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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部一章「百合葉と美少女たちの夏」
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第105話「同性婚と妊娠」

 勉強を始めてかれこれ二時間ほど。どっちの教科の問題も解き終わり、僕は一息ついてペンを転がす。



「また百合葉に二秒負けた。やっぱり最初のフライングはズルだ」



「どうして二教科とも二秒だけ負けるの? 当てつけのためのわざとじゃないの?」



「さあ……知らんな……」



 そっぽを向いて誤魔化す彼女。でも僕は知っている。恐るべき速度で蘭子は問題を解いていき、そして僕の終わるタイミングに合わせて終わり際の速度を落としといた事に。ふふっ、かわいいものだ。



「とにかく、勉強は終わりー。帰るにはまだ早いし、本でも読む?」



 僕が問うと、蘭子はふむと顎に手をやり考えるポーズ。シンプルながらクールで可愛いその仕草。



「そうだな。勉強ついでに何か面白い本でもないか探しに行こう」



「オッケー」



 思い立ったらすぐに行動というように、先に立ち上がった蘭子に続くように僕も椅子から離れ、歩き出す。ずんずんと本棚へ向かう彼女。そんなに気になるコーナーでもあるのだろうか。



「実はな、私は……。こうやって当てもなくただ読みたい本を求めて、そして手に取ったその本をパラパラ読みながら友達と感想を共有するっていうのに、憧れていたんだ」



「同感かも。良いよねそういうの。楽しそうだもんね」



 読書家というほどは読まないけれど、本好きの端くれとして、そういう文学少女的なのには憧れがあったりする。ただ、その当てもない先が気になるところ……。生活? 文学とは違うけれど、何か普段の行動に生かせる事を学ぼうとしているのだろうか。



 そして、視線が上下する蘭子だったが、やがてその動きが止まった。その目の先に手をやり、彼女は本を取る。



「何それ……。『女の体と魂の在り方』?」



「ああ。面白そうだなと」



 途端に胡散臭くなったぞ? それは生活じゃなくて、哲学とかそっちの方にあるべき本な気がするけど? 魂の在り方……女としての品格の在り方とかなら信憑性が感じられるけど、魂……。適当に根拠も無くそれらしい事を言わない本だと良いけれど。



 でも、周囲は妊娠と出産とか、そういう女のライフハック書籍が並んでいるから、その関係なのかもしれない。



 そんな本を目次を見て、そして各章の題を見て、さらに終わり方を見るというパラパラ読み。こういう章終わりに結論が書いてある書籍は、飛ばして読むのが向いているのかもしれない。速読とはちょっと違うと思うけれど、中の分はどれだけその説明に根拠があるかの説明と例があるだけだったりするから、立ち読みや流し読みするには効率的な読み方だ。



「ほう。この書籍が言うには、女の体は月の満ち欠けを感じるらしいな。流石は生命を宿すだけの事はある。怪しげなタイトルの割に妙に神秘的じゃないか」



「怪しいとは思ってたんだね……」



 蘭子ちゃんが一般的な感性を持っていて安心した。こういう物を疑いもせずすぐに信じちゃうと、将来、高額なお金を取られる変なセミナーとかにハマりそうだから。



「怪しいからこそ、そして、興味もあるからこそ、その論証が正しいか考えたくてな。百合葉も論理的だから、議論しやすい書籍の方が面白そうじゃないか?」



「だからって限度はあるよ……。蘭子が月の満ち欠けの話をすぐ信じちゃうだなんて、スピリチュアルというか……行き過ぎたフェミニズムみたいじゃない?」



 まあ僕も男は嫌いだけどね。でも、極端にフェミニズムというワケでは……。いやいや違うよ? 過激派百合厨なだけだよ?



 ともかく訝しげに彼女を見やると「論理的な説明を出来なくも無いぞ?」と蘭子。



「月の重力によって潮の満ち引きもあるからな。満月の前後はお産や胎児の異変も多いと言う。月経もまた、月の満ち欠けに合わせているのかも知れない。もしくは、月の満ち欠けに合わせられない過去のメスは淘汰されたとかな」



「へー。そう言われるとそれっぽい。症例を持ち出されると、ちょっとだけ信憑性が上がったように感じるね」



「だろう? そう言えば、低気圧の日にも出産が増えるらしい。百合葉が私の子を産む時には、嵐に気を付けねばな」



「いやいや、有り得ないから」



 結局それかいとツッコミたくなった。



「しかし、どんな嵐の中でも、百合葉が産気づく時には絶対に傍に居るから安心しろ」



「暴走しすぎて人の話聞いてないや。すっごいレズ妄想だなー」



「男と違って、同じ女の身体なのだから心身共に労れるのは良い事だろう」



「その男が居ないと子供も出来ないんだけどね。そもそも同性生殖が可能になってからの話だし……」



「まあそれに関しては、万能細胞の研究が進めば同性遺伝子による受精も可能になるだろう。楽しみだ」



「生きてる内にあるかなぁ」



「可能性は開けているらしいぞ? まあ問題もあってな……」



「へえ。どんな」



 僕が顔を歪めながら問うと、蘭子は元の本を戻し、他に探し出す。そして、近くに目的のモノがあったのか、それを手に取りパラパラと。『同性婚と妊娠』? やはり結婚という題だからなのか、生活コーナーの中にレズレズしい……じゃなくて、同性愛者向けの書籍もあるみたいだ。



「うむ、やはりあった。ようやくすると、男性の皮膚細胞から卵子を作る事に成功した例があるそうだ。しかし男性の持つ染色体はXYだが、女性の染色体はXX。精子を作る上で欠かせないY染色体が足りないから、女性同士では困難らしいという……。そうそう。そこが悩みどころなんだよな。しかし、将来的には可能になるはずで……。おっと、Y染色体上の遺伝子二つを用いて、Y染色体を持たないマウスが受精可能な精子を作るようになる成果もあるらしい」



「へえ……。それは僕も嬉しいかも」



 うんうんと納得するように頷く蘭子に同調して、僕も頷く。確かに結論は理解したし、同性愛者である僕にとっても朗報だ。でも、染色体の周りの話は一発で理解するのは難しそう……。



 蘭子が理解しているのは多分、元々知っていた知識とそのプラスアルファを確認したからだろう。蘭子は最後のページの出版日を確認している。



 いつものセクハラレズレズ展開になるのかと思ったら、意外と真面目な話に落ち着いた……。新しい知識を得られて、しかも僕らレズ的には良い話だった。こういうセクハラ無しの同性愛トークだったら、僕も全然受け入れられそうだ。

蘭子ちゃんに色々語らせたかっただけの回。

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