第64話「タクティクスバトル」
それは失われた技術の地下都市のような場所。上下の高低差と将棋盤のマス目のように移動が出来る、タクティクスバトルのステージ。
そこで僕らが作ったキャラは、ボスキャラを囲んで対峙していた。とは言っても、まだまだ序盤だからそんなに強くない。ステージボスというやつだ。
「へいへーい! 『泥爆弾』で、敵の移動力を一に下げるぞぉー?」
仄香が言うと、菱形2マスの範囲内の敵の足元に、グルグルと渦巻いたエフェクトがかかる。あれが鈍足という状態異常なのだろう。くノ一キャラを扱うから、敵へかける状態異常を把握してるようだ。
「陰から咲く薔薇のように、音も無く忍び寄る……美しき『薔薇の舞』を見せてやろう」
すると今度は、蘭子のキャラ自身に時計が早く回るエフェクトが。こちらは速度が倍になるプラスな状態を掛けたらしい。
「それなら百合ちゃんも速くするわよぉ~? わたしの愛ぃ~飛んでけぇ~っ!」
今度は咲姫の技が僕にかかり、倍速に。僕の順番が早くなる。
「ありがとう咲姫! これで邪魔者をどかせられる……。『ガーディアンラッシュ』で、敵をボスの周りに吹き飛ばすよっ!」
蘭子とボスの間に居た雑魚キャラたちの中心部に向かって、僕のキャラが突撃。すると、敵が奥のボス近くへと追いやられる。これで、スムーズに倒せるはず……。
「じゃあアタシの番……。冥界の亡霊よ、混沌の闇を従え、我に刃向かう愚者たちを恐怖のどん底へと堕としタマエ! 『シェイド』!」
後衛で準備していた譲羽がボスキャラに対して強力な闇魔法をぶつけ、最大HPごと削り取る。ボスは毎ターン自動回復能力ががあったから、これで倒すのが楽になりそうだ。
「よっし! これでボスも回復が出来ない! 今だよ! 蘭子!」
「分かっている。群がる雑草たちよ。せめて、美しく花開く私の肥やしとなれ。『薔薇架刑』!」
相変わらずのオリジナル詠唱を唱えて、蘭子のキャラがボスに向かってツッコむ。移動しながらの範囲技なので、周りの雑魚敵も巻き込まれ、一気に敵を全滅に。
「あっ、勝っちゃった。呆気なかったね」
「ふっ、私にかかればこんなものさ」
大きいおっぱいの胸を反らし、自慢げな蘭子ちゃん。ちょっと悪戯したくなるもので……。
「――ッ! 何をする百合葉!」
「いやぁ。だって、蘭子じゃなくて、ユズが溜めたポイントがあったから、強いキャラになったんでしょ? 蘭子のお陰じゃないよねぇ」
「くっ。だからってこの私の胸を叩くだなんて、覚えていろよ百合葉……」
「いつもの君みたいに揉んでもいないんだから、多めに見て欲しいなぁ」
そう、セクハラじゃなくてツッコミだよ? ツッコミ。ただ当たっちゃっただけで。
「でも、蘭子ちゃんの技選びのセンスは中々……。アタシがちょっと教えたら、たくさん組み合わせて実験してたんダモン……。技名も詠唱もセンス……アルッ!」
「そうだろうそうだろう。もっと褒めるがいい」
譲羽が褒めるものだから、蘭子が調子に乗ってしまった。でも確かにこの二人のゲーム適正は高いみたいだ。中二病な技名と詠唱を考えつくし。
技の名前もオリジナルの名前を付けられるから、自由度が高く、なかなか楽しい仕上がりになっていたこのゲーム。実は、こうやってまともに闘えるまで、少しだけ時間がかかったものでもあった。僕らが自由に作った上で、譲羽が戦いやすいように調整してくれたのだ。
そうして、いつくかの戦闘をオートプレイで眺めて、譲羽が解説して戦闘のコツを覚える。最初に例題があった方が公式を覚えやすいという、数学の勉強の仕方と考え方は一緒かもしれない。だなんて、ゲーム中も勉強の事を考えてしまう。今は美少女の時間だ。頭が固くていけないいけない。
「結構楽しいね、このゲーム。技名も名付けられるなんて思わなかったよ。叫びながら技を放つのは痺れるよねぇ」
「そう……それがカスタマイズ出来るところの面白さナノ……。自分みたいなキャラで好きな技を放つ、堪らないワ……っ」
言って譲羽は自分の身を抱いて、ニヘラァと恍惚の表情。譲羽本人が楽しめているみたいで良かった。
「そうよなぁ。みんなで協力対戦! みんなが戦っているうちにあたしが敵の邪魔をする! この小ズルさ最高よぅっ!」
「仄香、意外と良い性格してるね……」
「へっへー。そうでしょそうでしょー!」
案の定、皮肉が通じて居なかった。
「最近のゲームってすごいわよねぇ……。無線でみんなで楽しめるものねぇ……」
そこで、感慨深くふんふんと頷きながら言う咲姫ちゃん。反応も時代遅れ感も可愛い。控えめに言って結婚したい。もしや彼女、あんまりゲームをやらない子だったり?
「無線なのは随分前からだよ? 合宿の時にやったパズルゲームだって、かなり古いやつだし」
「ええぇっ! そうなのぉ~っ!? ゲームってぇ、ちっちゃい頃に灰色のゲーム機に二つのコントローラーを刺すやつしかやった事なかったからぁ~、最近進歩したのかと思ってたぁ~」
「それは確かに相当古いやつかも……でも咲姫はパズルゲーム結構得意だったよね? ゲーム慣れてるのかと思ったよ」
「違うのぉ~。お婆ちゃんちでそのパズルゲームをいっぱいやってたから、今でも感覚が残っているだけでぇ……」
「そっかぁ。感覚ってすごいね」
きっと、家庭用ゲーム黎明期のファミリー向けゲームのソフトの事なのだろう。あれは何十年も前の物だ。咲姫ちゃんはお婆ちゃん子だったのかもしれない。




