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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部一章「百合葉と美少女たちの夏」
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第88話「クリアファイルを巡る旅」

「ああ……ここもナイ……」



 自転車でクリアファイルを巡ること三件目。指定のお菓子を三つ買えば、キャラのクリアファイルが一枚タダでもらえるというお手軽さからか、譲羽の欲しい物だけ無いという事が続いていた。



「残念だね……。そんなに人気なの?」



「ウン……。かなり人気のゲームだけど、このキャラはコアなファンが多いカラ……。それで高値で売れるだろうって、買い占めてる人が居るんだと思ウ」



 クリアファイルがあった台座の、デザイン一覧を指さしながら譲羽は言う。



「そっか……。それは嫌だね……」



「チケットとかなんか顕著。こういう悲しみは高いお金を払ってでも欲しいという層の足元を見られてイル。ならば、こちらが賢くなって、高い額じゃあ買わないという気持ちで居ないといけナイ。でも、やっぱり高くても行きたい人はいるだろうし、手に入らなかったからこそ欲しい人もイル。難しい……」



「そうだねぇ……。それぞれの都合があるし……。趣味にお金をかけることを否定は出来ないよね」



 オタクとしてのポリシーなのか、ユズもユズなりによく考えているものだ。そういう一面を見られて、僕はちょっと嬉しかったり。



「じゃあ、次の場所はちょっと離れるケド……。でも、奥まった場所にあるから、行ってみる価値はアル……」



「ならここは飲み物でも買うだけにして、そこに行こっか。次こそはあると良いね」



「……ウンッ」



 僕が元気付けに拳を握ると、それを見て嬉しく思ったのか、譲羽はちょっと不器用に微笑み頷く。こんなに見つからないと、不安もちょっぴりあるのだろう。



 僕は、そういう不安も払拭してあげれる損倍になりたいな。



 そうして、自転車を漕いで漕いで風景が変わっていき、隣町まできた夏のお昼どき。坂道を登って、僕は止めた自転車に体を預けて休んでいる。



 さっぱりとしたお茶を飲みながら……。自転車で風を感じながらとは言え暑いものだ。僕はハンカチで汗を拭いつつ、財布を出してコンビニに出陣する前のユズを見る。コンビニ横にはゲームとコラボレーションしている旗がはためいて、譲羽の推しキャラがクールな顔を浮かべている。それを見て彼女はうんと頷き、そして店内へ。



「百合葉ちゃん……最後の二枚……アッタ! こ、これはもしや、観賞用も買えたり……うぬぬっ!」



「良かったね! じゃあ、買っちゃおう!」



 そう言って手を伸ばそうとした矢先、さっと隣から一枚取っていく姿。同じような年齢の女の子。縮こまり僕らと目を合わせないようにそそくさと、手元の指定のお菓子ごとレジへ。



「ちょっと、タイミングが遅かったみたいだね……」



――――――――



 コンビニの前の日陰で、コラボレーションの旗と同じ柄のクリアファイルを眺めニヤケる譲羽。こんな風に、キャラクターへの愛を剥き出しにしている彼女も珍しいものだ。



「ごめんね。もうちょっと早く手を伸ばせば、二つ手に入ったのに」



「それは、イイの。あたしが確保しなかったせいもあるし……。ソレに……」



「それに?」



「観賞用も、確かに欲しい。衝動的に、欲しくなってしまったアタシが居る。でも、それは罪でギルティ。推しのキャラが他の人の手にも渡ったなら、本望……。好きな子の独り占めは……やっぱり良くないのカモ」



「独占しないって事? それは素敵な考え方だね」



 ちょっと悔しそうなむくれ顔。でも、自分に言い聞かせるように言う譲羽。その姿はとても健気で、この子は最初は不器用だと思っていたけれど、やはり他人思いの良い子なんだなぁと再確認した。



 さて。もう昼をだいぶ過ぎちゃったけど。この後どっかに行く?」



 僕が提案すると、譲羽はふるふると可愛いほっぺを左右に振る。可愛い。



「あんまり、普段運動するワケじゃないから……疲レタ。眠たい……。帰って、眺めて、寝ル」



「そっか。じゃあ、お気に入りのキャラを傷つけないように、気を付けて帰ってね?」



「百合葉ちゃんも……アタシ一番のお気に入りダカラ。今日はデートなのか分からないケド、楽しカッタ」



「ふふっ。こういうのも僕はデートだと思ってるよ?」



 ユズもデートと思ってくれていたのか。ただの友達の延長にならないかとも思ったけれど、彼女も意識してくれて嬉しい。



 と、感慨深く思っていれば、ユズが突然僕の胸元に抱きついてくる。



「このくらい、良いデショ? 喧嘩するみんなも居ないし」



「良いけど……汗の臭いとか心配だよ……」



「うぅん……百合葉ちゃんの臭いは……好きな臭さ……」



「それは好きな匂いって言って欲しかったなぁ」



 なんだか、僕の周りみんな変態的になってる感じだ。良いのやら悪いのやら。でも、大事件が起きずに日常の範囲で収まるなら、まあ良しとしよう。汗の臭いは恥ずかしいけれど。次からは常時制汗スプレーだ。



 そうして、帰る方向の違う僕は、ユズが度々振り返るのを冷や冷やしながら、手を振って、クリアファイルを巡る旅を終えるのだった。

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