第48話「ティボルトとの決闘」
マーキュシーオの死を目撃して、怒るロミオ。そんなロミオを煽り決闘にし向けるティボルト。金属製だけどオモチャの剣を構え、二人対峙する。
「いくぞロミオ! 貴様はちょっとやそっとで死なせてなぞやらない! 今までの行いをしっかりと悔い改めさせてから殺してやる!」
「マーキュシーオを殺しておいてまだ殺し足りないというのかっ! ティボルト、お前は絶対に許さない!」
キィンッと鈍い金属音が鳴る。この作り物の剣、案外素材が重たく、よく音が響くように作られているみたいだ。
「キャーッ! 百合葉ちゃーん! 頑張って!」
「蘭子ちゃんもー!」
「ゆりはす今だー!」
「蘭子様~っ!」
結婚式のせいで、完全に声援が当たり前の劇となっていた。っていうか、蘭子も結構人気なんだね。そりゃあそうだよね。こんなイケメンだもんね。ちょっとだけ独占欲的な感情が。
でも、こんなにもカッコいいこの子が真剣に視線を注ぐのは誰だ? 僕だ……! なんだか、ほの暗い優越感が湧き出てきた。
何度か剣を交え、そして立ち位置を変えて、そしてまた剣を打つ。定番にも見えるこの剣捌きだけれど、何度も練習した流れだ。緊張で頭が重くても、今更タイミングを間違えるようなヘマはお互いにしない。
しかし、
「ロミオぉ……。貴様、ジュリエットとキスしたよなぁっ!! 絶対に許せんっ!」
えっ? そんなセリフあったっけ? っていうかティボルト、ジュリエット好きなの? 台本はそういう設定にしてなくない?
「だからどうしたっ!」
「くっ! その唇が! 汚れてしまっただろう! その唇は! 俺がもらうはずだったのに! 他の誰にも渡さないはずだったのに!」
「えっ!?」
僕の疑問の声なぞ誰も聞いていなかったみたいで、キャーッ! と声があがる。なんとこの劇、ロミオとジュリエットとティボルトの三角関係だったのだ! いや、最初からその設定なら面白いと思うけど!? 練習してないよねそれっ!
流石に頭が真っ白になり、僕は蘭子と剣劇を交わしながら、落ち着かせようと無言になる。
「ロミオめ。この俺というものがありながらジュリエットと結ばれるだなんて……。絶対に許さん! 貴様を殺して俺も死ぬ! そして二人唇を合わせたまま、同じ墓に入るのだ!」
「えっ!? 僕狙いなのっ!? ホモかよっ!」
そして愛が重いよ! 流石に今回のツッコミはコメディっぽかったみたいで、観客の笑い声が聞こえた。それとともに、なおの事強いキャーッ!! という声援が……。皆さんお腐り申してますね……。
「これ百合なの? BLなの?」
「どっちも美味しいですわね……」
そんな声が舞台裏から聞こえた……。いや確かに、一度に二度美味しい関係だけどさ……。誰が一粒で二度美味しいねん! お菓子じゃないねんっ!
ここまで来てしまったら、劇の流れなぞめちゃくちゃだ。僕の剣を払い飛ばし押し倒そうとする蘭子。その豪腕を何とか交わしながら受けきる僕。くっ、手がジンジンする……。
「ちょっと蘭子……っ。仕返しだからってやり過ぎじゃないのっ」
「ふん。私というモノがありながら、咲姫と本気でちゅっちゅするのがいけないんだ。だから、その口付けをなかった事にするために、百合葉を押し倒しその唇をもらう」
静かに交わす声。なるほどやはり。台本から外れて、咲姫ちゃんとちゅっちゅしたのが蘭子を怒らせた原因だったのだ。う~ん、この彼女めんどくさくて可愛いなぁ~。でも、劇が崩れてしまっては、みんなの苦労が水の泡だ……。いや、カーテンの裏で神に感謝するみたいに両手を組んでる藍羅ちゃんがいるけどさ……。お腐り申しているけどさ……。いや、それとも百合葉×蘭子推しの三次元百合厨かもしれないけど。クラスメイトで百合妄想はいただけないなぁ! いや僕もやってたかーっ!
ともかく、蘭子の怒りを鎮めないと、劇どころじゃない。僕はこのあと、ライブも控えているのだから。なんとか無事に終わらせないと後味が悪い。
「なら、僕からキスしようか?」
「それだけじゃあ足りないな」
「じゃあ全部が終わった後、もう少し続きをしてもいいよ?」
「……それはアリだな……。二つとも受け入れよう」
「ふふっ。欲張りさんだなぁ」
そうこっそりと二人で交わし、剣を交わし、そして、僕の剣が蘭子の脇をすり抜ける。そして、大げさに剣を引き抜く。一時停止するように立ち止まる二人。
「ぐはっ! まさか、俺が負けるとは……。貴様とともに、天に召されたかった。我が永遠のライバル、ロミオよ……」
そしてティボルトは膝から倒れるのだった。しかも、倒れる瞬間に体をひねって口付けしやすいように。ちゃっかりしてるなぁ。
「ティボルト。君の気持ち、ずっと気付かずにすまなかった。君の僕への憎悪は、お互いの家柄に苦しむ愛の裏返しだったんだね。せめて君の想いが少しでも叶うように、その気持ちに応えるとするよ……」
ちょっとセリフが素の言い方に近くなってしまった。しかし、アドリブなんだから仕方がない。僕は倒れるティボルトに口付けし、そして、手のひらで開いた目を伏せさせる動きを取る。
キャーッ!!
完全にライバル同士がデキあがってるカップリングだった。もうクライマックスだったっけ? そのくらいの歓声が体育館中に響き渡った。




