表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第2部一章「百合葉と美少女たちの夏」
280/493

第70話「花火と大人の人生観」

 薄い青色に包まれた学校の敷地。



 夕日の色は完全に失われ、白い外灯の明かりがあるところが、スポットライトみたいに明るく照らされている。先ほどバーベキューをやった場所は、影から見るとその木造の輪郭が黒く浮き出ていた。



 そんな場所を抜け、先生の車の横から出た、コンクリートの足元の空間。駐車場みたいにも見えるけれど、足元に白線は無いから、自由な場所なのかもしれない。



 そこで先生は、校舎の影に立ち僕らを待っていた。外灯があるため、ニンマリとした表情がうっすらと分かる。



「さあ、本日最後の素敵なアイテムさ。なんだと思うかな?」



「花火!」



 楓先生の問いに、早速手を挙げて元気よく答える仄香。すると先生は渋い顔をする。



「なんで早速当てちゃうかなー? もっと先生を楽しませて欲しいモノだがなー」



 わざとらしく眉間を押さえ、やれやれと言わんばかりに嘆息する先生。全く、なんなんだこの可愛いアラサーは。



「ほらほら。他の意見はないのかな?」



「もう答え分かっちゃってるのに……」



 でも、僕が言ってもやっぱりそれは、そういうノリの予定調和というやつなのか。仄香は一転して、考えるそぶりを。そういうノリを大事にする優しさは良いなぁ。



「よぉーっしそれなら! 肝試し!」



「天体観測……」



「ほうき星を探しちゃうぜ!」



 仄香と譲羽が言って、先生はうんうんと頷く。やっぱり、女子高生のそういうノリが大好きみたい。僕もちゃんとノってみんなと楽しめるようになりたいなぁ。



「イイぞー? そういうのもー。夜景を見ながらビール……じゃなかった。音楽プレーヤーで流行りの曲を聴きながら天体観測というのも、昔やったものさ……。なんなら準備をしておけら良かったなぁ」



 と、先生は染み入るように言って夜空を見上げる。なんだかその様子は本気で準備しても良いというような雰囲気だ。先生も先生で、こういうイベントを楽しみたいんだろうなぁ。保護者の立ち場とはいえそれもまた青春の一ページなのかもしれない。



「さぁーて。じゃあ答え発表だ」



「よっしゃあ! ダララララララララッ」



「良いドラムロールだぞー? 仄香ー」



 先生が言って、仄香は口でドラムロールを。ノリの良い二人だなぁ。でも先生? 早く言わないと、仄香が苦しそう……。



「ダラララ……ゲホッ」



「大丈夫? 仄香……」



 案の定だった。



 そして先生が後ろの黒い大きなビニール袋から出したのは……。



「花火さ!」



「おおーっう!」



「花火……ファイヤーフラワー……イイ……」



 プール鞄みたいに大きな花火セット。仄香と譲羽が目を輝かせて喜んでいる。



 しかし先生は訝しげに反応無しな僕らを見る……。



「なんだぁー? 君たちは。先生がせっかく用意したというのに、感謝の言葉も無しとは、先生悲しいなぁ」



 言われ、お互いを見る僕と咲姫と蘭子。うぅーん、反応出来なかったのは確かに良くない……。



「ありがとうございます先生。しかし、この歳にもなって花火ではしゃぐというのはどうにも恥ずかしいもので……」



「確かに花火は楽しいんだけれどねぇ~」



 僕と咲姫が見つめ、ねぇ、と気持ちを分かち合う。そう。花火は小学生のうちならはしゃぎ回って楽しめるのだけれど、高校生にもなると、ちょっと気が引けるのだ。花火をやりたい気持ちもあるし、楽しみたい気持ちもあるのに。



 そこへ、困ったように嘆息する蘭子。



「花火は先生が楽しみたいだけなのでは無いですか?」



「蘭子は分かってないなぁ。百合葉ちゃんも、咲姫ちゃんの二人もだぞ?」



 と、僕らに一言物申したい様子の先生。



「そりゃあ、花火は子供がメインで楽しめるように作られているかもしれない。でもな? 大人になってくるにつれて、そういうはしゃぐ機会そのものが減ってくるんだ。一緒にはしゃげる相手もな? だから、今のうちに楽しんでおいた方がきっといい」



 にこやかに、でも大人の人生観を語る楓先生の言葉に黙ってしまう僕ら。更に彼女は僕に意味ありげなウィンク。全く、その通りかもしれない。昼間先生に、作品に触れたら自分を俯瞰できるだなんて偉そうな事を言っておきながら、僕自身、その言葉を忘れようとしていたのだ。なんと情けない。目を少し伏せ、先生に謝る。



「何より! わたしが見ていてビールが進む!」



「結局それですか……っ」



 相変わらずな先生だった。蘭子も、読みが斜め上で、ガクッと首を傾げる。でも、下手に説教臭い大人よりも、こういう気楽な先生が顧問になってくれて、良かったなぁと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ