第53話「バーベキューと百合」
「いぃ~やったぜ! つまりはみんなでバーベキュー! お外でわいわい肉焼くー!」
なんて、渋谷先生の焼き肉宣言に、仄香は両手両足を交互に上げて喜びの踊りを踊る。ハイテンション可愛い娘である。
「こ、こんなリア充イベント……理想世界にしか存在しないと思っていたノニ……っ! まさかいつの間にか、現実と理想の狭間に居タ……?」
「大丈夫だよユズ、ここは現実だよ」
そして、なぜそんなに信じられないのか、ムニムニな自分のほっぺたを 引っ張って現実だと確認する譲羽。中二病ロリ可愛くて、ついつい撫でてしまう。
それに、旅行に祭りに海にプールにお泊まりと、青春を満喫しておきながら、バーベキューだけがリア充イベント? まあ、友達とやるっていうのがね。準備が大変だから、キャンプみたいにアウトドア枠に入っているのかもしれない。
「でも、先生? 本当にこんな暑い中バーベキューを?」
「そうだともそうだとも。暑いと言っても、真夏日でも無いし、昼ご飯を食べずに、ジャージで来るように言ったじゃないか。何か問題でもあるかな?」
「いやぁ……」
暑いのがなぁ……。体育とかなら我慢するけれど、暑い中バーベキュー……。暑いのが苦手な僕にとっては地獄だ。
「場所は?」
「すぐそこだ」
「グリルは?」
「貸し出している」
「炭も?」
「買ってある」
「そうですよね」
なんにも問題はなさそうだった。いますぐに始められそうな勢いで。
でも、何を嫌がると言うのだろう。この程度の暑さ、東京とかに比べたら全然じゃないか。汗をかくのが嫌いだから気後れしているだけで、美少女たちとの絶好のイベント……。未だにインドア思考が抜けきっていないなぁ僕は。
「なんだ百合葉。この暑さに尻込みしているのか? そんなに腰が引けていたら、私に攻めてくださいって言ってるように見えるぞ?」
「だからそういう下ネタやめなさいって……。実際にお尻突き出してないし。みんなでバーベキューならやりたいし。暑いのが嫌いなだけだよ」
「そうか。つまらんな」
「バーベキューやるのにつまらないの?」
多分、僕にセクハラ出来なくてつまらないんだと思うけどね。
「ところで先生は仕事中に大丈夫なんですか?」
よく考えたら、そっちの方が問題だ。部活顧問の時間扱いになるのだろうか。
「実はな? 今の時間は時間外労働なんだ。わたしはこの学校に居て、学院長がやり残した仕事を終わらせるという」
「それは労働基準法に違反しません?」
詳しくは無いけれど、よく無さそうだ。
「まあまあ、話は最後まで聞いてくれ。それで、今のわたしは、事実上勤務時間外という事だからな……?」
そこで先生は一拍置いて一呼吸。
「ビールが飲めるのさ!」
「へ、へぇ……」
そういえば、この先生はお酒大好きな人だった……。ゴールデンウィークの旅行では、お酒に酔いつつ花見をする僕らを眺めてたんだっけ……。そのお馬鹿な発想に呆れつつ苦笑い。
「わたしは! 女子高生がわいわいイチャイチャしながら焼いたバーベキューを食べながら! 炎天下の中キンキンに冷えたビールを飲みたいのだ! だから、わたしの自腹で肉を用意してきたという事! お金を出せばバーベキューとそれを焼いてくれている女子高生を見て楽しめる……。わかったかな?」
「わ、わかりました……。準備ありがとうございます」
この人も中々の百合好きだった。でも、そんな事のために僕らに肉を振る舞ってくれるだなんて、大した先生であるとも言える。今はそのご厚意……いや、百合好きの好意に甘えるとしよう。




