第23話「百合葉の水着と百合」
みんなの水着アピールタイムが終わり。僕はレジャーシートの上からサンダルに履き替え、うしろの美少女たちに振り返る。
「よぉーっし。それじゃあみんな、準備運動をしようか。足つって溺れたら大変だからね」
そう言った僕は泳ぐ気なんか更々無いけれど、一人屈伸を。それで他の子たちも乗っかってくれれば良いのだけれども……。
「ねぇねぇゆずりん。ゆーちゃんはえらそーにあたしらの水着評価してた癖に、自分は脱がないんだよ? ズルくない?」
「卑怯。詐欺。百合葉ちゃんの水着を楽しみにしていたファンに謝るベキ」
「僕のファンって誰さ……」
そうツッコんで、しまったと思った。みんなのしら~と見つめる目。僕がみんなをオトした癖に何言ってるんだ……!
そんな僕に対し鼻で笑った咲姫は、怪しい笑みを浮かべてにじり寄る。
「脱がすしか……なさそうよねぇ? うふふっ、四人のファンに愛される人気者は辛いわねぇ~」
「脱がすか。無理やり。強引に」
「百合同人みたいにしてアゲル」
「ちょっとちょっとちょっとぉっ!」
なんでこういう時には結束力が高いんだ! 胸元のファスナーを両腕で守る僕に迫る四人。その姿は完全に襲う絵面じゃないかっ!
「よぉうっし! それじゃあみんなー! ゆーちゃんのパーカーを脱がそっかぁ! 見られないのは大変だからねっ!」
「じゅ、準備運動が先だよっ!」
「お披露目が先に決まってるのよねぇ~?」
「効率も往生際も悪いぞ」
「アタシが、袖、引っ張る。そうしたら、百合葉ちゃん動けない……フヘヘッ」
「そうぞよぉー? パーカーが伸びる前に降参したらどうかなー?」
「ぐぬぬ……」
逃れる手は無いか……! ここまで来たら、自分で脱ぐという選択肢すら与えられなさそうだ。
だがそこで、コホン咳払いする咲姫ちゃん。
「百合ちゃん、もう潮時よぉ~? 海だけにねぇ。ッテヘ!」
「……」
夏休みの午前。海を眼前に控えた熱い砂浜の上。涼やかな風がびゅうと吹き込んで、
天使が通りました。
あれっ? もしかして天使とは咲姫ちゃんの事では?
「今だぁーっ! ゆーちゃんの力が抜けた今こそチャンス! 捕らえろ捕らえろー!」
「うわっ! 油断した!」
「絶好の好機。蘭子ちゃん、背中をオネガイ」
「分かった。百合葉を抱き締めて逃げられないようにしよう」
「それは羽交い締めだよっ!」
「さぁ~、脱ぎ脱ぎしましょうね~」
「うわぁーっ!」
仄香と譲羽が両腕をガッチリホールド。そして蘭子が僕の両脇から腕を回す……。くっ、強姦みたいで血の気が引きそうだけど、目の前にはよだれを垂らしそうにだらしなくなった咲姫ちゃんの顔! かわいい! かわいい! かわいい……あっ、ヤメてそこはっ!
僕が身をよじり、咲姫の魔の手を避けていると、後ろからちかづく長い黒髪。
「ごめんな百合葉。でも、素直に体を預けてくれれば、すぐ終わるからな?」
「あひゃうっ」
吐息が掛かるように耳打ちされて、変な声が出てしまった。それを見て察した様子の咲姫は、
「百合ちゃんが悪いのよぉ~? 一人だけズルい真似しようとするからぁ」
「分かった、分かったから! 壊れないようにゆっくりね……?」
「あらぁ? そう言われると、なんだかソソるわねぇ~」
「そんなの良いから早く変態咲姫ちゃん!」
「ゆっくりじゃなかったかしら? もぉう、せっかちさんねぇ~」
僕に罵倒され、ようやく僕のパーカーを脱がしにかかる。そうだ、もう逃げようが無いんだ。諦めて身を任せよう。
そうして、一番下までファスナーを下ろした時、仄香がパーカーの半分を引っ張り上げる。
「よぉ~っし! それじゃ~! オープン!」
仄香が袖から脱がし上げ、蘭子の側に。それを避けた蘭子、譲羽と、僕の周りを一回転して、最後に譲羽側の袖を抜き取る。
そんな僕は恥ずかしくて砂浜の照り返し以上に顔が熱くなる……。みんなが僕の正面に周り、文字通り、舐め回すように眺める。仄香なんか、エロ品評のオヤジみたいに顎をさすっている。
「ほぉーう。これはこれは……」
緑、茶、白色のフリル付きチェック。咲姫のと一緒で、胸元から首の後ろで吊り上げているタイプ。だけど、意外と谷間が目立ってしまい、可愛いと思ってよく考えず買ったのが大きな間違いだった。下はパンツタイプだから、まだ恥ずかしく無い部類だけど……。
「良きカナ……特におっぱいが……」
「とぇっても……えっちよねぇ……」
「こいつぁーエロいぜぇ……」
「こらっ! 股をさすろうとするなっ!」
「まあまあっ! どうせこれから濡れる訳だし!? バレないバレない!」
「そういう問題じゃない!」
全く、こんなセクハラが待っているからイヤなんだ……。
「確かに……これは濡れるな」
「ちょっ……それは海水でだよね……?」
「間違った、そそり立ちそうだ」
「心のっ! 心の中のっ!? バカじゃないのッ!」
エグい下ネタ乱舞だった。本当はツッコミもしたくない。僕は清く美しくありたいのに……ううう……。
ただ、ハーレムだなんて作ろうとしている僕の責任だし、皆が楽しんでいるなら……それで良しとしよう……。良しとするしかないんだ……ううう……。




