第26話「クーラーボックスと百合」
海やら砂浜やらワカメやらで走り回った僕らは、レジャーシートの上でぐったり横になっている。良い歳してみっともないとか、そんなのはもう知ったこっちゃない。
「流石の私も……疲れたな……。隣に水着の百合葉が居るのに……セクハラしてあげる事も出来ない……」
「疲れてるのに……なんでセクハラする気は満々なの……。そもそも要らないよそんなの……」
ちらりとも僕を見ずに言う蘭子。陰った陽射しを防ぐように、目の上に腕を乗っけている。砂浜で走る蘭子……ずいぶん本気だったなぁ。そりゃあ、あの脚力を披露すれば疲れるというもの。
「良い運動になったと思えばぁ……少し甘いものを余計に食べられると思えばぁ……。でも、脚が辛いわねぇ」
「明日の朝、筋肉痛になってないと良いけど……。今のうちにマッサージしとかないとね……」
言いつつも咲姫も僕もグッタリ。楽しいかったけど、そのくらい疲れる鬼ごっこだったのだ。
そんな中でも元気にピョンと立った娘が。そして仄香に続いて譲羽もよたよたと生まれたばかりの子鹿のように起き上がる。
「さーてさてさて皆さんよー? こんな疲れた時に良いものを用意してあるんだよーぅ」
「ア、ル……」
そう言って仄香と譲羽が手に掛けるのは大きなクーラーボックス。彼女らの飲み物お菓子セットかと思っていたのにずっと出番が無かったから、なんだか不思議に思っていたのだ。
「さあ! 見よ! この素晴らしいアイテム!」
言って、譲羽が鍵を開け仄香が何か掴む様子。その中にある物は……!
「と見せかけて冷たいおっぱいアタック!」
「ひゃっ!? バカ……っ! 何すんの!」
僕の胸元に手を差し込まれてしまうのだった……。くっ、完全に油断してた……。
「いやぁ~。良いところに甘そうなデザートがあるなぁと思ってさー」
「無いわっ!」
ペシッと叩こうとする手は回避されてしまう。くっ、このセクハラ娘め……。
胸の谷間に手を入れられてしまったけれど、その手は氷を触ったかのように冷たかった。んんん……ここまで冷やすもので、デザートだとしたら……。
「さあ今度こそ出すぞ! みんな大好きなこれを!」
そう言って、譲羽と一緒に仄香がクーラーボックスの中から持ち上げていくモノ……。
それはみんな大好きな緑色の……!?
「スイスイ行けるICカードだぁ!」
「それはSuica違いだよ!」
「じゃあKitaca!」
「それは北海道限定!」
「夕張メロン!」
「北海道で瓜科ではあるけどさ! なんなのこの流れっ!」
いつものノリだけコント娘なのだった。
ともかく、仄香と譲羽が持ってきたのはスイカ。これもまた、夏の定番。海の定番……。でもそれには必須のイベントもあるわけで……。もしやこの子……!
「さあっ! ゆーちゃんをぐるぐる回してスイカ割りだ!」
 




