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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第35話「競歩競争」

「おうおうおうっ。やっと部室だぜ? わくわくすんなぁ!」



 脇をパタパタとさせ嬉しさを表す元気娘が一人。僕らは「そうだね」などと相づちを打つ。



 放課後に入る前、「藤咲とその仲間たち。部室に案内するから、後で職員室に来なさい」と、先生から呼び出しを受けたのだ。「仲間たちで一括りにされた!」と異議を唱える仄香はさておいて。



 各クラスの生徒が自由に歩き話し合う廊下の喧騒の中。僕たちは掃除が始まった教室の外に居た。



 集まった場所は多目的教室の前。五人が集まり騒ぐには丁度いいすみっこだ。というか主に仄香が騒いでいるだけなんだけど。



「何持ってく何持ってく?」



 目をらんらんに輝かせて、「トランプとー、漫画とー、ゲームとー」なんて、指折り案を挙げている彼女。



「そんな、秘密基地じゃないんだから」



「へへへー。でもやっぱ楽しみじゃんっ」



 僕が小突くと仄香は歯を見せて笑う。そんな可愛い見た目反した少年みたいにわんぱくなところも彼女のチャームポイントだ。



「でも、みんなの場所になるのよねぇ~? 飲食とか、どこまで自由に使えるかしら」



「おっ? 湯沸かしオーケーならお茶とかしちゃいますぅー?」



「放課後……ティータイム……」



「良いねそれ。憧れてたんだ」



 咲姫が白妙しろたえのきれいな指を細い顎に当て思惑顔をしていれば仄香が提案し。譲羽と僕も賛同する。



 考えてみれば、美少女たちとお茶を飲みながら放課後のひとときとか……最高じゃないか。楽しみでしかないねっ。



「部活動指導要綱だと、指導が付く家庭科室を除いて、鍋や包丁を用いる調理は駄目なはずだが……。お茶を煎れるくらいは大丈夫な筈だ」



 対し蘭子は冷静に答えてくれる。



「へぇー。よく知ってるね」



「学校のホームページで規則書があったから、昨日ダウンロードして読んだのさ」



「そ、そこまで調べてくれたんだ……ありがとね」



 彼女の肩をポンと叩く。律儀だなぁと思いつつ、「私も部員になるのだからな」と、得意げに口元を緩め目をふせる彼女の顔を見れば、意外にも楽しみにしてくれているのかもなと僕も嬉しくなる。



「まあとりあえず、そろそろ行かないとね。先生待ってるだろうし」



「おう! お待ちかねだぜ!」



「お待ちかねがね……」



 僕が言うと仄香は片手を上げて謎のやる気を出す。そこに譲羽がボソッと呟けば、



「いえあっ! お待ちかねがね! 先生カンカン! 怒りは心頭! うちらは勘当っ!」



「おおー」



「ラップかい。ってか怒ってるのかい」



「そうだよラップよ! 素人ラップよ! ノリで勝負よ! いえあっ!」



 無理やり押し通すタイプのラッパーであった。観客ゆずりんは満足げに手をパチパチしているけど。



「そんなことより早く行かないか?」



「本当に先生がぷんぷんしちゃうわよぉ?」



 そうして、落ち着いて蘭子が忠告。咲姫は鬼の角みたいに指を立てれば「ぷんぷんっ」と……可愛いよ姫さま。



「うっしゃー! 職員室まで競争だぜぇー!」



 仄香は仄香でテンション変わらず。キリッと僕らを見て走り出すようなポーズ。



「走っちゃ駄目だからね?」



「分かってるよぉー、それじゃー? よーい、ドンッ!」



「えっ!?」



 いきなりのスタートに戸惑う僕ら。仄香は宣言通り本当に走らないようで、



「競歩なら大丈夫っしょ!」



 言いながらずんずんと前へ進む。確かに両足が浮くことなく、しっかりと地を踏みしめて走ってはいない。



 呆れる僕たち。しかし、そこに颯爽と彼女に追いつく者が……。



「むっ? 貴様やりおるなぁー?」



「脚力と脚の長さには自信があるからな」



 蘭子が大人げなく勝負に乗ったのであった。なんだよ、"大人"じゃ無かったのかよ。



 離されない程度に僕ら三人はゆっくり追いかける。差しかかった階段を、仄香は細かなフットワークでサクサク下りてリード。対し蘭子は長い歩幅を生かしてまた追いつく。



「待ってよ二人ともー」



 しかし僕の声は届かない。二人並び、子どもみたいに視線を交わして熱いバトルを繰り広げているようだ。



 職員室まで最後の曲がり角。そこで仄香は足を緩めることなくギリギリを攻める。だが、蘭子はそこで躊躇して速度を落としたため、一気に仄香と差が開いてしまった。



「この仄香さんの見事なコーナリング! これは勝ったも同然かーっ!?」



 曲がる手前、後ろを向いてセルフ実況。勝利者の余裕を振り撒きだした――と思っていれば、



「いたっ!」



「何が"勝った"のかな?」



 そんな声が上がり静かになった角の先。すぐそこはゴールだと言うのに、仄香の雄叫びなどは聞こえてこない。足を止めていた蘭子は僕らを見やると、やれやれとしつつ素知らぬ顔。



 僕らは恐る恐る様子を伺えば、



「走っていないとはいえ、人にぶつからないように注意しなさい」



「はーい……」



 職員室の前。僕らの担任兼写真部顧問である渋谷先生に、仄香だけが叱られていたのであった。

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