第28話「らんたんと仲良くなった」
授業が終わり次第、早足で教室のドアを開く。そう、それは購買の『極上とろけるプリン』が売り切れる前に! なんてことじゃなくて。保健室へ咲姫の様子を見に……っ!
……と思ったのだけれど。
「さ、咲姫っ? もう大丈夫なの?」
廊下に出るより先にやや浮かない顔の彼女が視界に飛び込む。
「熱もないし、大丈夫よぉ~。心配してくれてありがとねぇ」
やんわりと微笑み笑顔を向ける。機嫌自体は治っているようだが、心持ちは元気そうに見えず。もしかして眠れなかった? 彼女の中で葛藤があったのかもしれない。
「あ、さっきー! 体調平気なん?」
「うふふっ、心配かけてごめんねぇ~」
念のため肩をさすり支えながら僕らの席へ向かうと、仄香と譲羽がパタパタと飛んできた。
「咲姫ちゃん……眠れた?」
「ばっちりよぉ~」
譲羽の問いにぎゅっと手を握り、元気アピールをする咲姫。うーん、表面上は取り繕ってくれるみたいで安心だ。
しかし、
「さっきー! 聞いて聞いて! ウチら、らんたんと仲良くなったさ! あの子めっちゃおもろいやっちゃ!」
仄香が不安の種に水を差すのだった。やばいやばいよ? 不安が芽生えちゃうよ?
「ら、らんたん……?」
「蘭子ちゃん……鈴城さんの……コト」
「あ、あぁ~……」
突然の固有名詞に戸惑っていると、譲羽が注釈を入れる。その指し示すの名前を聞くや否や、すーっと表情に陰りが見える――も、すぐに明るい面持ちを取り戻す。
「へぇ、そうなのぉ~。ってことは、わるい人じゃなかったのねぇ?」
「うん……良い人……」
「良い人ってより面白い人なんだってー! 変人の集まりなウチらとは相性バッチリだぜぇ!」
「わ、わたしも変人……かしらぁ」
おっと、これは姫さま不本意なご様子。アナタも充分に変人ですからね? 可愛いけど。
そこに、「僕らのグループに入れようと思うんだけど、咲姫は大丈夫?」――とは訊けなかった。ここでまた完全に拒否されては、余計に仲を取り持ちにくくなってしまう。
「咲姫は気にしなくても大丈夫だよ。もし苦手ならあまり話題には出さないし」
と、断りを入れておく。僕の言葉にふんふんと頷いた咲姫だったが、途中からニッコリといつもの笑顔を見せる。
「なるほどねぇ。でも私は大丈夫よぉ~、同じグループに入れても」
「そうだよね、嫌だよね――って……えっ?」
んっ? いま"大丈夫"って言った? あれだけ眉をひそめていたのに?
「嫌じゃないわよぉ? だってホノちゃんもユズちゃんも、仲良くなれたんでしょ? なら問題ナッシングぅ~!」
「ナッシングいぇあっ!」
「あ、あぁ。それなら良かった」
サムアップする咲姫の謎テンションに仄香もノリ上がる。なんだ、心配して損した。何をあんなに思い悩んでいたのだろう。ただの空回りじゃないか。
「さってとぉ~。じゃあわたしもお友だちになりにいこぉ~っと」
そんか、ホッと一息つく僕にはお構いなしに、咲姫は蘭子のもとへと向かう。
「らんちゃ~んっ。一緒にお昼食べましょ~?」
まさかの唐突であった。




