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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部二章「百合葉と美少女たちの秋」
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第39話「本番の朝」

 目覚ましよりも早く、朝日に気がついてガバッと飛び起きる。



 妙に熱く冴えた頭。昨日は寝るの遅かった割に寝坊はしていない。時間は充分。でも、不思議な高揚感で胸がドキドキして治まらない。



 今日、ついに本番なんだ……!



※ ※ ※



 学校祭特有の騒がしい廊下。いたるところが彩られたり、使う物が端に寄せられていたりと、いつもとは違う学校に、いよいよ本番当日が来たんだなぁという実感がわく。僕は重たいギターを背負いながら思う。



 今日は劇をやった後にバンド演奏と忙しいこと尽くしだ。その忙しさを思うと目眩がするし、緊張で心臓がバクバクいって脚が思うように動かないけれど、そんな固まってなんかしていられない。譲羽にとっては、今日という日がまだまだ怖いかもしれないのだから。僕が緊張で動けなくなってどうするっ。



 無事に終わらせればいいんだ、演劇も、ライブも、無事に終わらせれば。写真部展示の準備は昨日のうちに終わらせたし、全部終われば、写真部でゆっくり休めばいいやっ。



 なんとか上り切った一年生フロアの四階。階段から廊下に出てみれば、端に座り込んでエレキギターを練習する唄佳ちゃんの姿が。ヘッドホンアンプにイヤホンを繋いでいるため、学校祭に浮ついた喧噪にかき消されそうなエレキギターの生音しか聞こえない。おそらく、僕の存在にも気づいていないのだろう。



 集中してるから邪魔しちゃ悪いかな。でも、僕らのバンドは彼女に引っ張り上げてもらったようなものだし、せっかくの本番当日なのだから、声だけはかけておかなくちゃ。



 彼女の肩を叩くと、びっくりしたように唄佳ちゃんは目を見開く。そして、イヤホンを取りストラップからギターをぶら下げたまま立ち上がる。



「唄佳ちゃん、おはようっ。頑張ってるね」



「あ、おはよー! 当然、良いライブにするためならギリギリまで頑張っちゃうかなっ……! ……ゆ、百合葉ちゃん、なんだか顔が赤いかなっ? 可愛らしいけど、どうしたのです?」



「そう? ここのところ帰りが遅かったからね……疲れが溜まってるのかも……でも、それも今日で終わりだ! 僕らも唄佳ちゃんたちに教えてもらった楽器で初ライブだし、頑張ろうねっ!」



「そ、そうかもだよねっ! がんばろーっ!」



 茶色のショートボブ頭から生えた短いサイドテールを揺らして、腕を高くあげる唄佳ちゃんかわいい。彼女は僕らのバンド演奏のあとに、もっと本格的なギターボーカルを見せてくれるはず……。女の子とロック、アニメ映えもするとても良い組み合わせ……。ふふふっ、その可愛さ、じっくり目に焼き付けようじゃないか……。



 と、可愛いクラスメイトの余韻を感じながら僕の席に向かうと、むっつり唇を尖らせたお姫様の姿が。なんて可愛いんだうちの咲姫ちゃんは……。でも、うむむ? 怒ってるのかなかな?



「百合ちゃん遅かったわねぇ~っ? どこで油売ってたのよぉ~」



 なるほど、これは完全に唄佳ちゃんと話していた事に対する嫌みである。このチクチク嫉妬してくる感じが心地よい……僕はドMじゃないです。姫様がかわいいのがいけないんです。



「あれっ? もうそんな時間かぁ。油を売ってたわけじゃないけど、ちょっとゆっくり来すぎちゃったかな」



「油を売る……? 石油……? ゆーちゃん密売ソシキだったのかぁっ!」



「仄香、日本で石油の密売はあまりないと思うよ?」



 ちょっとわからないけどね。それとも僕は過激派組織だった? 過激派百合厨の自覚はあるけどねっ!



「仄香、油を売るというのは寄り道をするという意味だぞ。まあ、実際に不必要な寄り道をしていたみたいだがな百合葉は」



「手厳しいなぁ蘭子は。そんなお堅いようじゃあモテないぞー?」



「ふんっ。私は百合葉にさえモテればいい」



「さようでっか……」



 僕がお堅いと文句言ったのは気にしないのかな……? 蘭子ちゃん、もうちょっと柔軟でもいいと思うし、でも、僕も頭堅い方だから、そんな彼女も親近感が沸いて好きだったりする。



 そもそも、僕への想いまっしぐらなお気持ちは嬉しいんだけどね。でも、それが他人をないがしろにする性格というのならいただけない。そういう恋に盲目感はめっちゃ好きだよ? けれども、その性格が災いしてあれこれ事件が起きてしまっては、僕のハーレムの平穏はないのだ。僕も、彼女らの愛に溺れ……ならぬ自惚れでないで、考えを改めなければならない。



「百合葉ちゃん、なんだかほっぺた赤イネ……。調子悪イ?」



「いやぁ、緊張かなぁー。みんなでこういう事やるなんてドキドキでしょ。でも大丈夫。楽しくやろうね」



「ウンッ」



 ああ、愛しのマイフェアリー譲羽ちゃん……。こちらこそ心配したい側というのに、僕の体調を気遣ってくれるだなんて……。その気持ちが嬉しくて、抱き寄せ頭をなでなで。撫でられ慣れているのか、ゆずりんも頭を差し出す動作がうまいぞ? いいぞいいぞ?



 まったく、頭を撫でるだけでなぜこうも疲れが吹っ飛ぶのか。それはまさに脳内がフワッと飛ぶようなこの感覚……それは実質麻薬なのでは? 最近の麻薬はかわいいパッケージも多いらしいからね。ふへへぇ~いっ! ロリ麻薬さいこぉうっ! ふへへぇ~いっ!



 違います! ロリコン犯罪者じゃないです! 彼女は同い年の合法ロリ……しかもレズロリコンは百合業界の法律で保護されているんですっ! ロリを徹底的に愛でていく、優しさに溢れたレズロリコンなんですぅ~っ!



「はいはい皆さんっ! わたくしたちの出番は午前でかなり早い時間ですわっ! その出番が終われば、皆さんはもう自由! 遊びまわってもよろしいので、目の前の本番だけはしっかりこなしていきましょうねっ!」



「はーい」



 学校祭実行委員藍羅ちゃんが青髪縦ロールを揺らしながら皆の指揮をとる。バネみたいにみょんみょん跳ねる。今日は特にバッチリ決まってるなぁ。家で何時間もかけて作り込んだのかな。



「藍羅ちゃんの髪、今日は一段と綺麗だね。すごい輝いてるよ」



「そうでございましょっ!? 今日の為に早起きしてメイドに念入りに整えて貰いましたのっ!」



 あっ、自力じゃないのかぁ。こういうところ、やっぱり本格的なお嬢様も混じり込んでる学校だなぁって思う。



 そういえば、今日はスーツでサングラスをかけた体格の良いお姉さんがいたるところに見られたし……。もしやボディーガード? 藍羅ちゃんとこか他の人のとこのか、それともこの学校全体の方針なのか。学校祭に不審者が出ても困るしね。防犯カメラが至るところにあると言ってもね。



「みんなー。劇もバンドも終わったらどこ回るー? あたし食べ歩きしたいなー。焼き鳥やってるところあるんだってー!」



「串とか食べながら歩くのは危ないからやめてよ? 仄香。 う~ん、僕はいったん、写真部で休むかなー。疲れとれてから回るかも」



「え~!? あたしすぐ回りたいのにー。もういいもんっ! ゆずりんと回るからー」



「ソウスル……。学校祭……いつもと違う空間……。アタシの中の魔力が高ブル……」



「おーおー。行っといでー」



 相変わらずこの二人はマイペースでいいなぁ。百合ハーレムといえども、いつでも五人一緒というのは息がつまるものだ。



「ふっ。無事に終わらせてから考えればいいものを。私はもちろん百合葉とともにいるぞ? 回りたいならどこまでも守ってあげるし、どこも回りたくないというのなら、私が側で愛を囁き続けてあげるさ」



「はいはい。期待してるよ……」



「何よぉっ! わたしが一日中百合ちゃんとイチャイチャするんだから~っ!」



「んっ? 咲姫はジュリエット役で、毒を飲んで死んだままだろう? 駄目だぞ、ゾンビみたいに這い回っちゃあ」



「這い回りません~っ!」



 おおう、今回は蘭子の優勢みたいだ。この子たちの口論を見るのも楽しいけれど、たまにはもうちょっと仲良くしてくれてもいいんじゃないかな? 仲良し百合の方が見てて好きなんだけどな? 百合修羅場も好きだけどね? 喧嘩してガチ修羅場をまた迎えるのは流石にもう嫌だ……。



 そんなこんなで学校のチャイムが鳴る。朝九時のチャイム。いつもなら、授業が始まる合図だけれど、今日は違う。



「さてさて! それではこれから学校祭開始! 楽しんで参りますわよ~っ!」



「オーッ!!」



 藍羅ちゃんが腕をあげて、みんなの声が廊下にまで響き渡った。

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