第36話「部室案内」
「見つけたのがわたしで良かったなぁ君たち? ぶつかって事故でも起こされちゃあ、部活立ち上げが問題視されかねんよ……」
「き、気をつけまするぅ……」
しょんぼりと仄香が落ち込みながら、僕らは先生のあとをついていく。
階段を上り一年生クラスが並ぶ校舎の四階へと向かう。階段を上ってそのはじっこ。先ほどよりも眩しくなった西日が少し目に痛い。
「まあ、ここだ」
"写真部"と書かれた木のプレートが窓から覗くそこは、夕暮れの方角にあった。
東側に行けば部室棟に繋がる渡り廊下があるのだけれど。教室棟のこんな隅だなんて、僕の憶測とは真逆の位置だった。だからといって別に不満があるわけじゃないんだけどね。
先生が鍵を開ければ仄香は我先にと入る。一回り見渡し、「うーん」と声を漏らす。
「意外と小さいっすねー」
「ははっ。君の胸ほどじゃないよ」
「ぐぬぬ……。先生やめてくださいようっ!」
意外と仲が良いようでセクハラしてイジる先生。 そんな、イジってくる先生に対し仄香はペシペシと大きめの胸を叩く……仲良過ぎじゃない?
「もっと活発な部活であれば、部室棟の立派な部室が与えられるのだろうがな。まあ、こんな所でも、あるだけマシだろう」
残る僕らも中に入る。長机が真ん中に二つ並列並んでいて、六人が入ってしまえば、きついとは言わないでも、もうこれ以上は息苦しくなるなという狭さだ。六畳から八畳くらいだろうか。
「冷蔵庫とポットがあるわよぉ~。綺麗なら、お茶できそうねぇ」
咲姫が目を輝かせながら、棚の引き出しを開けて中を確認していた。ある程度の備品もあるみたいだ。
「プリンターとノートパソコンもあるんですかね」
僕は、整頓された化粧箱を見つけて察し訊ねてみる。
「ああ。精密機器はそのまま入っているよ。買って五年も経ってないから、問題なく使えるだろう。カメラもあるし、初心者向けの技術書もある。インクと用紙はこちらで用意はするが、印刷の方法くらいは覚えとくべきかもな。専用ソフトもパソコンに入ったままの筈だ」
よどみなく言いながら先生はコンコンと叩く。長いこと使われていないダンボールなら埃が舞うものだけれど、全くそんなことはない。むしろ部屋の空気は締め切っていたとは思えないほど澄んでいた。
「もう少し埃っぽいかと思ってましたけど」
「これでもわたしが部室を掃除していたのだぞ? 冷蔵庫だってわたしのデザートをしまうのに……ゲフンゲフン。昨日掃除したばかりだし。感謝して欲しい」
腰に手を当て胸を張る先生。そういった子どもじみた仕草が見かけによらず、可愛いななんて思ってしまった。
「そして、卒業時まで綺麗に整頓して使ってくれた先代部長にもな」
懐かしむように言う彼女。仄香もそれを察してか、寂しそうに頷く。
そう、どんなに几帳面な性格だったのか。ダンボールなどの掃除しやすい物しか剥き出しになっていないのだ。棚の上は天井ピッタリに空き箱と書かれたダンボールが詰められ、これなら掃除する範囲もそんなに無いだろう。
「前の部活……潰れちゃったんだよね……」
仄香がポツリと問う。あまり触れちゃあいけない気もするけど、当たり前の感想かもしれない。
「そりゃあ、人が居なかったからさ。君たちも、来年再来年と新入部員をいれなければ、君たちの卒業と共に廃部だからな」
「でもうちらの卒業後はご勝手にって感じかなー」
「ちょっと仄香、ぶっちゃけ過ぎでしょ」
呆れながら僕は言う。
「ははは、そうか。だが、一人くらいは残してくれよ? 先生だってせっかくの部活が潰れるのは寂しいんだ」
「まあ、来年以降ですね、頑張ってみます」
「そうだ、頑張れ」
こぶしを軽く握って見せれば、先生は僕の背をポンポンと叩く。絡みやすいとはいえ、どうにも調子が狂うなぁ。そのうち慣れると思うけどね。




