第34話「服の下の百合」
「ぐぅぅ……。なんて恥ずかしいんだ……」
二重に……いや、三重に恥ずかしかった。カエル君タオルもそうだし、中二病臭くタオルを翻すのもそうだし……。
「まさか、ゆーちゃんから見せてくれるとはなぁー。ゆーちゃんがあたしらに見せたがりなのは大歓迎だぞぉー?」
「もう言わないで……」
僕はすぐ横の椅子で膝を抱えていた。へへへっ……そうさ……。もう、他の子たちの着替えを待つだけなんだ。うん、一番最初に着替え終わって、セクハラされるのを防ぐことは出来たんだ……。
「ところで、仄香と譲羽は着替えないのか?」
「ほほほっ。それはよい質問ですなー」
「デスナー」
蘭子の問いに謎キャラを演じる仄香と乗じる譲羽。確かに、仄香は黄色のポロシャツに水色ホットパンツのままだ。譲羽も、フリル付きのチェックパーカーとベージュのハーフパンツ……あっ、なんか下着を確認してる……っ? もしやっ? その手があったか……!
「さあ皆どのも! 我が生き様を~見れーい!」
「皆のドモ。見るがヨイ」
仄香の変な日本語を、さり気なく譲羽が修正しつつ二人が私服を……脱ぎ去った! いや……その先には……っ。
「馬鹿な仄香……っ。百合葉の後を追うなっ! 頭が余計に悪くなったか!」
「良くなったのまーちーがーい! それよりも蘭たんよっ! これを見よっ!」
「なっ……!? み、水着なのか?」
驚きを隠せない蘭子に、仄香がツッコむ。そう、彼女らが脱ぎ捨てた先には、もうすでに水着が着込まれていたのだ。
ただそれよりも、蘭子のツッコミがめっちゃノリノリ……この前の海で完全に打ち解けたのではないかな? と、内心ニンマリ微笑む僕であった。
「ふっふっふー。服の下にあらかじめ着てきたのさっ! どこぞの誰かさんみたいなリスクは背負わないのだよー。しかも失敗してたから焦ったしー」
「履いてるか、確認シチャッタ」
「もーう。ゆーちゃんったら露出狂なんだからぁー!」
「露出狂じゃない……。もういいよ、僕のミスは……」
椅子に座りながらまたうなだれる。白い灰になっちゃいそうだよ。
さて。これで僕を含めた四人が着替え終わったのだけれど、僕のカエル君タオル以来、空気のように存在感を消している美少女が一人。
「そういえば咲姫は? 着替え終わったの?」
先ほどから全然会話に入ってこないなぁと思って見たら、胸元からパーティードレスみたいに伸びていた薄桃色の布を、下にホロッと落とすところだった。
えっ? そんなあっさり脱いでいいの?
と、一瞬ワンピースと見間違えてしまったけれど。
「くっ! さっきーもずるいぞー! お子さまだぞー!?」
「あらっ? 誰が使っちゃあいけないって決めたのかしら?」
「咲姫も使ってたんだね……ラップタオル」
「使えるものは使わないと……ねっ?」
なんて、頬に人差し指を当ててウィンクする咲姫ちゃんでした。ああかわいい。腹黒そうな発言もかわいい。
「ふっ。自分の体に自信が無い証拠だろう」
「あらっ。お友達だからって、何度も素肌を晒すと思ってるのぉ~? 恥知らずなのねぇ~」
「ここは日本だ。温泉でも普通に着替えて居たのだから、郷に従え」
「そんなの、別に規制されてないわよねぇ? わたしの勝手にしますわよぉ~っと」
咲姫が言ってロッカーの鍵を閉めたところで、プチ冷戦は終わり。静かな空気になる前に、僕はみんなを見渡して、確認する。
「まあまあ、みんなの好きにすればいいじゃないの。それじゃあ気を取り直して……プールに入ろっか!」
「イェーイッ!」
両腕を上げて大はしゃぎの仄香。他の子たちも、小さいながら片手をあげて、室内プールに進みゆく。
ちょっと……いや、思いっきり大恥をかいてしまったけれども。
女子高生のラップタオル着替え。咲姫もやっているなら、大丈夫だと確信するのでした。
でもカエル君タオルは……次からは止めよう……。ごめんね、カエル君……。




