第24話「日本海と百合」
準備運動を終えた僕らの目の前。銀瑠璃の波が太陽の光を浴び、砂浜に寄せては返している。南国みたいなセルリアンブルーに輝く綺麗な海では無いけれど、やはりテンションは上がるもので、
「へいへーいっ! 遠泳しようぞう! それでゆーちゃんと本気のバトルを繰り広げるのだっ!」
「僕は泳がないよ?」
「え~っ! ケチケチケーチ!」
「ケチの意味分かってる……?」
なんて、ハイテンションな仄香ちゃんであった。海ってそんな奥まで行くものじゃないよね? 女子高生にもなって、溺れそうな深いところで泳ぐとかしないよね?
でも、仄香ならしかねないというのが本音……。
僕がイメージする女子高生の海遊びと言えば、水を掛け合ってキャッキャッとかだ。そういうのが百合百合で好きなんだけどなぁ。
そんな風に疑問を感じていたら咲姫がしたり顔をして僕の方を見る……。なんでわざわざ海に大きく駆け出すポーズを取って……一拍置くからには、これは何かあるぞ……?
「日本海にぃ~? ジャッパ~ン!」
「へいへいジャパーン! ジャパンのシャンパン! シュワシュワしぶきを、海からジャパン!」
咲姫に続き仄香もラップを言いながら海へダイブするのだった。とは言っても十センチほどの深さもなく、少しだけ水しぶきがあがる。一応百合っぽい海遊びの絵面は脳内メモリーに保存出来たけど。
今日の咲姫ちゃんは絶好調だなぁと思って、親心の様にうんうん頷いていると、譲羽が首を傾げる。
「ジャパーン……ジャパン? 日本海……アレレ?」
「もしかして、日本のジャパンと飛び込んだ時のジャッパーンという音を掛けているのか……?」
「ご丁寧な解説ありがとう……。でも、咲姫が滑ったみたいになっちゃったよ……」
これは僕もツッコまずノれば良かっただろうか。変な空気になってしまった。
「えぇ? 滑ってないわよねぇ? 面白かったわよねぇ~?」
「ん……? 滑っただろう?」
「えぅ……」
「いやいや、良いと思うよ。ジャパン、日本海ね」
「なんだか複雑ぅ~」
「う~ん……」
結果、せっかくの咲姫ちゃんギャグが失敗みたいに終わった。でも、彼女のネタに耐性がついてきたのか、仄香も楽しくノるようになってきたと考えれば、結果オーライな気がする。
「さてさてさぁーって。体もあったまってきた事だし、いっちょ遠くまで行くかぁ!」
「えっ? なに? 本気で泳ぐの?」
「もちろんよっ! 海に来たら泳ぎたくてしょうがないっしょ! うぉおおお! 今日からあたしはサメだ!」
「さ、サメ……ダッテ!?」
「そうだよゆずりん! だからいっぱい泳ごう!」
「み、水耐性は無いけれど……ウンディーネの加護を宿して……ガンバル……!」
そう言って二人は、どんどん足下が水にずんずん沈んでいき、やがて、上半身がほとんど見えない位置に。そんな泳げそうな深みのある場所で二人は浮いて漂い始める。
仄香が犬掻きを教えているみたいで大きく声をあげている。仄香の動きに合わせて譲羽がどんどんスムーズな動きを覚えていく。
「あれじゃあ、とても大人のレディーには見えないな」
「成人してもあーいう感じに遊んでそうよねぇ……」
そう言って、子供っぽい二人を見つめる蘭子と咲姫。この子たちはやっぱり保護者寄りだなぁ……。
と思っていると咲姫がニヤリと僕を見て……?
「でもぉ~?、サメは泳ぐのがジョーズ……ってねぇ!」
「ぶふっ……」
「やったぁ! 百合ちゃん笑ったぁ~っ」
「だってさ……ふふふ……っ」
笑わずにいられなかったんだ。スーパー美少女な顔で、くだらないおやじギャグを子供みたいにウッキウキで言うんだもん……。可愛くてしょうがないよ……。
 




