第49話「ブルーハワイと百合」
「と、とにかくっ。手回しじゃないから楽チンだね。じゃんじゃんみんなの分を作っちゃおう」
そう言って、時代遅れな自分の恥ずかしさを誤魔化すように、僕はどんどんと雪の山を作り上げていく。おお、早い早い……。手が疲れる事もなくガラス皿の深皿の上、あっという間にフワッとした雪が積もり上がる。なんて幻想的なんだ……。手回し自分で雪を作る? そんな面倒はごめんだね。
次に次にとやっていたら、一息吐く暇もなく、五人分が出来上がってしまった。頑張って手回しして、食べたい量分をなんとか削る……という楽しみは無いけれど、溶けることなくみんな一斉に食べれるのなら良いことだ。
「うひぇ~っい! ゆっきのっやま~! ゆっきのっやま~! ……ゆーちゃんの盛り方ちょっと少ないなぁー? あたしが盛ったやつと交換してあげよっかー? へぇーん。ダメだけどねー!」
「なんなのアンタ……。いいんだよこれで。量よりも、綺麗な雪山を作りたかったから」
「ぐっ……。それを言われたらそっちのが欲しい……。交換してーっ!」
「またあとでね」
「ぶー」
なんて、相変わらずノリで生きてる気まぐれな娘だった。交換したら僕の芸術的な雪山にシロップがドンドン溶け掛かっていく姿を拝めないじゃないか。僕はそういうのにはうるさいんだよ?
「それじゃあシロップー……全部かけー」
「最初くらいまともに食べなさい……」
「はいはい、分かってるってお姉ちゃん。どれにしよっかなー」
「世話のかかる妹だよホント……」
目を離したら何をするか本当に不安だ……。ただ、僕がいるから変な事をしそうな気もするし、たちの悪いイタズラっ子な妹属性だ。
結局、かけるシロップは、咲姫がピーチ、仄香がマンゴー、譲羽がブルーハワイ、蘭子がイチゴ。そして僕はメロンに。それぞれの色を表しているみたいで面白い。
「蘭子は意外とイチゴなんだね」
「イチゴ味なら外れが無いしな。本当はローズシロップでもあれば良かったが」
「アンタはいつもどんな味を食べてるのさ……」
ナルシスト蘭子ちゃんらしい好みだけどね。
「まあ、そんな味を実現させるのが難しい事は分かっているさ。赤色は美しい私に似合う色だし、代わりにイチゴ味を選んでいるんだ」
「そうなんだぁ。イチゴも美味しいよね」
イチゴを味わえるだけのまともな舌と感性を持っているようで安心した……。蘭子も実はそこそこなお嬢さんで、かき氷に薔薇の蜜と花びらを散らして優雅なかき氷を……なんて姿、想像に難くないから。
「アタシはブルーハワイ……ふふふっ。海の深淵のように透き通った碧。それを今、白銀の大地を溶かしこんで……ネェ、百合葉ちゃん。ブルーハワイってなんの味ナノ……?」
一方で、譲羽が中二病的にかき氷を味わおうとしていた矢先、首をかしげて僕に質問してくる。う~ん、これは有名ながら難問だ。でも、夢を壊すとかそんな歳じゃないし、別にバラしてもいいかな。
「そもそもシロップは、イチゴもメロンもブルーハワイも、香料が違うだけらしいんだよね。だから味はみんな一緒かな……?」
僕がそう言うと、ゆずりんの顔が悲しそうな表情に……っ。くっ、ロリに真実を打ち明けるべきじゃなかったか……!
「ごめんごめん! それでも風味で味わいが違うかもだから!」
誤魔化すように謝るが、譲羽はどこを見ているのか、かき氷の向こうに焦点を当てて居るみたいで。悲しそうな顔のまま、遠くを見る目つきをしていた。
「それじゃあ、アタシが昔、海の碧と雪の白が入り乱れる瞬間と言って遊んでいたあの気持ちは嘘だったノ……?」
「えっ、いや……それは……? 味じゃなくて色の話だから良いんじゃない?」
「あっ、そっかぁ。大丈夫ダッタ」
勘違いゆずりんかわゆすなのだった。ちなみに、昔から中二病だったという情報も得られたり。もしや全然中身が変わって無い……? 昔から変わらず中二病妄想しちゃうゆずりんかわゆずりんなんだよなぁ。




