第03話「学級委員長」
「皆、席に着きたまえ」
咲姫ちゃんのぶっ飛んだ一面を垣間見ていると教室前方のドアがガラッと開かれ、美人教師が教壇に立つ。お嬢様学校って教師まで綺麗なのかぁ……得しか無いじゃん。天国なんじゃないの? いやもしや天国か? 僕は途中でトラックか何かに跳ねられた後の天国に居る?
そんなことを思っていると、
「うふふっ、見つけちゃった」
じっと前を見据えつつ咲姫が呟く。
「えっ、なんだって?」
「ううん? 何でもないわよぉ~。先生来たから、お話聞こっ?」
僕が問い掛けると再びお姫様スマイルをキラッと輝かせて僕に微笑む咲姫。なんだよぉもぉ……うっとりしちゃうなぁもぉ……。
「わたしは、ここの担任を勤めることになった渋谷楓だ、よろしく。さて先日の大学部での入学式、誠にご苦労であった。今日は初登校早々で悪いが、実力テストを行いたいと思う」
自己紹介もそこそこに、担任の急なるテスト宣言に、不満の声が僕の脳内で響く……が、現実は僕の予想とは異なり、それぞれ学生の試練を受け入れるようであった。育ちが良いとここまで違うものなのだろうか。
テストに際して席の整列が促される中、咲姫が僕の耳に口元を近付ける。
「百合ちゃん頑張ろうねっ」
「うん、良い点目指そう」
「ふぁいとっ」と両手を握る咲姫。なんだよ、マイスウィートプリンセス咲姫ちゃん可愛すぎだよ……。彼女の為に頑張らないと……それは違うか。
※ ※ ※
「あぁー疲れたなー」
「そうだよねぇ~」
小声で話しながらこっそり前に伸びをする僕。
頭をフル回転させたからか、全身にまで疲れが広がっている。そんな、一時間目から三時間目までの主要三科目テストを終えた四時間目現在。始業式が後に来るという、不思議な時間割だけど、スムーズにことは進んで、教室に帰ってきてから始めた学級会も半ばを過ぎていた。
「今までの説明で質問はないかね? では最後に委員長と副委員長を決める」
学校説明の時間を配付資料でざっくり説明した後に、委員決めへと進んでいく。
お堅い口調の担任女教師が役割を説明し進める。クールボイスでハキハキとしていて、スッキリ良い目覚ましだ。
ところでこういう時間をLHRって略するらしい。ロングホームルーム……かっこいい。今までは総合だか朝の会だかよくわからない名前だった気がするし……いや、なおのこと意味が分からないかLHR。
「ねえねえ~」
隣の席からちょんちょんと肩をつつかれ「んっ?」と小さく反応。こんな呼び掛ける動作すら可愛いとか……この世は不平等だっ! だからその不平等な可愛さを僕だけに振りまいてくれっ! つまりは僕の百合ハーレムメンバーに入れるっちゃないね!
「わたし、委員長に立候補しようと思うからぁ~、百合ちゃんは副委員長に立候補してもらえない?」
「まじ?」
もちろんですともっ! とは即座に言わず「うーん」と首を傾げ考える。面倒な委員会仕事も彼女となら、素敵な青春の一ページになりそうな予感?
そう、これは彼女と仲良くなるチャンス。超お得大ボーナスである。向こうから提案してくれるなんて、なんて運が良いんだ僕は! 実にウェルカムさ!
「駄目……?」
頭の中でガッツポーズして少し間を置いてしまったため、咲姫は不安そうに上目遣い。その仕草、ちょっと卑怯過ぎやしません……?
「大丈夫……僕はウェルカムだよ……! もちろん、やるよ!」
「ほんとぉ!?」
「咲姫みたいなかわいい子と一緒だなんて嬉しいなぁ、喜んでっ!」
「か、かわいいって……何言ってるのよぉ~っ!」
肩をペシペシと叩いてくる彼女。この痛さはむしろ堪らない……。ドMじゃないよ?
やっぱり"かわいい"と言われることに弱いみたいだ。でも、出会って初日だっていうのに少しセリフが直球過ぎたかな? ……いや、この位が丁度良いかもしれない。なにせ相手は脳内お花畑なんだ。気取らせていただこうじゃないか、僕のお姫様。
そして彼女はと言うと、ゆるふわウェーブを左右に揺らし、「ゆんゆんゆんっ」と満更でも無いように頬に手を当て嬉しそうにしている……そんな電波チックな嬌声の意味が分からないけど浄化されそう。彼女はもはや天女だ。
そんな悪ふざけをしていると、ダンッと机を叩く音が鳴り響く。
「そこの後ろっ、うるさいぞ! 黙って話を聴かんかっ! それとも? 誰も立候補しないし、君達が学級委員を勤めてくれるのかねっ?」
おおっと……後ろの席であってもこれだけ騒げば注意されるのも当然だ……。まあ覚悟は出来ているし、それほど問題は無いさ。
「はい! 僕は副委員長をやります!」
「あ……、わたしは委員長に立候補します!」
「お……おお、そうか。じゃあこれからこの学級をまとめてもらうから、しっかり頼むぞ」
予想外の返答だった為か少しうろたえる先生であったが、間もなくキリッとした表情に戻し「後は任せる」と、続きの進行を要求する。僕たちは目を見合わせ立ち上がる。
「立候補……しちゃったねぇ」
「大丈夫だよ。副委員長として、僕が君を守るから」
ノリッノリの僕。"サポート"の間違いである。言いながら引く手の温度が上がったのが分かるな。あぁ、実にチョロい。不思議なテンションの不思議姫。
そうして咲姫が委員長で僕が副委員長となり、議会が進めることになったのだ。