表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部一章「百合葉の美少女集め」
24/493

第24話「多目的教室」

「あっはっは! さっき二人とも注意されててウケたわー!」



 鐘が鳴って数学教師が立ち去るなり僕らの席へ来るのが習慣のようになったように、譲羽ゆずりはを連れた仄香ほのかが笑いに来る。



「なに? 見つめ合ってたの? 結婚式あげちゃうの? ホントやべぇなぁー! よ~しっ、祝いの一杯じゃー! 今日は飲むぞぉ~っ?」



「おっさんかよ」



「おっさんだよぉー!」



「違うでしょッ!?」



 この美少女は何を言ってるんだ……と、呆れつつもノリノリでツッコんでしまう僕。



「ご、ご結婚……おめでとうございマス」



「違うでしょッ!?」



 ゆずりんもまたノリノリであった。



 だが三人して笑い合う中、だんまりと浮かない表情の咲姫さき。場の空気に溶け込むことなく唇を尖らせ、不信感を醸し出している。



「どったの? さっきー。先生に注意されたのが嫌だったん?」



「う~ん、別にぃ~」



 いつもと違ってクスりとも笑わないことを心配してか、仄香が咲姫に声を掛けるも空振り。素っ気ないままである。



 いけないな……。



 この話題の本質には触れられたく無いんだ。強行突破でも、彼女の不安を取り除き元気にさせねば……。



「何かあった? 今の表情だって素敵だけど、僕は笑った咲姫の方が好きだなぁ」



 などと、彼女の頬に手を添えてくっさいセリフで口説き始める。



「口説きやっばいわー! ゆりはす王子だわー!」



「百合葉ちゃん、カッコイイ……」



 外野にはウケている模様。しかし彼女は……。



「知らなぁい」



 そう言って席を立つ。



「あっ、咲姫待ってよ」



「おっ? 修羅場か修羅場かぁ? 追いかけろーッ!」



「おおー」



 後ろで煽る仄香と譲羽を尻目に、僕は教室から出て行った咲姫を追い掛ける。



「あ……れっ?」



 居ない? こんな、ものの数秒で? 三クラスあるうち端の教室とはいえ、ここまですぐに見失えるものだろうか。



 いや、廊下や階段だけでない。トイレも違う。直感ではあるものの、何より安直過ぎるのだ。



 他にあるとすれば……。



「せいかぁ~い。百合ちゃん?」



 隣の多目的教室だ。



 廊下の喧騒を背中に感じ、薄暗い教室の中で彼女と相対あいたいする。



「咲姫? どうしたの、戻ろうよ」



「いやよ」



 そっぽを向き即答の拒絶。どのように出れば彼女が納得するのか……。



「具合悪いの?」



 違うとは思いながらも、心配する素振りを……いや心配してるのは本当だけど。



「うぅ~ん。具合というか気分が悪いかなぁ~」



 唇に人差し指を添え答える彼女。えっ、それ何も変わらないじゃん……。



 というワケは無い。"気分"ではなく"機嫌"という意味なら……? ピッタリじゃないか。



 間違いなく彼女は嫉妬している。しかし、好意的な素振りはいくつかあったけれど、それはライクなのかラブなのか、はたまた、行き過ぎた友情を恋愛という枠に押し込めようとする擬似恋愛なのか判断付かない。何せ本当の恋だと言い張るには期間が短すぎるのだ。現に、彼女が欲しがっているのは自分をお姫さま扱いしてくれる王子さまの筈である。



 大丈夫だ。自信を持って、余裕を持って。



「なぁに? こんなところで二人きりになりたかったの? 困ったお姫さまだなぁ」



「なんか違う」



 バッサリであった。



 そうしているうちに彼女は椅子に横向きで座り、僕を完全にシャットアウトする体勢に入った。



 だけど、本気で拒絶しているのだろうか? でも、それは無いんじゃないか? 彼女の言葉を思い出せ……。ここに来ての第一声を。一つ目の正解があるならば、彼女なりの合格点というものが存在しているはず。僕はそのラインを飛び越えるような、予想を上回る立ち回りをするだけなのだ。



 今、彼女の心で渦巻く感情の、原因そのものとしては蘭子への嫉妬。これは間違いない。その上で彼女の不安をぬぐい去る方法は?



 僕は机に肘をつく咲姫の前へ。立ち膝で向かい合いながら、彼女の右手を両手のひらで包みこむ。



「ごめんね。今日は咲姫と二人で話せなかったもんね」



「別にっ。わたしのことは忘れてくれても良かったのに」



 僕のことを見ることなくつんと拗ねた様子の咲姫。しかし、構って欲しい気持ちがバレバレだ。



「そんなこと言わないでよ。僕はいつだって咲姫のことを考えてるさ」



 アメリカドラマばりの直球さである。さて、どうなる……?



「だって、鈴城さんにかわいいばっか言ってたじゃない」



 よし、ついに本音が出てきた。それに対し僕は、



「あの子がかわいいのはホントだしね。でも、どんなに他の子をかわいいと思っていても、僕が一番かわいいと思ってるのは咲姫だよ」



 特に顔がね――でもいやだって、他の子も甲乙付けがたいくらいに可愛いんじゃあ仕方ないんだ。人それぞれに順序なんて付けられないのは当たり前なのだから。



「本当にそう思ってるの?」



「当たり前……でしょ?」



 右手をゆっくりと上げ、彼女の頬に添える。そろりと首筋に流れ落とし、顎を包んだまま親指で唇をなぞる。



「ほら、こんなにかわいい」



 とろんとトロける瞳で見つめながら。僕もまた視線に熱が帯びる。



「ゆ、百合ちゃん……」



 色っぽくそう言うと彼女は両手を僕の首の後ろに回す……って、これじゃあ展開が早くないかな?



 ジワジワと僕に近付く彼女の顔。唇。だが、今の時点でこれ以上進めるのは良くないなと。せっかく彼女とのファーストキスなら、もう少し大事にしないと。



 立ち上がり僕は右手でゆっくり彼女の肩を押しながら、空いた手で椅子を支える。



 それは力なく、彼女は倒れてしまった。座っていたものとは別の、もう一つの椅子の上に背を預けて。危ういバランスの中で僕は彼女に覆い被さる形となる。



「咲姫……」



 愛欲に乱れる前触れのように、僕は彼女の名をそっとささやく。そうして彼女のひたいに手を伸ばし



――――。



「熱あるんじゃないの?」



 少女漫画なんかではお馴染みの、鈍感セリフを吐くのである。



「えっ……」



 キョトンと戸惑う彼女。目を白黒とさせて動揺が隠せていない……ああ、こういう表情も大好きだなぁ。



 そう。僕の夢はあくまで百合ハーレム。ここで僕の好意をぶつけ彼女をオトし切ってしまっては、他の子との関係が全て"浮気"となってしまうのだ。



「熱ありそうだし、保健室行こっか。咲姫が調子を悪くしたら嫌だもん」



 彼女から離れフォロー混じりに言う僕。「おっと」と立ちくらみのように、机にガツンとぶつかっておどけてもみる。



 だが、納得するだろうか? 横になったまま口をわなつかせる彼女。何か言いたげである。



 そんな中……。



「あっ、こんなところに居たーっ! もうすぐ授業始まんのにー。どこ行ったのかと思ったようっ!」



 ガラッと勢いよく仄香が扉を開け、薄暗い教室へと入ってくる。この後の展開には少し不安があったし、上手いこと空気を断ち切ってくれた。ナイスタイミングだ。



 しかし、決して偶然ではないもので。さっき、「そろそろトイレとか探してみるー?」と仄香の声が聞こえたのだから。誰もいないはずの教室から音がすれば、彼女らが来る可能性を踏んでいたのだ。



「咲姫ちゃん……倒れテル……?」



「んんん? 二人とも何やってたん? もしかしてマジ大変な事件で修羅場?」



 当然ながら純粋な疑問である。



「なんか具合悪かったんだってさ。横になりたいけど保健室行くのも恥ずかしいからってここに居たんだ」



 大嘘である。しかし、彼女の体面を守るには……何より僕の本心を守るにはこのくらいの嘘はかなければならない。



「そ、そうねぇ……。わたし具合悪いみたい」



 そこで咲姫もまた、僕の嘘に乗っかってくれる。彼女とて今の関係を崩したくは無いのかもしれない。



「えっ、やばくない? 一緒に行こうか?」



「大丈夫よぉ~。もう授業も始まっちゃうし、みんなは教室に戻ってて?」



「そっかぁ。気ぃつけてねー」



「はぁ~い」



 心配する仄香だったが、それに対しとても具合が悪そうには見えない咲姫。当然だ。身体の具合が悪いわけではないのだから。



 そんな様子だったからこそ、廊下から階段へと消えていく彼女の背を、僕らは疑問に思うことなく見送るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ