第29話「スイカレボリューションと百合」(追加)
暑かった太陽が少しずつ傾き始め、一時的に陰ってしまった。暑い夏とはいえ、海から上がる人、帰り支度を始める人が増えていく。
そんな中で、僕らは海を眺めながら、シャクシャクとスイカを食べていた。
「あっ、雲の切れ間から光の柱が伸びてるよ。綺麗だね」
「薄明光線。別名……天使の梯子……と呼ぶらしいな。私と百合葉の仲を祝福してくれているのだろう」
「あらぁ? じゃあアナタは天国へと昇ってらっしゃい~。わたしは百合ちゃんと地上の楽園に残りたいからぁ~」
「咲姫……君の減らず口はいつか地獄へ落ちるだろうな……」
「喧嘩しないでよ。二人とも天使みたいに可愛いんだからさ。なんなら僕が天国まで導いてあげようか?」
「なんだ百合葉。それは私を快楽の絶頂にイかせるという宣戦布告か? 負けないぞ?」
「蘭子はすぐそうやって下ネタに持ってく……」
「ハーレム作りの女ったらしが、天国ですってぇ~? 無理よねぇ~」
「ヒドい言われようだなぁ……」
「あら百合ちゃん、本当の事でしょ? なんなら、罪な貴女を地獄の底から救い出してあげたいくらいよぉ~」
「罪なのは自覚してるよ……」
確かに、こんな可愛い子たちを余所へやらず、独り占めしてるだなんて、いくら同性愛や自由恋愛が声高に叫ばれるようになった今の時代でも、非難囂々だろう。しかし、そんな正論や理屈では、僕の気持ちは押さえられないのだ。やはり、僕は生きるからには、女の子に囲まれて百合百合したい……。そこに汚い欲望を持ち込む男共とは一緒にしないで欲しい。
そんな静電気みたいなプチ修羅場をパチパチさせてる僕らに向けて、仄香がパンパンと膝を叩く。
「へいへーい! 喧嘩してないでゆっくりスイカ味わおーよっ! あたしは仲良く女の子に囲まれるのが幸せなんだからさー」
「アタシも……。恋愛関係がどうあっても、やっぱりみんな、仲良しが、一番楽シイ……」
「でもまあ? 隙あらばみんな抱きだいと思ってるけどねー」
しかし、仄香のチャラい発言に、蘭子も咲姫も譲羽も呆れるように首を振る。
「無理だろう」
「興味ないわね」
「抱かせナイ」
「うっへー、みんな拒絶かよー。まあこんな楽しい関係は無いから、ゆーちゃん抱くので我慢するかなー」
「うぅ……。仕方がない……」
この関係が維持出来てるのは、割とみんなの好意を僕一点に集中させてるからだしね……。プライド的に抱かれるのはちょっとイヤなんだけど、この子たちが満足してくれるなら、この身を捧げるしかないのだった。
「そういえば仄香。スイカの早食いは得意か?」
「おおうっ? 宣戦布告かーっ! よゆーしゃくしゃくスイカシャクシャクよー!」
蘭子の言葉に、テンションを上げて仄香が反応する。ゆっくりスイカを味わうんじゃなかったの?
「それじゃあ早食いだ」
「おっし! 受けて立つぜぇ! よーい……どーーーん!」
と、仄香の掛け声で突然のスイカ早食い競争が始まった。あまりに突然すぎて、僕ら三人はポカンとその様子を見ている。
しかし……。
「あれっ? 蘭子、早食いしてなくない?」
「だって勝負するとは一言も言ってないぞ? 私は仄香の早食いが見たかっただけで」
「うぐっ!」
それを聞いて、仄香がのどを詰まらせる……。あーあ、なんて策士だ。蘭子はただ、仄香の必死な姿を見たいだけのいじわるだったんだ。
「ほげぇーっ!? タネのみこんじゃったよ! おなかでセイチョーしちゃう!」
「なんだと仄香。なぜ噛み砕かなかったんだ。噛み砕けば種が死ぬから問題無いのに……」
「なんと! シッパイ!」
だなんて蘭子にほら吹きされてる仄香ちゃん。焦っているのか、口元をもごもごさせる。
「ぬぬーっ! あたしのお腹が妊婦みたいになったらどう責任を取ってくれるんじゃあ……ゆーちゃん!」
と言って、仄香は僕にスイカのタネを勢いよく飛ばしてきた!
「うわっ! 汚いわっ!」
「うっさい! タネマシンガンじゃーっ! 蘭たんもじゃーっ!」
「くっ。どこに女らしさを置いてきたんだ仄香は……」
「美少女ならなんでも許されるんですぅーっ! 美少女特権ですぅーっ!」
「汚いのは許せないよ!」
「うふふっ、バカみたぁい」
「フヘヘッ……」
「そこ二人も! 笑ってんじゃないよぅっ! あたしのタネで妊娠させてやるーっ! くらえっ! さっきー! ゆずりん!」
「やぁ~んっ! ほのちゃん汚~い!」
「共にワカメ剣で戦いあった友だと言うのに……見損ナッタ!」
「うるさーい!」
と、結局みんながターゲットになる始末。
「そもそもだ。お腹の中でスイカが成長するという事はないから安心しろ」
「そういう問題じゃなーいっ! 蘭たんも妊娠させてやるーっ! 夏のスイカレボリューションじゃー!」
「意味がわからん。妊娠させられてなるもんか」
なんて、やっぱり大人らしさも女らしさもどこかに置いてきちゃった仄香ちゃんなのであった。




