第33話「プール早着替えと百合」
「あーっ! あたしらが居ないからってイチャついてるー!」
「抜け駆け……姑息……アタシも楽しみたカッタ」
蘭子と咲姫にくすぐりセクハラされていると、ようやく仄香と譲羽が集合場所にやってきた。時間ピッタリだ……。一分も早く来ないあたり、逆に器用だなぁって思う。ちなみに僕は、いまだ両側面からさり気なくセクハラを受けている。
「抜け駆けも何も無いと思うが」
「そうよぉ~? そっれっにっ? これからみんなで楽しめるんだからぁ~」
目の前に立ちはだかるようにする仄香に、蘭子と咲姫が返す。
「んまぁーそうよなぁー。それなら、早くゆーちゃんにセクハラする手をやめんかねぇ?」
「んん~? これは罰よ、バッツッ」
「そうだ。だが、みんな揃った所だし、この位で止めといてやろう」
「ぐはぁ~っ。助かった……」
ようやく、咲姫と蘭子の手がやみ二人は立ち上がってくれた。中途半端な擽ったさで、息をするのも辛かったのだ。
「それじゃあ行こうか、仄香、ユズ」
落ち着きを取り戻して、この場をまとめようとする。しかし、そんな僕の意に反して、ベンチの両脇に新たに二人が座る。
「さっきーと蘭たんばかりずるいよねー? やっぱあたしらもちょっとだけさぁ……」
「くすぐりセクハラ舞踏会。始マルッ」
「第二幕は望んでないよっ!」
※ ※ ※
小柄な妹属性二人のセクハラの魔の手から逃れつつ、僕らは更衣室に。さあて、ドキドキのお着替えタイムだけれど……。他の子たちに手出しされる前に、さっさと着替えてしまおう。
「あははっ! ゆーちゃん何それー!」
「えっ? おかしい?」
僕が着替えるために下着姿になってから、タオルを体に巻くと、仄香に笑われてしまった。なんだろう。
「ゆーちゃんみたいな! 女子高生がっ! プールでタオル巻いて着替えてる!」
「ええーっ? 小学生の時からやってない? プールのこのタオル使うの」
僕が同意見を求めて見渡すと、みんな小首をかしげる。
「いやぁ~そりゃあやったけどさー。早着替えゲームとかしたけどさー。もう流石に女子高生だしぃ? ぷぷぷっ……。ゆーちゃん子どもっぽーい!」
「ラップタオルは……子どもっぽいな。ああ、子どもっぽい。だから、今すぐ脱ぐべきだ」
「ぐっ……そうかなぁ。いや、脱がないよ?」
仄香と蘭子に次々に馬鹿にされ、結構ヘコんでしまった。なるほど、こういうセンスの無さは一人ぼっち属性の弊害だ。そういう一般常識が分からないまま、女子高生になってしまったのか僕は……。ぼっち、良くない。うん。
「カエル柄がいけないのカモ……。百合葉ちゃんには子どもっぽくて似合わない……カナ」
「それなっ! キャラモノに近いから! 余計似合わないんだよ!」
「そ、そうなのかぁ……お気に入りだったんだけどなぁ」
譲羽にまで指摘され、僕は恥ずかしい思いでトホホとしょぼくれる。子どもっぽいのであれば仕方がない。僕も大人の女性として垢抜けクールに生きたいのだから。野暮ったい物はここで卒業だ……。バイバイ、カエル君。お気に入りの良い肌触りだったよ……。
と、思いつつ、僕は脱いだ下着をロッカーのカバンの中へ。
「ゆ、百合葉? 子どもっぽいと分かったのなら、使うのをやめたらどうだ? に、似合わないぞ?」
「そ、そうだよゆーちゃん。ゆーちゃんはもっと大人っぽくなれるよねー?」
そうたどたどしく僕の行動を否定する二人。他の知り合いの前で恥をかかずに済んだわけだし、その指摘は助かるものだと考えつつ、前のボタンを付け、後ろの紐を結ぶ。
ふふふっ。
騙されるわけにはいかない!
「蘭たん! やられたっ! 早くゆーちゃんを押さえつけて!」
「なっ、くそっ! 抜かったか!」
「はははっ。君たち気付くのが遅いよっ! 僕ならもう着替え終わったさ!」
そうして、マントを翻すように僕は肌触りの良いカエル君ラップタオルを脱ぎ捨てた! そこには完璧に水着を気負えた僕の姿が……!
自信満々な僕に対し、驚く仄香と蘭子と譲羽の三人……。
だが、僕の予想とは裏腹に、ニヤケだす。
「ふぁ~おっ! ゆーちゃんのお宝大公開だぜぇ!」
「なんて美しいんだ……」
「素晴ラシイ……。小説のネタにスル……」
「……はっ!」
下履くの忘れてた!
 




