第59話「学校祭のメイド喫茶」
ジャンケンに勝った咲姫ちゃんが選んだ先のメイド喫茶。色々ある喫茶店の中でも、メイド喫茶は女の子が可愛いからだそうだ。まったく、この子もなんだかんだレズなんだから……。
僕個人としては、女の子の生足よりも女の子のパンツスーツを拝みたいから、執事の方が見たかったんだけど……。でも、校内展示一覧に、執事の字なんて一つも見当たらなかったから諦めよう……。なに……アテはあるさ……。
制服のスカートよりもやや短いメイド服。慌ただしい中でスカートがめくり上がった瞬間を僕は見逃さなかった。いや、覗きたい意味じゃなくてね? そんなフリル地獄の中はドロワーズスタイルの短パンを履いてるようで一安心……一安心か? そういう性癖の人もいるんじゃないか? やっぱスカートの中はジャージだねっ!
そんなフリルを揺らしながら、店員さんが駆け寄ってくる。頭には猫耳フリルのカチューシャとあざとさ満点だ。
「おかえりなさいませぇ~。ごしゅじんさまぁ~。いっぱいご奉仕するにゃんっ!」
「やぁ~んっ! かわい~っ!」
「確かに可愛いね」
「……んもうっ」
こっそり咲姫ちゃんがね。と、耳打ちしたら、めちゃめちゃに照れて、肩を小突かれた。ふふふっ、可愛いって言ってる咲姫ちゃんも可愛いし、言われた咲姫ちゃんも可愛いのだ……。つまりは、可愛いの無限連鎖……! もうっ! この世のすべてが可愛くなればいいのにねっ!
「こちらの席へどうぞ~」
席に通される僕ら。どこから調達したのか、机は僕らが普段使うような学校机ではなく、喫茶店の丸い机だった。テーブルクロスの花柄レースがかわいらしい。そこに、三角形になるように僕らは座る。
喫茶店となる教室内は、なかなかの客入りだった。校内に喫茶店の類はいっぱいあるから、激混みではないけれど、それでもそこそこの混み具合だ。これなら売り上げの余剰金も出せるんじゃない? って思ってしまうのが僕の悪い癖。現金主義なのだ。
「メニューをどうぞ~」
「ありがとうございます」
店員さんからメニューを受け取る。印刷はA4用紙がラミネート加工されたシンプルなものだけれど、問題は中身だ。
薄茶色でクラシックな縁デザインに、オシャレなフォントのメニューが並んでる……。これ作り慣れてる人のデザインじゃん……。プロとまではいかないけど、とても素人デザインには見えない。しかし何より、ロングスカートなクラシックメイドの方が似合うデザインだ……。ゆるゆる~なメイド喫茶というモノを勘違いしてる感じがまた面白い。もしや、どこぞのお嬢様の本物メイドさんが作られたとか? この学校ならあり得るから困る……。学校祭のメイド喫茶に本気を出す本職メイド……いるかもしれない……。
「なに食べよっか。って、全部デザートだね」
「それでいいのよぉ~。ご飯モノは他にいっぱいあるし、何より、デザートは別腹ってねぇっ!」
「なんだ咲姫。そんなに自分を甘やかしてたら、ぶくふくに太るぞ?」
「太りませぇ~ん~っ。わたしのかわいさに吸収されますぅ~」
「贅肉にだろう?」
「贅肉じゃないです~。それに、贅沢こそかわいさの秘訣なんですぅ~」
「そうだよなぁ。なんでもムシャムシャ食べる豚ってかわいいもんな」
「違うわよぉっ! 美味しいモノも食べて、それを栄養にして、わたしのかわいさは保たれるんですぅ~!」
「そうだったな。贅沢しても、肉にならないんだもんな。特に胸に」
「つっ! 付かないワケじゃないわよぉっ! そ、それに、アナタそんなに自分への甘やかしに厳しくしてぇ、人生楽しいのぉ~?」
「私は、百合葉さえ居れば人生楽しいぞ?」
「うぅっ、ぐぬぬ……」
あっ、咲姫ちゃんが負けたみたい。珍しくぐぬった。咲姫ちゃんから話を逸らそうとして負けたんだから、もうどうしようもない。
悔しそうに蘭子を見つめる咲姫。優越感で腕を組み見下す蘭子。どっちも可愛い。
でも、そろそろ仲裁に入らないと。
「それぞれのポリシーって事でいいんじゃない? ストイックでも自分を甘やかしても、それで綺麗でいられるならどっちも良いと思うよ。僕は二人みたいな美人は羨ましいけどなぁ」
「うう……どっちもって……。百合ちゃんはどっちの味方なのよぉ……」
「そうだぞ? 白黒付けろ、この女ったらし」
咲姫も蘭子も勝敗を付けたがる。そうさ、僕は女ったらしさ。そんなこの僕が一番とか白黒とか付けるワケないのに。ふふふっ、負けず嫌いだなぁ。
「強いて言うなら、自分らしい子の味方かな?」
「自分らしさ? 主張したが」
「いや、蘭ちゃんはわたしを攻撃してばかりだったじゃない……」
「言い合いに負けたのは咲姫だがな」
「ぐぬぬ……」
咲姫ちゃんもごもっともだった。今回の蘭子は、責めてばかりでちょっとズルいところがある。
「どんな生活スタイルでも、自分らしく綺麗であればいいと思うよ。それなのに、自分の主張で相手に勝とうとする……喧嘩する二人も可愛いね。嫌いなら無視すればいいのに。言い返すんだから、なんだかんだお互いを認めあってるんだよね。相手を認めていなかったら、相手にせず言い合いをしたいと思わないもんね」
「くっ……。まあ、なんだかんだ咲姫は美人だしな」
「まあねぇ……。蘭ちゃんのプロポーションには敵わないわよぉ……」
と、お互いの良さを認めて引き分けとなったのだった。
「えらいえらい。二人とも、お互いの綺麗さを認めてえらいよー?」
と、両脇の二人の頭を撫でる。この子ら、気は強いのに撫でられるのにはてんで弱いみたいで、むっつりとしながらも、ニヤケ面になったり。うんうん、可愛いぞっ。
そんな風に喧嘩ップルとイチャイチャしていたら、店員さんが申し訳なさそうに様子を見にくる。
「あのぉ~。注文はまだお決まりじゃないでしょうか……」
* * *
僕が抹茶クレープ。咲姫がイチゴパフェ。蘭子がチョコレートケーキを頼んだ。萌え萌えキュンなイチゴソースのハート掛けパンケーキを頼もうとしたら、二人に全力で断られた。なんだよぅ、そういうのがメイド喫茶の楽しみじゃんよぅ……。今度二人にやらせるぞぉ……?
そしてそれぞれの横にアールグレイが。甘いスイーツに苦めの紅茶。この組み合わせは良い……。しかしこれでは、メイド服の子がいるだけの、ただの喫茶店である。まあそのちぐはぐさも、学校祭だからそんなもんかぁ。
「ああ、本格派なんてほど遠い、苦みもない、ただ甘いだけの抹茶風味パフェ……美味しいなぁ」
「百合葉、それは褒めてるのか?」
「褒めてるんだよ。こういうのも大好きだもん」
「そんなものか」
蘭子は首を傾げながらチョコケーキを食べる。ああ、蘭子の唇に付くチョコレート、僕が吸い付いて舐めとってあげたい……。と思うけれど、公の場ではやめておく。レズたるもの、人前でむやみにイチャつかない。これ大事。
んっ? 劇……? 衆人環視でディープキス? 知らないなぁ。
と、蘭子の唇ばっか見ていたら、咲姫ちゃんにちょっと痛い小突きを。何かなぁ? 顔がちょっと怖いよぉ?
「百合ちゃん。はい、あ~んっ!」
「あ、ああ。咲姫もね、はい、あーん」
有無を言わさずに咲姫が言ってきたので、お互いにスプーンを差し出して、食べさせ合う。お互いが同時にってちょっと大変なんだけど、割としょっちゅうやってるから慣れてきたり。
「う~ん、美味しっ!」
「イチゴパフェも美味しいねぇ。生徒のクオリティとは思えないよ」
よく見れば、作られたモノ自体、かなりの完成度だった。これかなり練習したんじゃない? 喫茶に本気過ぎない? しょぼい作りでぼったくりも余裕な、メイド喫茶なのにだよ?
そしてそれぞれの一口を満喫し終わって、咲姫ちゃんは両頬を手で包む。
「今わたしたち、同時に食べさせたでしょ~? つまり、間接キスでぇ……。みんなの前でわたしたちキスしたのと同じよねぇ……。キャッ」
「キャッ……じゃないよ……。劇でディープキスしたのに何言ってるのさ……」
「違うわよぉ! あれも良いけど! こういう普段の中でもしちゃうのが……なんか、いいわよねぇ? 恋人っぽくて!」
「気持ちは分からないでもないけど……」
むしろめっちゃわかる気がした。こういう人が多いところで、いかにバレずにイチャつくか……。そういうのは胸にクるモノがある……。
と、僕の太股を撫でる手が……。明らかに僕の性欲を駆り立てようとするイヤらしい手つきだ。そういうバレずにじゃないよ蘭子っ! まったくエッチな子だなぁ!
「ほう? やはりロミオはジュリエットとディープキスしてたのか……。ならば、私ともディープキスしないとなぁ? ほら、口にスイーツを含んで、お互いの甘さでぐっちゃぐっちゃになろう」
「汚い! えっちだけどなんか絵面が汚いよそれっ! ほらっ、食べさせてあげるからっ!」
「まあ、仕方がないな……」
僕がスプーンを差し出したので、蘭子も同じようにスプーンを。結局蘭子とも、咲姫と同じように食べさせ合いするのだった。しかし……。
「蘭子……そのままじゃあほっぺたに当たるよ……」
「あっ、すまない……」
「ふふん。蘭ちゃんド下手ねぇ? こういうのっ、慣れてないんじゃないのぉ~?」
「くっ……」
咲姫の言うとおりだった。蘭子は強がるけれど、こういう恋人同士らしい事の経験値は足りないのだ。咲姫に煽られ、頬を赤くする蘭子ちゃーん! あーっ! かわいーっ! イケメン女子が不器用かわいーっ!




