アンタも大概だからね?



 好きな人間との間接キスのためならゴミあさりもいとわない。そんな困った美少女たちなのだった。生キスならウェルカムなのになぁ。

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