第76話「ロケット花火」
「うぇーまさかロケット花火だったなんてー。騙されたよー」
「火傷しなくて良かったね……。痛い思いをするのは自分なんだから、気を付けてね?」
「へいへーい。あんまり心配されちゃうと耳が痛いぜー」
「いやいや。事実として事故起こしそうだったんだからね……」
脳天気な美少女である。怪我しなきゃあソレでいいんだけどさ。
「私たちも耳が痛いが。物理的に」
「キーンってなるわねぇ……」
「閃光弾……じゃなくて、音響弾……。対巨人用の武器になりそう……」
「危ない事はしないでね?」
オモチャじゃあ巨人とは戦えないと思うけどね……。でも、そういう武器と掛け合わせる気持ちは分かるから、中二病なゆずりんが心配だ。そのうち、ロケット花火を瓶に入れて遠距離砲とか、危ない遊び方をしそうな口振りだし。
そこに、何やら電話をしていた楓先生が、通話を終えて僕らの元へ。
「すまんなぁ。ロケット花火が入っていたの、忘れていたよ。学院長からお怒りのお声があった」
「せ、先生……。大丈夫でしたか?」
「なぁに。学長室からロケット花火の音と叫び声を聴いたから心配したみたいでな。娘の譲羽ちゃんはものすごい楽しんでいると伝えたら、軽い注意くらいで済んだよ。全く、親バカだよなぁ」
「ユズをダシに使わないでくださいよ……まあ、楽しんでますけれど」
先生も大概親バカならぬ先生バカな要素があると思うけどね……。でも、もしかしてこの先生、ロケット花火で何か面白い事をしでかさないかと考えながら黙っていたんじゃないかとも邪推してしまう。だって、ビール片手にグイッと飲んでいるだけで、全然驚いていなかったんだもん。すぐ駆け寄ったりしないんだもん。これは黒の可能性があって、ちょっぴり怖い先生だと思った。
「そういえば、ロケット花火は一本だけだったのか? 普通は五本くらいあると思うが」
「あっ! まだあったかも!」
蘭子が言うと、仄香はまたもはしゃぎだし、花火セットのロケット花火を手に。ちょいちょいちょい!
「仄香ダメ! もうロケット花火禁止だよっ!」
「えーっ!? 次こそは成功させるよー? ヒューンドパァンッ! アイラブロケット!」
「ノーノー。ダーメッ」
「うぇー? ケチー」
と、仄香が手にした残りの四本を、僕が奪い取る。ちょっとこれ……火付け紐が四本まとめて捻られているよ? 同時発射とか考えてたの? と僕が無言で訝しげな視線を送ると、仄香は鳴らない口笛をひゅーひゅー吹く……。全く、油断ならないなぁこの子ったら……。
と思っていたら、いつの間にか仄香から遠ざけていた花火が、僕の手元から抜けて……? あれっ?
「あっ! ユズ! 返しなさい!」
「こんな面白そうなもの、使わない方がギルティ……アタシの秘奥義を、篤と見るが良イワっ!」
そう言って譲羽は、火を吹き終えていた打ち上げ花火の筒にロケット花火をセットし、譲羽は四本の火付け紐に火を……! ああっ! 危ない! でも、追っかけたらまずいしっ!
「ああっ! ユズ……! ダメだってぇ~っ!」
「空を一筆豪炎の光、四つの翼は過ぎたる残像。それは天駆る鳳凰の如く……フェニックス・レイ!」
僕が取り返そうとするも時遅し。譲羽の詠唱が終わる頃には彼女の手のボトルから、空へと一直線に火飛沫が舞い、空の高い所でパパパパンッと四連続の破裂音が轟くのだった。
 




