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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
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第33話「相部屋に」

 無事に部活申請をした翌日。



「まじっ? となると、らんたんも部員になったの!? んん~やったぜ!」



 仄香が言いつつ蘭子を見れば、「ああ」と肯定する彼女。それを確認すると、テンションが上がったのか、「やべーなーおういえっ! レッツダンシンッ! ゆずりん!」と仄香と譲羽が両手をつないでグルグル回って踊る。この子らホントに仲がいいね……。かわいい。



 僕が「部活申請してきたよ」という一言を聞いて、このありさま。部長、冥利に尽きると言っていいかもしれない。ふふふっ、まさか僕の百合ハーレムの毒牙に掛かってるとも知らずにね……。んっ? 百合の毒ならむしろ全身に回らせたいくらいじゃない? つまり、僕の百合ハーレムはまったく問題ないって事だねっ!



「ではではでーはっ! では新メンバーとなりましたらんたんから一言!」



 仄香が大きく声を上げる。そのとき、突然手を離されたのでゆずりんがぐるぐると回ったまま……僕が支える。



「んっ?」



「いや、まだ部活は始まってもないし、なんなら決まってもいないんだからね」



「んん~、まあいいんじゃなぁ~い?」



 首をかしげる蘭子。気が早いなぁと僕が呆れ顔で言うと、咲姫がやんわりと場をなだめる。



「もう決まったようなもんでしょー! そんでっ。ひとことひとことー!」



「意気込みを……ドウゾッ」



「それだゆずりん!」



 僕の指摘にはお構いなしに、テンションを上げる仄香に譲羽も悪ノリして蘭子にエアマイクを向ける。それを見ると、仄香もなお便乗してカメラマン役を引き受ける。



 やれやれと蘭子。呆れつつフッと息をつく。



「気ままに楽しもうと思うさ」



「はい来ましたー! 自由気まま! 我らのスローガンフリーダムだぜっ!」



「フリーダム……それは、大いなる自由の翼を広げるコト……」



「もう活動目標と言っても過言じゃないね! いえすっ! フリーダム!」



 もはや蘭子にウザ絡みな仄香ちゃんであった。



「朝から元気ねぇ」



「ホントだよねー」



 それを見守る咲姫と僕。ときどき見ていられなくて口を出すし、もはや僕らは保護者なんじゃないかなと思う。咲姫ママと百合葉パパ。んんんっ? お似合いじゃない?



「ところでっ!」



 そこで唐突に、両腕を挙手する仄香ちゃん。



「どうしたの? いきなり」



「なにかあったぁ~?」



 僕らはハッとした思いで訊ねてみる。



「ふっふっふー。驚け驚けー? なんとなんとなんとぉー?」



 彼女は煽るように。そして「ダラララララララ」と口でドラムロールを始める。



「ダラララララララララララララララ」



「えっと……」



「ダラララララララララララララララ」



「長いよっ」



 ペシッと僕がツッコめば、ようやく「ダンッ」と終わりを決める。そして両手を斜め上へ大の字に広げポーズ。



「あたしとゆずりんが相部屋になりました!」



 「デデーン」と告げられる。一瞬、"相部屋"の意味が理解できず、咲姫と見合わせる。



「あ、相部屋?」



「せやでっ!」



「ゆずちゃんと一緒の部屋なのぉ~?」



「そうなんやでっ! ゆずりんの部屋にお邪魔するんやで!」



 言うとまた、人差し指を天に突き出しピシッと決めポーズ。いちいち可愛いな……。



「ほう……。寮の話だろう? あれは始業式より前に決まるモノだったと思うが、途中からでもそんなことが出来るのか」



 そう、まだ一週間も経っていないとはいえ今更なのである。蘭子も不思議に思ったようで、そこに言及する。



 良いのだろうかと譲羽を見ると、少しわなつきながら――も脳内で説明をまとめたのか、キリッとした表情に。



「あ、アタシ……よくわからない人といっしょは……怖いから、最初は実家のままだったの……。でも……仄香ちゃんが、居たから……」



「そうっ! んで、あたし、ちょーどひとり部屋だったんね。だから移動させてもらったぞよー」



 仄香が呪術でもかけるかのように、怪しく両手をワシャワシャ回転させる……ゆずりん催眠とか掛けられてないよね?



「まあ、良かったじゃな~い! これで楽しく過ごせるでしょ~」



「う、うん。さみしかったし……」



 パァッと母親みたいに、手のひらを胸の前で重ねて喜ぶ咲姫。譲羽も照れていながら嬉しそうであった。



「へっへっへー。これから毎日セクハラしちゃうぜ?」



「セクハラすんなっ」



 再三ではあるけれどペシッとまたツッコミ。



「大丈夫、仄香ちゃんそんなことしない……」



「うぐぅッ」



 そんな彼女に譲羽が純粋な目で見つめたので仄香がうめく。純粋無垢なロリッ子には手が出せないみたい。本音を言えばちょっと心配だけど、流石にゆずりんには……冗談だよね?



 だがそこで、水を差すような一言が。



「藤咲。ちょっと来い」



 声の主を探せば、教卓で書類作業をしていた先生が僕を呼び出していた。



「はいっ、今行きます」



 一度目をやって返事をする。



「なんだろねー」



「まあ、写真部のことだと思うよ」



 仄香の問いに席を離れながら言う。



「いってらっしゃ~い」



「いってらっさー」



 手を振る二人。つられて小さく手を振る二人。それを見て僕は先生へと向き返す。



 来いと手招き歩き出す彼女。あとに続き教室を出る。廊下に出て、隣の多目的教室前で足を止めると振り向き僕を見る。



「さて、何で呼び出されたかわかるな?」



「はい」



 短い返事。



「驚くかもしれないから覚悟して聞けよ……?」



「は、はいっ……」



「部活の件だが……」



 途中で切られる言葉。戸惑う僕。



「えっ? ま、まさか……」



 大きく目を伏せ首を振る先生。何度も口を開こうとしては溜め込んでまたやめる。たちまち走る緊張感。無くはないと思っていたけれどそんな……。



「と、通らなかったんですか……?」



 僕が意を決して訊ねれば、彼女は深く息を吸い僕を見つめる。



 くっ……。まあ、覚悟はしていた……受け入れるしかないだろう。他に百合百合出来る場所は……。



 などと思っていれば、



「……通ったよ」



「そんな……。えっ……?」



「申請が通ったさ。どうだ? 驚いただろう」



 種明かしのように両手を広げニンマリと笑う彼女。一瞬、思考が停止するも、その意味がやっと理解出来て、僕はハァーッと安堵の息をつく。



「せんせい、驚かさないで下さいよー」



「はっはっはっ。すまんすまん。君がいつまで経ってもお堅いままだったのでね。つい、ほぐしてやりたかったのさ」



 そんなにかしこまって見えただろうか。確かにこの人との距離は掴みかねていたからなぁ。というか、この人が見た目お堅いのがいけない気が……。やれやれと、茶化す先生に対しグーッと手を握り、怒りを表してみる。



「ビックリするじゃないですかー。心臓バクバクですよー」



「それは、わたしの引き延ばしテクニックのなせるワザかな」



「そんなの要らないですっ」



 プイッと腕を組んでそっぽを向く。そうすると先生は引き下がるようで、「悪かったよ」と僕の肩を撫でる。



「君とはもっと打ち解けたかったのさ。許してくれ」



「まあ良いですけれど」



 僕は逸らしていた顔を再び先生に向け、ちらと片目で見る。その引き締まった面持ちはただの遊び心ではなさそうで、一種の真剣さも滲み出ていた。



「せっかくの部活だ。私は参加しないとはいえ、君たちの後押しをしてやりたくてね」



「本格的じゃなくても?」



「そうだとも」



 僕が訊くと、うんうんと頷きながら先生。



「技術が無いからこそ。いや、名目は写真部であっても、純粋な目でこの学校の綺麗さを、楽しさを感じて、それを切り取って欲しい」



 言うと僕と視線を交わす。うーん、やはり思い入れがあるみたいだなぁ。



「随分気にいっているんですね。ここ」



「というか、本来ならば気に入って当然なのだがな。今や、誰にも触れられることなく忘れ去られた感じがイヤなんだ。素人目ではあっても、時々で良いから風景を残しておいて欲しくてね。それだけだよ」



「なるほどですね」



 僕は深く考えるように頷く。



「ご期待に添えられるか分かりませんけど、やってみますよ」



「ふふっ。重荷を背負わせるようですまないな。気軽に受け取ってくれ」



「はいはーい」



 もう打ち解けてもいいだろうと、軽い口調で返す。本人の言うとおり、僕も自由に撮らせてもらおうじゃないか。



 まあ、撮るのが風景だけとは限らないんだけどねっ。



「それじゃあな。一時限目が始まってしまう」



「おっと、そうですね」



 時計を確認すれば残り五分であった。しかし顔を上げれば、もう先生は後ろ姿で。



「では後でな」



 僕の返事は待たないように、後ろ手を振りつつ早足に立ち去る先生。見えないと分かりつつも軽くお辞儀をする。



 先生の手のひらで踊らされたけれど、どうやら上手く事が運んでいるようす。



 よし、あとは僕らの楽園、部室だけだ。

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