第75話「小さな打ち上げ花火」
ドンッとパンッと。小さい打ち上げ花火が鳴る。校舎の窓にも光の輪が映る。ちょっとした花火大会気分で、仄香は「たまやー」なんて言っている。
「ケッコー豪華な花火セットだねー」
「そうだね。こんなに派手なのはやった事がなかったよ」
仄香が次の花火の筒を置きながら言う。僕みたいな庶民にとっては、こんな豪華なセットはなかなかお目にかかれないモノなのである。いや、親がケチだっただけかも?
「はぁ~いっ。またかき氷作ったわよぉ~」
「花火を見ながらかき氷……。ワビサビというやつ……」
咲姫と譲羽が、五人分のかき氷をお盆に乗せて持ってきた。味はさっきのやつみたいだけど、薄暗くて見分けが付きにくい。
「おおっ! ワビサビわさびかっ!」
「わさび味は食べたくないなぁ……。二人とも、調理室に何しに行ったのかと思ったよ」
まさか、かき氷を作ってくれているだなんて。皆、朝とは別の種類をそれぞれが取って食べる。
「流石に夜に食べると冷えるなー」
「そうだねぇ。今日は熱帯夜とかじゃないからね」
「うぐっ……頭いた……」
「冷えるって言っといて急いで食べるからだよ……」
呆れツッコむ僕。しかし、仄香は片手で頭を抑えながら、チッチッチッと指振りをする。
「美味しいものはすぐ食べ終わるのが一番! んあー、キーンってするーなんでなんだー」
いくら美味しくても、やっぱり痛みには敵わないようで、仄香は頭を抑える……。ゆっくり食べれば良いだけなのになぁ。
「有名な話だが、冷たい刺激が強すぎると感覚を伝える時に混乱が生じ、痛みに誤変換されてしまうらしいな。その他にも、一気にのどが冷えるから、急激に暖めるために血が流れ出し、それが頭の血管も拡張して炎症を起こすという説もあるそうだ」
「はえー。難しそうだなぁ」
蘭子のうんちくに仄香は首を傾げるばかりだった。まあ神経とかの話じゃあ仕方がない。
「炎症かぁ。一個目は知ってるけど、二個目は知らなかったなぁ」
「あくまで有力な説だがな。何が本当かは分からないようだ」
「これだけ医学が進んでも、まだまだ分からない事が多いんだねぇ」
僕は蘭子の話を聞いてしみじみと頷く。僕とてうんちくとかそういう知識ネタは大好きなのだ。他の子たちはそうでも無いかも知れないけど、僕は是非とも聞いていたいから、蘭子がまたうんちくを話しやすいように、相づちを打っておく。反応って大事だし。
そうして、いつの間にか、かき氷を食べ終わった仄香は、打ち上げ切った花火の筒を回収しに行く。
「はー。あったかー」
「火傷しないようにね?」
「分かってるよぉーっ! ……うわアッツ!」
「ちょっと仄香! 大丈夫っ!?」
「へへぇーん。うっそー」
「なんだ、心配して損した」
「ちょっとぉー! いいじゃんよぅー心配カラ回りでもー!」
「まあそうだけどさぁ……」
確かに、茶化すよりも普通に心配する方が僕の性に合ってるしね……? 何事も起こらなかったのならそれに越したことはないし。
「あっ、まだ手持ち花火余ってるっぼい! やっちゃおう!」
「えっ? 仄香それは……!?」
仄香が新たに花火セットから漁りだしたその花火。手持ち花火にしてはやや長い棒の先には、堅そうな小さな筒が。返しの様に火付け紐が付いていて……その形ってもしかして……!
「うわっ! 発射した!?」
仄香の手を離れ、すぐそばの校舎の土台部分に。そこで火を噴きつつ引っ掛かった花火はやがて……。
パンッと耳をつんざくように、光って大きく弾けるのだった。
 




