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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部二章「百合葉と美少女たちの秋」
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第26話「楽器を覚えた帰り道」

 辺りが薄暗く、沈んだ太陽の余韻が少し残る逢魔が時。楽器を覚えた帰りの僕らは、覚えた単語を何度も使う子供みたいにテンションが高かった。



 校舎を出た帰路の始まり。ジャカジャカやドコドコと、口ギターやら口ドラムやらを口ずさむ僕ら。



 とは言っても、主にテンションが高いのは仄香なんだけどね。僕と譲羽が主に、ノってあげてる感じ。その大元である仄香は、道を歩きながらエアドラムしてる。騒がしい子で楽しいものだ。



「いやぁー楽しかったー。あれよっ? ツンタンにドコドコだよ? いやぁー、ライブが楽しみだよね ー。絶対にドコドコしたいよねー」



 それが騒がしい理由か。確かに、ライブで仄香がドコドコしていたら、ノりまくれるかもしれない。綺麗に出来ればの話だけど。



「一応言っておくけど、曲にドコドコはないからね?」



「分かってるけどさぁー。やっぱりライブでドコドコやりたいなぁー。みんなのズクズクピロピロに合わせてドコドコするのー。絶対楽しいよなぁー」



「僕らはそんなにズクズクしないし、ピロピロなんて音は奏でないよ……? 楽しくやれればなんでも良いけど」



「えぇー。ピロピロやろうよー」



「ジャカジャカだったらやるから安心してね」



「うーん、なら良しとするかぁー」



 そう仄香は納得する。それにしても、僕は内心不安ばかりなのだけれど、初心者なのにライブが楽しみって、この子はすごい胆が据わっているなぁ。それとも、そういう感情の方が普通なの?



「私も特に不安はないな。為せば成るだろうというだけさ」



「蘭子もすごいね……」



 自信家のイケメン女子らしい発言だった。そのついでに僕は、咲姫と譲羽にも視線を飛ばす。



「わたしはぁ~、ちょっと不安だけどぉ、百合ちゃんが教えてくれたからぁ~? 頑張ろって感じぃ~!」



「あ、アタシも……不安……。でも、百合葉ちゃんが付いてるし、みんなで楽しみタイ……。だから、ヤル……っ」



「良かった。みんな、絶対に無理って子はいないね」



 両肩に背負ったギターの重みを感じながら、僕は両腕を組んで深く頷く。しかし、仄香が鞄に刺したケースからスティックを取り出し、自分のカバンを叩く。



「そういうゆーちゃんはどうなのー? みんなに教えて回るくらいだから、ギターボーカル出来るんだよねー?」



 当然の質問だった。これだけ自信満々にみんなに教えていったのだし、そう思って当然だ。



「ギターはなんとか弾けるようにしたけど、ギタボはまだまだどうかな……。とにかくギターを見ないでも弾けるようにして、その後に歌いながら出来るかどうかだね」



「な、なるほどなぁ。ゆーちゃんは手が早いなぁ」



「それを言うなら覚えが早いとか言ってね……。やめてよ手が早いとか」



 仄香の間違いに僕はツッコむ。しかし、その訂正の甲斐なく、蘭子はニヤリと笑う。嫌な予感だ。



「確かに百合葉は、入学早々に私たちを口説き落としたのだから、手が早いと言えるかもしれないな。このレズ、手が早い」



「すぐ下ネタに走る蘭子には言われたくないセリフだね……っ」



 全く、どの口が言うのだろう。



「そうよねぇ……ユズちゃんに会った時に顎クイしてたの忘れないわよぉ~?」



「うっ、それは無意識で……。でもさ、みんな仲良し百合ハーレムを作りたかったんだもん。いいじゃん、今楽しいんだから」



 蘭子に続き、咲姫の攻めの一手にも僕は抗議する。すると、何も言えなくなった二人の代わりに、譲羽がうんうんと大きくうなずく。



「ソウ……。百合葉ちゃんがそんな事を考えてくれたお陰デ、みんなでバンド出来る……。不安もあるけど、でも、楽しみもイッパイ……」



「ほらっ、ユズだってこう言ってくれてるし。もう、ゆずりんは良い子だなぁ~」



「ゆ、百合葉ちゃん……恥ズカシイ……」



 と、僕がゆずりんをキーボード越しに両腕で抱き締めて、彼女の頭をヨシヨシする手を払われてしまった。これが娘が思春期に突入した気分? お父さん悲しいぞっ!



「嬉しいのもあるし、子供扱いで恥ずかしいのもアル……。でもやっばり嬉しくて、複雑……」



「そっかぁ。じゃあ撫でるだけにするかぁ」



「それは物足りナイ……抱きしめて……欲シイ」



「もう、どっちさー」



 と、ユズとイチャコラするのだった。しかし、他の子の目の前でそんな事するんだから、わざとらしい咳払いの連続が。おぉおぉ、楽譜に起こしたら滅茶苦茶になりそうなリズム! 不穏なハーモニーだぞっ。



「それよりも百合ちゃん? 学校祭のライブに向けて、わたしたちはもらった楽譜を練習すればいいのかしらぁ?」



「そうだぞ。私たちは何をすればいいんだ」



「曲を覚え始めてる蘭子が何を言ってるのさ……」



 咲姫と蘭子の嫉妬なのか、僕に詰める詰める。その距離をちょっと置いて、僕もまたコホンと誤魔化しの咳払い。



「とにかく、みんなそれぞれが一人でも練習出来るようになったから、やっとスタートラインに立てたよね? 楽譜の読み方はさっき説明した通り。それぞれのパートの音もメッセージで送ってあるし、あとは、コツを押さえるだけ」



「ほほうほう。そのコツとはっ!」



 仄香が両手をあげて問う。僕らはギターやらベースやら背負ってるのに、彼女だけ、スティックしか持ち歩いていないから、身軽そうだ。



「それじゃあ練習のコツをまとめるよ。速いフレーズも、まず一つずつ動かして練習してね。そして指を二本三本とか両手やらを追加していくの。それに慣れたらスマホアプリとかのメトロノームに合わせて練習するのも良いね。でも、そのテンポに追い付かなくてリズムが狂うくらいなら、勢いで任せに演奏した方がいいかも。一番カッコ悪いのは、安定しない事だからね」



「うぇー? 勢い任せってカッコいいじゃーん」



 案の定、仄香が反論する。しかし僕教えるのに乗り気で、チッチッチッと人差し指を振る。ちょっと我ながらクサかったかなと、内心呆れてニヤケてしまう。



「お客さんも、そして何よりみんなでリズムにノれなかったら楽しくないでしょ? だから、勢い任せでも良いから、みんなでのリズムを大切にしようね。みんなで盛り上がれる方が楽しいでしょ」



「むむっ! 確かにその通りだ!」



 一番やっかいな仄香が納得してくれたようだ。良かった。彼女が一番突っ走ってしまいそうだから。他の子たちも、うんうん頷いて僕の導いた持論を聞いてくれる。



「あとは、力任せに練習しないこと。変な癖が付くし、力をコントロールしにくいし。怪我でもして次の日練習出来なくなったら、元も子も無いからね」



「ええー。あたしツーバス練習でドコドコ踏み倒す気満々だったのに」



「アスリートだったら火事場の馬鹿力みたいでカッコいいかもね。でも、僕らがやるのはスポーツじゃなくて音楽だから。疲れない練習を考えた方がいいよ」



「なるほどなぁ。アスリートみたいなドラムに憧れてたかもしんない。気をつけるよー」



「分かってもらえたなら良かった」



 と、そんなところで僕らの別れ道に差し掛かってしまった。もうちょっと申したいことはあるけれど、LIMEのノートにでも投稿しておこう。



「そんじゃーあたしらは寮に帰りますわー。ドラムのりっちゃんが同じ寮だから、どんな風に静かに練習するのか教えてもらうんだー」



「へぇー。それはいいね。ユズも、無理のない練習をね?」



「ワカッタ。ありがとう、百合葉チャン」



 仄香の声で立ち止まり、僕は一番不安に陥りそうな譲羽に声を掛けておく。彼女は定期的に応援しないと壊れてしまいそうで怖いんだ。



 そうして、みんなで別れの挨拶をして。僕らは残ったメンバーで練習の流れを話し合うのだった。

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