第37話「部室整理」
そうして、先生は一通り説明が終えると、鍵を僕に預けて出ていった。こちらも屋上の鍵と一緒でスペアキーなのか、毎日、返す必要が無いらしい……あの人にどんな権限があるというのだろう……。ちょっと危なくない?
「ねえねえっ! パソコン起動しよーよー! パスワード教えてもらったんだしっ!」
「パソコンかぁ。じゃあ先に、コードとか確認しないとね」
掃除する場所も無いので棚から物を出していく。えーっと、部屋には電源タップが二ヶ所あって、そのための延長コードが二本。三股タップも二つ。あっ、パソコンの充電器とケーブルはちゃんと使えるみたい。
そこで、仄香が延長コードを持って差し込み口を色々いじくり出す。
「ねぇ、ゆーちゃん。あたし、怖い事に気がついちゃったんだけど……」
「どうしたの?」
「延長コードのコンセントを、延長コード自身に挿したらどーなんの……?」
「はっ! 無限のマナの循環……枯渇を逃れた膨大なエネルギーがこの世を進化と破滅へと追い込むっ……!? アタシはこの世の真理を見つけてシマッタ……」
「そんな無限エネルギーが生まれたら、むしろエネルギー問題が解決するよね……」
そりゃあ破滅もあるでしょうけれども。ゆずりんの妄想が突拍子なく飛躍して面白い。
「わあ~! こっちにドライヤーとアイロンあるわよぉ~! 巻くやつもあるから、これで髪の毛巻き巻き出来ちゃうわねぇ~」
「えっまじ! うっしゃー巻き巻きの巻きにしちゃうぜぇー」
「仄香巻くほどの長さ無いでしょ」
「バレたかー」
「バレるわっ」
前の部員の残したものだろう。なぜか洋服の方のアイロンまであった。ここで髪を整えたり制服にアイロン掛けしたりして居たのだろうか……。ブレーカー落ちないのかな。自由な部室だ。
「乾燥機と加湿アロマポットもあるぞ? 驚く事に、ちゃんと中が掃除されている」
「すんげー。美意識たかすぎ君かよー」
「全然部活と関係ないものばかりじゃないの……」
先代のメンバーも僕と一緒で、自由な部活にしたかったのだろうか。でもお嬢様学校に似合わず、少しチャラい印象。
そんな中、
「カメラ見つけた……」
譲羽が一眼レフの箱を引っ張り出した。
「おっ、やっと本命きたね」
「おおーっ! 見して見してー!」
「仄香が触れるとあぶないから近付かないでくれ」
「なんだよぅっ!」
蘭子に言われ「ぐぬぬ」と、でも素直に離れる仄香ちゃん可愛い。ついでに机の陰に身を潜め目元だけ出して覗いてる仄香ちゃん可愛い。つまり可愛いって事だねっ!
そうしてるうちにも、周りにはわき目もふらず。譲羽がカメラ本体を取り出し手に構えてみる。
「これで……リアルとイデアルを分け隔て無く切り取ることが出来ル……」
「リアルとイデアル?」
「あっ、なんでも……ナイ」
問うと恥ずかしがるゆずりん。現実と理想を撮りたいって事かな? 意外な英語が出てきて"はてな"とクエスチョンマーク。
「撮りたいんだったら、バッテリーを充電しないといけないといけないね」
僕が言いながら充電機を手に取ると、「あっ」と吐息を漏らす彼女。僕に任せてくれるようで、カメラを渡してくれる。
「うーん、まだまだ起動も出来ないだろうから、しばらく放置だね」
「うぇー、つまんないのー」
僕の言葉に、仄香が机の上で顔を左右にゴロゴロ揺らす。面白そうな対象がお預けされ、退屈なようである。僕にとっては彼女の行動一つ一つが面白いのだけれど。
「さっ、カメラは一旦忘れて、片付けの続きをしようよ」
手をパンッと叩いてみなをカメラから逸らさせる。なんにせよ、この部屋に何があるか把握しておかなければならないからね。
そうして。延長コードやらパソコンやら椅子やら、過ごしやすい位置に移動し終えて一段落したときであった。仄香が両手を天に、大きく声を上げる。
「三十分はたったでしょー! カメラ起動しようよっ!」
「アタシも……使ってみたい……」
ゆずりんもまたそわそわと。僕と咲姫と蘭子がどのように部室を使うか相談していた間も、二人の興味はずっとカメラに向いていたようでチラチラと見ていたのだ。
「うーん。本当はもっと充電必要だろうけど、仕方ないなぁ」
「やったぜ!」
「……ヤッタ」
無邪気に喜ぶ二人。お高いモノだろうから、壊さないか心配だが、流石に落としたりエラーにさせたりはしないだろう。
そう思ってカメラを起動させたのだけれど……。
「んんー? やばいっ! 使えない!」
「はっ。仄香ちゃんがボタンをポチポチ押したカラ……っ?」
「や、やべぇ……どうしよどうしよ……」
「ちょっと貸してよ」
さっそく問題発生であった。『カードに書き込み出来ません』? そう表示されている。内臓のメモリーカードを見ても問題なく刺さっている。壊れているのかな……。
しかし、僕が色々と角度を変え眺めていると、隣から伸びる腕。カメラを掴む。
「これ、SDカードの読み書きロックがされているのよぉ~」
「あっ、ホントだ」
小さいなロックをスライドさせカードを刺し直せば、無事に先ほどのエラーが出なくなった。意外にも、咲姫ちゃんが解決してしまったのである。う~ん、咲姫ちゃん案外機械に強い? 僕が機械にも慣れてるカッコいいところ見せたかったのに……。
「おおう! 直ったん! よっしゃー連写しまくるぜーっ!」
「あ、アタシも……首から下げて校内駆け巡り……タイ」
などとはしゃぐ二人。だけど、この子らに機械操作は任せたくないなぁ。わんぱくアホの子とドジッ子なのだから……。




