第14話「初心者ギター」
「アナタはどんなギターがいいのぉ~? やっぱりかわいいやつ?」
「そうですねぇ~。わたしはピンク色とか~?」
「お金はどのくらい~?」
「うぅ~ん、二万円くらいで~」
「じゃあやっぱりこれかな~。無難なやつだけど、初心者向きで人気あるよ~? 持ってみる~?」
「はぁい」
ちょっと自信なさげに、でも少し決意するみたいに頷く咲姫。よく見るギターのデザインで、これまた柔らかなハルバードって感じで、武器にしたくなる形だ。ピンク色のボディにネジで白い板が張り付けてあって、その周りにボリュームのツマミのようなものが三つ。ガチャンとスライド出来そうな変な棒も刺さっていて、何がなにやらさっぱりだ。
ギターにベルトみたいな物を引っかけて、ケーブルを指す音山さん。そして、頭の木の部分の金属ネジを回して、音を確かめている。チューニングというやつだろうか。低い音から順に、整ったような音になっていく。
「はい、ストラップかけて~シールドを刺して~君に掛けて~はいっ、オーケー!」
「おおーう。さっきー似合うなー」
「咲姫って美人だからねぇ。ギターみたいなカッコいいのも、すごく似合ってイイね」
「んもぅ、そんなこと……あるわよねぇ~」
仄香も僕も褒めるから、咲姫も満更じゃない様子。ゆずりんも「イイ……」と一言、うっとりしながらパシャパシャ写真を撮ってる。流石は僕らの写真部係っ。……あれっ? それは写真部の本業な気がするなぁ。
「それじゃあ咲姫ちゃん。ピックを持って弾いてみようか~。咲姫ちゃんピックの持ち方分かる~?」
「い、いえ……」
「それじゃあね~、右手の人差し指と親指で摘まむようにしてピックの先を十ミリ未満くらい残して持つんだけど~、まずは人差し指の先で丸を作って、そこに親指をスライドさせて乗せる感じ……。そうそう! 良い感じだよ~! それで、ビックは落ちないズレない程度の力加減で持って、上の太い弦からゆっくりと六本、弾いて鳴らしてみて~」
「は、はぁい~」
咲姫がぎこちない手で、ピックを慎重に弦に当てて、上から順に一本ずつ鳴らす。チャラララララ~ンと、綺麗な音が鳴る。すると、音山さんはパチパチと手を叩いて、そして咲姫の肩もポンポン叩く。
「よっし! 素晴らしい! いいね~! これで君もギタリストだよ! おめでとう~!」
「え、えぇ~? わたし、コードとか何も弾けないんですけどぉ」
もっともな返しだ。コードが弾けなくて、ギタリストは名乗れないと思うんだけど。
「良いのさ~、そういうまどろっこしいのは後からでも~。そっれっにっ、最初はパワーコードって言う、ドとソ、レとラ、ミとシみたいな組み合わせの簡単でカッコいいコードがあるから! 指の形を変えなくても、平行移動だけで弾けるからね~っ! それさえ覚えちゃえば、メジャーな曲は大体なんとかなるから~!」
「そ、そうなんですかぁ~?」
「そうだよ~! だから自信持って! ギターを持った君はかわいくてクール! 最高だよ~?」
「な、なんだか自信が出てきたかもぉ~? 頑張ってみま~すっ!」
「そうそうその意気! でも無理しないでねぇ~? 辛かったり体を壊したら、音楽を楽しめないからね~。あくまで自分のペースを守ってねぇ~?」
「はぁいっ!」
と、元気に返事をする咲姫ちゃん。こんなにウキウキしてるのも珍しい。いいなぁ、僕もあのくらい、人を元気付けられるようになりたい。その方が女の子たちを輝かせられるだろうし、僕もそういう人になりたいのだ。
音山さんの持ってる要素はなんだろう。元気の良さと、とにかく褒める事と、無茶をさせない事? 音山さんの自然と褒める姿も素敵で、きっと普段から褒め慣れているのだろう。僕も、常に良いところを見つけて褒めれるように頑張らないと。美少女たちを、飽きさせないためにも。
咲姫からギターを返してもらった音山さん。ストラップやらシールドやらを片付けて元の位置に桃色のギターを戻し、そして僕の方を向く。
「それじゃあ次は百合葉ちゃん? 君はどんなギダーが好みなのかな~?」
「そうですねぇ……。カッコいい音が鳴れば? 見た目もカッコ良ければいいかな~って」
「へぇ~。カッコいいの良いよね~。君の予算はどのくらい~?」
「に、二万円くらいで……」
「そっかぁ。ならやっぱり無難なやつかな~。あっ、カッコいいというよりも、オシャレって感じだけど、これどうかなー。音は値段の割にしっかりしてるよ~?」
と、音山さんが見せてくれたのは、黄色ベースに周りがオレンジ色の、瓢箪みたいなギターだった。カッコいいとは確かに違う。でも、なんだかちょっとかわいくてオシャレな感じだ。あれでギターボーカルというのは、なんだかイメージにピッタリだ。コジャレたイケメンとかが弾いてそうな、勝手なイメージだけれども。ああいうのに手を出してみるのも、面白いかもしれない。
「悪くないですね……。持ってみても?」
「いいよいいよ~。ちょい待っててね~」
と、咲姫の時と同じ動作でギターを準備する音山さん。ストラップを掛けて、シールドを刺して、試演奏用のスピーカーのボリュームを調整してチューニングをしてという流れかな? たぶん僕も練習で何度もやる動作だろうし、一連の流れは覚えておこう。
「じゃあオーケー。ほらほら~、持ってみて~?」
「はい」
ストラップを首に通し、左肩に掛ける。背中から通したストラップがギターの下の部分に繋がっていて、音山さんが手を離しても、しっかりと僕の体から落ちることなくぶら下がる。意外と位置が高いなぁ。斜めにすると胸に当たって邪魔になっちゃう。
と、ベルト調整部分を探すと、それを察したのか音山さんが手で制す。
「もしかして短い~? 一応初心者でも弾きやすい長さにしたつもりだから、とりあえず弾いてみてから長さ調整してもらえないかな~? 左手がちょっと持ち上げ過ぎかもだから~」
「ああ、そういう事だったんですね。分かりましたー」
なら仕方ない。弾きにくい位置でやるよりも、これがベストだというのなら。音山さんにギターの位置を調整してもらって、左手で握るギターの木の部分を少し持ち上げる形に。
「まあ弾き方は人それぞれだけどね~。ギターのネック、木の長い部分ね。角度が四五度いかないくらいに持ち上げたら、邪魔になんなくて済むかも~。それで、ピックでシャラーンと弾いてみて?」
「そうなんですか」
言われて僕は、左手はネックを支える程度にして弦を一切押さえず、右手に持ったおにぎり型のピックで、上の弦から順に一本ずつ鳴らす。ああ、こんな感じなんだ。なんだか、これだけの音で曲の前奏とかになりそう……。ちょっと、胸がドキドキするというか、高揚感で弾むように、ただ同じ6音を鳴らしてしまう。これがギターを弾くって事なんだぁ……。
「よぉ~っし! そんな感じだよ~!? いいね~! 君もこれでギタリストさ~!」
「ありがとうございます。もうちょっと弾きたいけど、他の子の楽器もあるんで、このくらいで……」
「エエッ……?」
褒めてくれる音山さんにお礼を言ってギターを返そうとしたら、譲羽が困惑の声をあげる。なんだろう。
「もうちょっと……そのポーズで待ッテ……。写真撮り足りないカラ……」
「あはは……ありがとね。練習し始めたらもっと撮れるのに」
「いや……今の、インスピレーションは大事にシタイ……」
「なるほどね」
鼻息隠さず僕のギター姿を色んな角度体勢で撮る譲羽。そんなに僕の姿を撮ってくれるなんて……恥ずかしいけれど、ものすごい嬉しくて、フワフワする。




