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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部二章「百合葉と美少女たちの秋」
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第62話「男装女子部の喫茶店」

 無言で付いて来る二人を背に、僕は男装女子部の扉を開けた。



「おやっ!? やあやあ! なんとっ! 君は愛しの藤咲百合葉ちゃんではないかぁっ!」



「あ、ああ。白夜さん。お久しぶりです」



 入って早々に、僕らを出迎えたのは、相変わらず本物の王子様っぽい立ち振る舞いをする、金髪ショートの髪型まで王子様のような先輩だった。僕と違って本当の美少年のように細身だけどもちろん女性だ。



 春先に、僕と遊びたいからって譲羽を脅して勝負を掛けてきたりと、その強引な押しの強さには引いてしまう所はあるし警戒はしていたけれど、その自信満々なイケメンっぷりは、僕の理想とするところだったり。



「ここは順番制さっ! ボクはもう次のレディの相手をしなければならないからっ。残念だけど、まずはソファーに座って順番を待って……この場を楽しんでいっておくれぇ……!」



「あ、はい。ありがとうございます……っ」



 自然な流れで僕の手の甲に口付けていった白夜さん。ああ、なんでそんなキザな動作がサマになるんだ……。究極に顔が良いスタイルも良い。国宝級だ……。



 しかし、それを許さぬ美少女が居るわけで……。



「百合ちゃ~ん? 今の先輩が目的だったのかしらぁ?」



「キスの上書きをしないとな……」



「ちょっ! 違うって! 確かに憧れるくらいカッコいい先輩ではあるけれど、いや、惚れてないって! 無理してキスしなくていいからぁっ!」



 二人して、僕の手の甲を取ろうとする始末。なんで僕が口説かれにかかってるのか。執事の接客を楽しみにして来たのになぁ。



 なんとか二人をなだめ、ソファーに座る僕ら。どうやら男装女子部のメンバーが空き次第、案内されるようだった。切りそろえられた黒髪とメガネの似合う、生徒会副会長、黒乃さんが次々と案内。あの人は接客してくれないのかぁ。クールなお姉さま系美人なだけに、少し残念。





 と、僕らの前の人たちが次々と案内されていき、いよいよ僕らかぁ。と思っていたら、カツカツと不器用な音を慣らしながら近付いてくる小さな影が……。



 マットな加工の鈍い光沢を放った革靴を穿き、そこから上は黒いパンツスーツスタイル。燕尾服のジャケットに、灰色ストライプのベストが良く似合う。しかし、僕とサイズは変わらないであろう見事なおっぱいが服の上からも強調されていて、中々に良いショタ巨乳……。その名も翠ちゃんだ。



「あのぉ……」



「出たわねぇ? ショタ巨乳」



「ショタの癖に巨乳……? 妙だな……」



「なんで皆さんそう言うんですかっ! 流行りですかっ!?」



 咲姫にも蘭子やもショタ巨乳扱いされる翠ちゃん。何せ、教室でもちょくちょくイジられてるからね……おもに同じ部の葵くんと茜さんに。



「ちょうど、順番が私になりました……。三人とも案内……という形で良いのでしょうか?」



「ああ、うん。よろしくね」



「はいっ! 精一杯頑張らせていただきますっ!」



 ああ、なんて健気なショタ……。短い襟足とは対象に、緑色の長い前髪を、僕があげたヘアクリップで留めている。暗そうだったその見た目も、その髪留めのお陰かショタ感増し増しで、それが人気に火を付けたのだと言う。これは茜さんからの情報だ。僕もしめしめと心の中でニヤケている。



 しかし、そんな彼女に僕が気があるのを知ってるのか、咲姫も蘭子も乗り気じゃない様子。



「あらぁ~? ちょうど順番~? タイミングが丁度良すぎるわねぇ~? もしかして、アナタも百合ちゃん狙い~?」



「嘘だろうな。さっき、お客に話して早く切り上げようとする所を見てたぞ」



「ひぇっ! くっ、よく見てますね……っ」



 咲姫と蘭子に言われ、少し黒い顔を見せた健気ショタ。ふふふっ、そういう顔も好きだよ……。



「ちょっと二人とも。あんまり翠ちゃんに詰めないでよ。案内してもらえるかな? 翠ちゃん?」



「あ、はいっ。私がリードする立場なのに、すみません……っ」



 後ろから二人に文句を言われながら、なんとか僕らは案内される。席学校内の筈なのに、刺繍の豪華なソファーにアンティークな机。そこに座り待っていると、ケーキと紅茶を翠ちゃんが持ってきた。イチゴのショートケーキもアールグレイの香り……いや、咲姫と蘭子の前に出されたのはそうだけど、僕のだけなんだか違うな……。これは紅茶……?



「百合葉ちゃんだけ特別ですぅー。マスカット好きだって聴いてたので、アールグレイよりも、甘めのマスカットティーかなって。えへへ。好みじゃなかったですかね?」



「ううん、めっちゃ好きだなぁ。すごく香りが良いよ……。特別メニューでありがとね」



「ああ、良かったぁ。苦手だったらどうしようかと冷や冷やしたんです。ふふふっ」



 と、お盆で口元を隠して笑うショタメン女子翠ちゃん……。ああ可愛い……とても癒しだ……。



「いたっ」



 そんな翠ちゃんに癒されていたら、咲姫が僕の太股をつねってきた。ふふふっ、嫉妬の咲姫ちゃんもかわいい……いたっ! 連続はずるいなぁ、いたっ!



 そんな僕らのやり取りを見てか、翠ちゃんはパンッと手を叩く。



「あっ。そうですよねっ、百合葉ちゃんそこだと困りますよねっ。座る配置変えますねっ」



「えっ? うん」



「あぁ~っ!」



 そう言って、L字形に置かれた二つの長いソファーに、真ん中側に咲姫と蘭子が座るソファー。そうしてもう一つ、真ん中の咲姫と隣り合う側に、僕をよけて翠ちゃんが座ったのだった。驚く咲姫ちゃん。確かにその配置だと、咲姫は僕をつねれないけど……。



「み、翠ちゃん……。その位置で大丈夫?」



「はいっ。男装女子部には、百合葉ちゃんの意志で来られたんですよねっ? なら、私が百合葉ちゃんの相手をしっかりしないとおかしいですよっ!」



「まあ、それは言えてるけど……」



 ああっ! でもすごい咲姫ちゃんの可愛い歪み顔可愛いっ! めっちゃくちゃ悔しい想いをしてるのが丸分かり可愛いっ! 蘭子も蘭子で、ちょっと不満げな顔がとてもチャーミングだっ! それをマジマジと見せてもらえるなんて、翠ちゃんはなんてサービス精神が旺盛なのだろうっ!



「さぁて、お嬢様……いや? 百合葉ちゃんはお坊ちゃまの方が良いですか? それとも旦那様?」



「だ、旦那様で……」



 そこまでやってくれるのか。僕としては、男装が似合うイケメン女子たちを拝むつもりしかなかったから、嬉しい誤算だ。



「分かりました。では旦那様? お忙しい旦那様のために、わたくしめがケーキを食べさせてあげますっ」



 と、不器用な謙譲語を言いながら、僕にケーキを一口差し向ける翠ちゃん。しかし……。



「んー~っ!」



「落ち着け咲姫っ。あとで私たちが百合葉に仕返ししてやればいいだけだっ。人様の場所で暴れてはいけないっ」



「んぐぐぅ~……」



 咲姫ちゃんはご立腹、いや、ご乱心直前で……。それを蘭子が抑えてくれている状態だった。常識を説いてくれているけど、劇をめちゃくちゃにしようとした蘭子ちゃんにも言える事だよね? それ。



 とはまあ、直接言えないんだけどね。僕への愛ゆえに、美少女たちが正常な判断が出来なくなっているというのはとても素敵な事だ……。いや、事件は困るけども。



 愛故に、愛に狂う……とても良い事だと思いますっ!



 と思っていたら、執事服の低身長翠ちゃんが、僕の顔を覗き込んでくる。かわいい。



「旦那様? いらないのですか?」



「ありがとう。食べさせてもらおうかな?」



 そして、僕は恐る恐るだけど、翠ちゃんが差し出してくるフォークをパクリと食べる。咲姫と蘭子のアイスピックで心臓をザクザク刺してくるような視線を気にしないようにして食べる。うぅ~ん、これは安物じゃない! 僕の貧乏舌でも分かる! しっとりとした食感! これはこうきゅうひんだっ!



「うん。すごい……。生地がなめらかで、するっと溶けていく……。とても、美味しいね」



「それなら良かったですーっ。旦那様の笑顔が、わたくしの何よりもの幸せですのでっ!」



 あっ、今のセリフなんかキュンときた……。最高だ……。



「そうかい。ありがとう」



 ホッコリして、僕の口調がなんだか変になる。



 ところで、今の設定上の関係性ってなんだか怪しげじゃない? 純粋な執事の温かな気持ちによって、凍りきっていた旦那様の心が溶けていくハートフルホモエピソードとかじゃない? いや、ホモじゃないわ。百合だったわこれ。



「食べたあとはマスカットティーですよ? 旦那様の口に合うように、甘めに作ってありますっ」



「ありがとう。とても良い香りだね。胸の奥に染み入るようだよ」



 翠ちゃんから受け取って、マスカットティーを飲む。確かにこれも甘みを感じるけど、ケーキと喧嘩するほどじゃないから、バランスは良い……。



「ふ~んっ? どうせ良い茶葉かどうか分からないくせにぃ~」



「こら、咲姫~」



 僕が注意すると、ふてくされてそっぽを向く咲姫ちゃん。とてもかわいい。しかし、翠ちゃんも多分お嬢様だ。そんな子が用意したモノにケチつけようとは、よほど怖いもの知らずとしか言えない発言だ。かしこい咲姫ちゃんもとても平静では居られないのかな? かわいいからほっとくけどね。ほっとくからかわいいんだけどねっ!



「はいっ。それではイチゴも食べてしまいましょうっ。旦那様の素敵な唇に、わたくしの甘いストロベリーを押しつけます……」



 なんだか意味深な言い回しな気がしたけど、気にせず僕はパクリと食べた。一口で丸ごと。う~ん、これも安物じゃない……こうきゅうひんだ!



「美味しいね……。君のストロベリー……。このまま持ち帰って、苺狩りでもしたい気分だ……」



「あっ、旦那様、いけませんっ。執事たるわたくしめと食事をともにするだなんて……っ」



「じゃあ、一方的に食べれば、問題ないかな?」



 と、僕は翠ちゃんの顎に手を掛けていた。完全にその気な演技だ。しかし、そこで立ち上がった咲姫が、歩み寄ってきて……!



「いたっ! 咲姫、腕引っ張るのやめてっ!」



「こんな淫乱執事と一緒にいたら、アナタが汚されてしまいます! 早く帰りましょっ!」



「あ、ああ~。もう少し堪能したかったなぁ」



 僕を引っ張って、入り口に向かうのだった。蘭子もごちそうさまと言い、急いで立ち上がる。咲姫ちゃんも咲姫ちゃんで、なんだか芝居がかっているような気がしたけど? 旦那様の妻ポジション? まあそういう情熱的な恋とか好きそうだからなぁ。



「あっ、旦那様! もう、仕方がありませんね……。わたくしからエスコートしてあげられませんでしたし、続きはまた別の機会に……」



 僕らの去り際に翠ちゃんが言う。それを聴いて、カツカツと歩く咲姫の足が早くなる。いたいいたい……っ。心地良いけどマゾじゃないっ!



「あーゆりはすー。もう帰っちまうのかー。また今度なー」



「オレも。百合葉ちゃんはいつでも大歓迎だからナ?」



 部室を出るギリギリのところで、そう茜さんと葵くんに言われたけれど、返事をする前に僕らは男装女子部の執事喫茶をあとにする事になったのだった。

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