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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第38話「残された写真」

 僕は机を隔てていた二人から遠ざかって、カメラの設定をいじくる。パシャリと四人に向けて試し撮り。確認ついでに隠し撮り。うん。どうやら撮るのも問題なさそうだ。



 そうして僕が撮影画像を確かめていると、



「ええーっ! 自分ばっかり。あたしに触らせてよー」



 唇を尖らせながらタタタタッ近付く仄香。ぐるっと迂回して僕のもとへ。腕を僕の肩へまわしガシッと掴んでくる。



「あーはいはい。じゃあみんなで使い回そっか」



 本当は、身長差を生かして取れない位置まで腕を伸ばそうかと思ったけど、それで揺すられてカメラが落ちては元も子もない。下手におちょくるのはよそう……と思い僕から譲歩。



「もっと使い方慣れたら、仄香もユズも使えるようにするからね」



「わ、わかった……」



「んん~? なんでうちら二人だけなんさー!」



 などと、落ち込みつつも素直に受け入れる譲羽と違って、仄香は異議を申し立てるためにぶーたれる。小学生かよ可愛いなぁ。



「さっきの機械慣れしてない二人を見て、もしも壊れたら怖いなって思ったんだ。だから慎重に扱わないと」



 僕が言うと、「ふーん」とうなり、そしてあくどい顔でニカッと笑う仄香。



「あらやだ、お嬢さんったら。壊れたらまた買い直せば良いじゃないのぉー」



 言いつつ、西洋貴族をイメージするかのように、扇子の真似をして口元の前で扇ぐ。



「だーれがお嬢さんかっ。そういう問題じゃないでしょうに」



 彼女のおふざけブルジョア発言にペシッと叩く。しかし、いくら彼女がお嬢様だからといって、本気でそんなことを言ってるのでは無いのだと思う。だってツッコんで欲しそうにニヨニヨとしていたのだから。



「へっへー。物は大切にってやつでしょ? わかってるよぉー」



「そうだね。物を大切にするのは大事だし、それに……。学校の備品であり先代からの受け継いだ物だからさ。この先ひとりで使うことがあっても無茶な使い方はしないでね?」



 僕は仄香だけじゃなくみんなに目配せして言う。「はーい」などと四人それぞれが答え頷く。当たり前の話だけれど、緊張感が緩んだときにこそ事故が起こりやすいのだ。僕自身に言い聞かせる意味でも、たびたび口にした方がいいかもしれない。たまに僕もドジを踏むのだ。



「慣れるまではみんなで使いましょ? それなら公平だしぃ」



「そうだな。私だってうっかり落とさないとは言い切れない」



 しばらく様子を見ていた咲姫が提案し、蘭子も口を開く。ただ、蘭子は自分が大人だと過信気味な気がするなぁ……。比較的に大人ではあるんだろうけど。



「さーて! それじゃあゆーちゃん動かしてみてよー」



「はいはい。まずここを長押しして」



 僕は仄香に言われ、一度切った電源ボタンをみんなに見えるようにカメラを起動させる。直感だけど、問題ないだろう。



「んで、初期画面がこれだから、ここでズーム。ここでシャッター。他の設定は細かいから後にして。こっちのボタンを押すと今まで撮った写真が確認できるから」



 言いながら操作して見せ、さっき撮った四人の写真を開く。



「おおーっ。高画質ですなぁ」



「適当に言ってるでしょ」



「バレたかー」



「バレるよ……」



「ばれりアン……」



「バレリーナ!」



「いや、知らんけど……」



 途中ボソッと呟いたゆずりん続き謎の繋ぎを見せてくる仄香。テンションの温度差がある割には息が合ってるご様子……。かわよいですね……。



 しかし、そこでカメラに対し疑問顔の咲姫。



「この表示だと、今の画像以外にも十枚は写真データが残ってるんじゃないのぉ~?」



「あっ、ホントだ」



 よく見れば、今開いている画像の端に二十分の一と表示。つまりこの他九枚が残っているのである。



「うっひょー! ……先代が残した奇妙な写真。その謎を百合葉は解決することが出来るかッ」



「ナレーションすなっ」



 またしてもペシッと彼女の頭を叩く。



「うひひっ。でも、これしか残ってないってイミシンだよねー」



「確かに」



 言われてみればそうだ。仄香にしては頭が働くなぁと、意外と着眼点はいいのかもしれない。



「消し忘れ……じゃないわよねぇ……」



「消すに消せなかった……とか、カモ……」



「次使う人に見せたかったとかか?」



 三人が続けざまに推測する。どれもあながち間違いではなさそう。



「ま、とりあえず見てみないことには始まらないか」



 僕は言って、カメラの"次へ"の矢印を操作する。



 すると……?



「なんだ、普通じゃないの」



 みんなが見たのを確認しながら、次へ次へとボタンを押していく。冬が明け切る前だろうか。校舎を見上げた先の空。裏庭の花々。屋上からの夕焼け。整った内装の廊下に後ろ姿の生徒たち……。そんな写真らしい写真ばかりであった。



「どれも素敵ねぇ」



「技術的に……というよりは、本当に撮りたいモノを撮ったのだろうな」



「心の目……」



 咲姫と蘭子とユズが、次々と感想をもらす。



「さっきみんなが言ったとおり。上手く取れたから。あとの人にも見て欲しいから。だから残してあったのかもしれないね」



 最後のページまで確認し終えると僕がまとめるように告げ、メニュー画面へカメラを戻す。



「なーんだっ。ダイニングメッセージとか無かったのかー」



「そんなもん、あった方が困るよ……。ってかダイイングね? 食事しながら死んじゃったの?」



 毒物とかなら意味は通りそうだけど……。



「ちぇー。でも、少しはメッセージとか……ないかっ」



 やっぱり仄香はそういう事件性に期待してたのか。だけど、やはり現実はそうそう事件になど巻き込まれないもので、穏やかに……そして時々ハプニングが起こる程度に、刻々と青春が過ぎるのがほとんどでなのだろう。むしろ重大な事件なんて起こって欲しくないし。



「さあて。もう日が暮れるだろうし、みんな帰ろっか」



 意外と時間がかかったかなと思い、窓の外の重たい色味を増してきた夕紅ゆうくれないの空を見て、僕が言う。



「そーだなー。カメラはまた来週でー」



「暗くなると寒いし怖いもんねぇ」



「帰ろう……」



 そう言って帰りの身支度をするみんな。僕はカメラの電源を切ろうとボタンを押そうとする。



「あっ……」



 間違えて写真一覧を開いてしまった。片付けようとしていたのに、気になっちゃって片付けられないパターンになるじゃな

いか。



 そこで……。



 あれっ?



 端の方に残された写真。満開の花々。中央に立っている女性。



「これは……」

 花園の前で、クールな表情を恥ずかしそうに崩して映っている、渋谷先生の画像が開かれてしまったのである。

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