第78話「バーベキューの後片付け」
花火で散々盛り上がったあとだったけれど、僕らには最後のやる事があった。後片付けだ。
花火はちょっとゴミをまとめるだけで良い。しかし、バーベキューはそうはいかない。
バーベキューセットを掃除して、終えた物を倉庫に持って行く。力仕事は、高身長で力もある方の僕らだ。か細い乙女たちに持たせる訳にもいかない。
「ふう。置いた置いた。じゃあ、帰ろう。急いで帰ろう」
「そんなに急ぐ必要があるか?」
「ま、まあ? みんなを待たせる訳にはいかないし……?」
「確かにそうだが……お、おい百合葉……」
蘭子は首をかしげる。そんな蘭子の手を引いて、僕はそそくさと倉庫を出て借りていた鍵で閉める。
い、急がなくちゃ……。
照明がいくつかあるとはいえ、スポット以外の場所は薄暗い。夏の夜。暗い校舎。いくらセキュリティがバッチリとはいえ、なんだか不気味なモノであり……。
「どうした? 百合葉……。甘えてくれるのは嬉しいが、なんだか震えているぞ?」
「い、いや……ちょっと肌寒いかな~って思って。ありがとうっ」
「そうでも無いと思うが……もしかして、暗いのが怖いのか? お化けとか」
「こ、怖くなんかないさっ! お化けなんて、非現実的なモノ、し、信じちゃあいないよ!」
「ふふふっ。まあ、そういうことにしておこう」
納得してもらえてない気がする。しかし、僕は足を早める。
「お、お化けなんて、非現実的なモノ、殴れるか分かんないからね……」
「信じてないんじゃなかったのか? とはいえ、非現実的なモノよりも、人間の方が怖いぞ? 正気を失った人間は何をするか分からないからな」
「お、男相手だったら、股間を潰してやればいいんだよ。へ、ヘーキヘーキ」
そう言うと、彼女は立ち止まってしまった。手を離したくない僕は、そのまま、止まった彼女に引っ張られるように少しのけぞる。
「蘭子……? どうしたの?」
「百合葉。君は、男の怖さというモノをあまり理解していないようだ」
「え……うん?」
俯く彼女。しかし、僕は早く帰りたい。早鐘を鳴らすように心臓が脈打つ。
「女の私がかなり本格的に鍛えて、やっと並の男に勝てる程度だ。だから、敵わないと思ったら、私でも逃げなければならない」
「そ、そうかもね……じゃあ、早く行こ?」
焦りつつも肯定する僕。しかし、蘭子は納得いってないようで、まだ続ける。
「私は、出来るだけ君の側に居て君を守ってあげる。だが、常に一緒というワケにもいかない。そんな君が一人のとき、百合葉の男への憎しみというのは、時に諸刃の剣になってしまいそうで怖いんだ。いざというときに、相手を逆上させるような事をするなよ? 男を挑発せずに下手に出てその場を凌ぐのも、また一つの強さだ」
「いいいい、今は蘭子に守ってもらおっかなー! だから、早く行こっ!」
「おい、百合葉……。まったく、伝わったんだか……」
結局、僕は蘭子の手を強く引いて早足に駆け出した。やれやれと蘭子が強く手を握り締めてくれる。
校舎横の、一番薄暗いところ。すごく心臓が高鳴る。だけど、それは、怖いからだけではなかった。
みんなの場所の明かりが遠くに見えて、僕はようやく落ち着きを取り戻す。そこで、歩みが遅くなり、ようやく蘭子の顔見上げた。
「守ってくれるなんて、ありがと、蘭子。なんだか強くなったね」
「何を言うか。私は元々強いぞ?」
「前だったら、もっと好戦的なイメージだったから」
「……守るモノが、出来たからかもしれない。一人なら、最悪命を捨てても良い。だが、君を守るという事は、君のその笑顔を守るという事は、私自身も守らないといけないんだ。だからもう、下手な事はしない。君を縛り付けたり、他の子と命を懸けるような喧嘩もふっかけない。どんな時でも、君の元に戻らないといけないからな」
「そ、そう……嬉しいよ……」
胸が、ドクンとした。な、なんだ……この子、こんなにカッコ良かったっけ……? もっと、クソレズとか言って、小馬鹿にするような子だったのに……。
いや、それも、僕を構いたいから生まれた、彼女の一つのキャラなのだ。元々は、こうカッコいい子だったのかもしれない。
まったくもう……。みんなに見せられる顔じゃないよ今……。




