第51話「シロップとキスと百合」
僕と咲姫のそんなイチャコラを見せられて、当然、他の美少女たちは不機嫌なご様子。でも、咲姫が黙ってくれたなら、あとはなんとか誤魔化せるとは思うけれど。
「ゆずりんゆずりん。今のはダーティーだよね」
「それ意味違ウ、ギルティーな気がスル……。罪と罰」
なんて、向かいの席で仄香と譲羽がこしょこしょ話をしている。ただし内容が丸聞こえ。可愛いものだけど、やっかい事にならないといいなぁ。
「罪と罰なら、Crime and Punishmentだが。確かに今のはギルティ、有罪だ」
「えぇ~。蘭子も満足げだったのにー」
「し、知らん、そんなのは」
なんて、蘭子ちゃんの英訳辞書っぷりが披露されるも、すぐさま乙女の面になっちゃう可愛い可愛い蘭子ちゃんなのだった。
と、話しているうちに、仄香が机を周りこんで僕の後ろに来る。そんな彼女は手をわきわきさせて、これはセクハラをする手付きだ……。僕は彼女の方を向いて、神経を尖らせて体を守る体勢に。
「ゆーちゃん、舌出して見せてー」
「えっ……?」
なんだ、セクハラじゃない? 僕は体を腕で守りつつ、言われたまま舌を出したら……。
「はいチュー」
「んぐッ!?」
まんまと仄香の策略にハマってしまった。驚いているうちに入り込んできた舌を押し出して、仄香の体をグイッと押し戻す。くっ、セクハラの手は僕を騙すためのフェイクだったんだ……!
「さっきのはズルかったなー? あたしも楽しませて欲しいなぁー?」
「い、いきなりディープキスは困るなぁ。心の準備がさぁっ」
「そんな事より! あたしの黄色とゆーちゃんの緑色で、舌が黄緑色になったねっ! 良かったねゆーちゃん!」
「そ、そんな簡単になるわけないでしょ!? それならさっきの食べさせ合いでなってるし!」
「ふーん? じゃあもっかい見せてよー」
「えっ? うん」
「はいチュー」
「んぐぐ……っ!」
まんまと仄香の策略にハマってしまった。二度目じゃないか。人の言われた通り素直に動いてしまう癖があるんだ……。流石にもう舌は入れさせないけれど。
「ぐぬぬっ。二回目のべろちゅーは失敗かぁ! ゆーちゃんもう一回舌見せてー」
「もう騙されるかぁっ!」
そう、もう騙される訳にはいかないんだ。だって、仄香とキスしちゃったから、他の子が黙ってるワケがなくて……あぁ! 咲姫ちゃんが怖い笑み浮かべて起きあがってる……っ!
「あらあらぁ~? わたしとイチャイチャしておいてす~ぐ浮気なんて、いけない子ねぇ~? ピンクと緑なら桃みたいな組み合わせだしぃ、とても綺麗な果実が実るんじゃ無いかしらぁ~」
「ふっ……。中途半端な色と違って、私の赤は情熱の色だ。君の舌を真紅の愛で染めなければいけないみたいだな」
「青……それは知性の象徴……。アタシと知恵の泉に浸る気は……無イ? フヘヘ……」
仄香に負けじと、咲姫、蘭子、譲羽がぐいと前に出る。くっ、嫌な空気だ……!
「み、みんなの色は緑と組み合わせたら変な色になっちゃうよ!」
だなんて、非常に苦しい言い訳だった。そりゃあ、一人一人であればその愛は受け入れるけどさ……っ! 今のみんなが臨戦態勢な時に一人ずつだなんて戦争が起きちゃう!
「そんなの関係ないわよぉ! わたしともみんなの前でベロチューさせなさぁ~っい!」
「咲姫ちゃんのエッッッチ……。抜け駆けはダメ」
「そう言って譲羽にまた抜け駆けされる訳にはいかないな。百合葉の唇と舌は私がいただくっ」
「へぇんっ! あたしもまだまだ足りないよぅっ! もっと楽しませろー!」
「ちょいちょいちょい!?」
みんなに追われ、大きな調理台の周りをぐるぐる回る。下をくぐる。机の上をぴょいと乗り越える。そのうちに、食べかけのかき氷が溶けてスプーンがカランと鳴る音。でもそんな事はお構いなしに、僕はキス迫る美少女たちと家庭科室内鬼ごっこをする羽目になるのだった。
 




